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人類敗北間近の世界で俺がこみゅりょく♡で無双する件。  作者: バニハ


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第二十三話 変わらないもの② 

 星々が空に瞬き始め、道は薄暗くなった。しかし、月明かりが照らしているので、歩けないということはない。周囲の木々は相変わらず道の両脇に佇んでいるが、空を覆うほどのものではない。

 我とハァトはその後も、街道を行き、そして左右の分かれ道に突き当たる度に片方を選択し、そしてまた選んだ道を進んで分かれ道に突き当たる、という工程を繰り返していた。

 時折道を通り抜ける風の音と、我とハァトが歩くたびに鳴る足音以外は、静かなものだった。そして、もう何度目か分からないくらいの分かれ道を右に曲がった時、まっすぐ伸びる道の先に見える黒々とした木々の壁を見て、ハァトは足を止めた。

 「この森、終わらないな」

「……」

我はそれに返答はしなかった。ただハァトの少し後ろに立ち、次に奴がどのような行動をとるのかのみに興味があった。

「今日はもう休むとしよう。多分道の真ん中で寝ていても、人が来なさそうだけれど、一応気になるから街道から少し離れるぞ」

「……分かった」

 ハァトは日のある時と同じように、道を逸れるとまばらに生えている木の一本を選び、それに背をもたれかけさせながら足を延ばして座り込んだ。

 「ダトヒさんは本当に疲れないんだな。腹も減らなかったりするのか」

目を閉じたまま、ハァトが問いかけてくる。

「……あぁ……。生命活動に必要な諸々は……自分で生成することができる……。仕組みは……お前には理解が難しいだろう……。そのようなスキルを持っている……とだけ言っておこう……」

「本当に、何でもできるんだな……」

感心したような、そして少しばかりの呆れがこもったようなため息をハァトはついた。

 「……なんだ……?」

我はそのハァトの反応に意外さを感じた。

「あぁ、すまない。ただ、それだけなんでもできるダトヒさんでも、面白さを求めて旅をするなんて、と思ってさ」

「……どういうことだ……?」

今度は我が問いかけをする番だった。ハァトは居住まいを正すように身じろぎをすると、我に目線を向ける。我はハァトを正面に据え、少し離れた所に手をかざした。

 すると、地面が少しだけ盛り上がり、椅子のようになった。更にハァトと我の間の地面に窪みができ、そこに周囲の木の枝や木の葉が集まっていく。そうして、その中から赤い炎が顔を出した。

 ハァトはその様子を何も言わずに見つめていた。その後、我が盛り上がった土の椅子に腰掛けて、話を聞く姿勢を見せると、口を開いた。

 「それだけ、色々なことが出来るってさ、どんな気分なんだ?」

「……」

静かな問いかけだった。

 この問いかけに対して、まずは思っているままに答えてみよう、と我は思った。

 「便利ではある……ただ……それだけだ……。……便利であるからといって……それで全てに満足できる……というわけではない……。我の力が……羨ましいのか……?」

「あぁ、羨ましいな……。少なくとも、ダトヒさんのようなスキルがあれば、俺が人生で抱えてきた今までの悩みは全て解消されたと思う」

「……そうか……」

「だから、そんなに色々なことができるダトヒさんでも、現状に満足がいかないっていうなら……」

「……?」

「俺はこの先、一生かけても何かに満足することはないんだろうなって思った」

 焚火の炎は大きくなり、窪みの周囲に光を投げかける。ハァトの顔も、炎の灯りをちらちらと受けている。

 「……我が満足するものと……お前が満足するものは……違うかもしれない……」

「全能に見える力をもってしても、満足できないダトヒさんがいるのに、俺が満足できる人生を歩めると思うかい?」

「……」

 我は押し黙った。なんと声をかけるべきなのだろうか。励ますのか、ハァトの言葉を肯定するのか、それともこのまま黙っていることが、我にとって都合が良いのか。

 「あぁ、別に困らせたかったわけじゃないんだ。変なことを言ってしまって申し訳ない」

ハァトはふと気づいたように言い、頭をポリポリと掻いた。

 我が押し黙ったのは、話の展開に気まずさを感じたわけではなく、単にどのような選択肢を取るべきかどうか悩んだだけだったのだが、ハァトはそれには気づかなかったようだ。

 「俺はさ、俺の人生を良くするために、人探しの依頼を受けて、コンラッドの街の外にやってきたんだ。でも、街の外は行けども行けども、同じような道と森しかない。屋外にいるのに、まるで同じ箇所をずっと巡っているようにすら感じる。ダトヒさんからも、もう何年も出会っていないって聞いて、一応自分の目でも辺りを確認することにしたけれど……。どこかで、引き返すことを考えても良いかな、なんて思ってさ」

ハァトは目を細めながら、焚火を見つめて続けた。

「本当は、探している人の手がかりだけでも見つかったらよかったんだけどな」

「……ふむ……」

 そろそろ頃合いだ、と我は思った。ハァトなりに行動はしたようだが、壁にぶつかっているらしい。そしてその壁が我が予想していたものだった。

 「ハァトよ……」

「ん?」

我の呼びかけに、ハァトは意外そうに顔を上げてこちらを見た。我は自分の声が普段通りに聞こえるように、気を遣いながら更に続けた。

「お前を抱えて……我は空中に飛び上がることができる……。そうすれば……この森と道がどこまで続くのか……お前も理解しやすいだろう……。協力してやろう……」

「本当か? そりゃ助かるよ!」

「ただし……その代わりに……我をコンラッドの街に入らせて欲しい……」

 ぱちり、と焚火の中の枝が爆ぜた。


 「……」

ハァトは少しだけ目を見開いていた。そして、そのまま口をつぐんでいた。その様子を我はじっと見つめていた。すると、その目が次第に細くなっていく。

「どうして、ダトヒさんは街に入りたいんだ?」

「……我は……自分以外の人をもっとよく見たいのだ……随分と……そういった交流もなかったしな……」

 我は声を落ち着かせて言った。しかし、ハァトは首を横に振った。

「ダトヒさん。そもそも、コンラッドの街は、別に俺の許可なく、入ろうと思えば入れるはずだ。どうして、俺に許可をとろうとする?」

「……我の姿は……人の姿からはかけ離れている……。その街の出身であるお前と共になら……騒ぎにはならないだろう……?」

「色々なことが出来るダトヒさんが、変身したり、他者の認識を誤魔化す力を持っていないなんて思えないけれど」

「……ハァトよ……今のお前からは……理由をつけて断ろうという意図しか見えないが……」

「その通りだよ」


 風が吹いて、焚火を揺らした。炎の灯りが、ハァトの目の中で踊る。

「……理由を聞いてもよいか……?」

我は静かに質問を投げかけた。

「……コンラッドの街は、俺にとって大切な人たちがいる。そして、俺はダトヒさんを信頼はしていない。だから、俺が許可を出すことはない」

「……」

我は押し黙った。能力を見せすぎたせいかと思ったが、そうではなかったらしい。

 「信頼……か。信頼というものは……確かに構築に時間がかかるものだ……。お前が我に……それを抱いていないということは頷ける……では……今の話は忘れてもらっていい……。ただ……他のことを聞きたい……」

「どうぞ。答えられるかは分からないけれど」

ハァトの目は鋭いままだった。我の質問に身構えているようにも見える。

 「お前は……コンラッドの街に大切な人たちがいる……と言ったが……その者たちのことは……信頼に値すると考えているのか……?」

我の質問に、ハァトは怪訝な表情を浮かべた。

「そうだな、俺にとっては良い人達だった。だから、彼らの善性に信頼を置いていると言えるだろう」

ハァトの答えを聞いて、更に我は続ける。

「それは……長い期間をかけて構築したものなのか……?」





次回も来週月曜更新!

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