第十五話 休息。そして帰還。
ごめんなさい!
予約投稿したはずなのに投稿できていませんでした!
「排除、ですか?」
エステルは俺の言葉を繰り返した。
「ああ、そうだ。俺はあの街……コンラッドの街の外で、人探しの依頼を受けていたんだ。でもあの白い奴が邪魔をしてきてさ。俺はボコボコにされて……それで……気が付いたらここにいたんだ。でもあいつがどうにか出来るなら、もっと時間をかけて、じっくり街の外を調べることができる。でも、あの白い奴は人間じゃないみたいでさ。奇妙な魔法みたいなのも使ってくるし……俺が真正面からやりあっても勝てないんだよ」
「……」
エステルは俺の言葉を静かに聞いていた。しかし、眉尻を下げながらどんどん申し訳なさそうな顔になってきている。それを見ていて、俺は自分の提案は、エステルに叶えることは難しいのだとわかった。
しかし、それでも諦める気にはなれなかった。
ジェリやルーシーの顔がちらつく。
「エステル、俺もコンラッドの街で、短いながらも色々な経験をしたんだ。その上で、依頼を果たしたいと思っている。こんなに何かをやりたいと思ったことは初めてなんだ。……それでも……やっぱり……難しいのかな」
俺は逸る気持ちを抑え込みながら、静かに問いかけた。
エステルは悲しそうな顔をするばかりだった。そして沈黙していた。
俺にはエステルの表情と沈黙という行動の理由は分からなかった。しかし、彼女にそうさせる何かがあるということは察することはできた。
エステルはどうも人間の心情を推し量ることが難しいように思える。そして、間の抜けたところも散見される。だが、それでも、俺に対しての悪意は感じない。俺は自分の提案が、彼女を困らせているということを認めるしかなかった。やるせないため息が自然と口から漏れる。そして、今度は俺が沈黙することになった。
「和人さん……あの……」
しばらくして、エステルは遠慮がちに俺に話しかけてきた。
「ん……?」
「その……どうして、街の外に行こうとしたんですか」
「……」
似たようなことをルーシーにも聞かれた気がする。危険な場所に報酬も無く赴こうとしてしまったことを説明した時、俺はただルーシーを悲しませてしまった。そのことを思い出して、胸の内がきゅっと締め付けられるように感じた。そうなるのが嫌で、エステルの問いかけには短く答えようと思った。
「……簡単に言えば、困っている女の子を助けてあげたかったっていうだけさ。格好つけたかったっていうのもあると思う」
「……そうですか……。その、私があなたにあげたスキルのせいで、そうなってしまったんでしょうか?」
「……何?」
俺は聞き返した。
俺が依頼を受けて、街の外に行こうとしたのは、俺が勝手にそう思っただけだ。そこにスキルが介入する余地は無かった。少なくとも俺はそう思っている。エステルは何か責任のようなものを感じているのだとしたら、それは誤解だ。
「スキルのせいで、街の外に行く意思決定をした、だなんてだいぶ飛躍しているぜ。それに、俺はあの街にいて、エステルからもらったスキルを上手く使えたのかどうかすら、実感が無いんだ。だから、コンラッドの街での俺の行動は、俺の性格によるものだと思う」
「でもでも、和人さんは、私にスキルを授けられたと思ったから、それを意識して行動したと思うんです。そしてその行動の結果が積み重なって、和人さんの更なる意思決定の要因になることは十分考えられるじゃないですか」
エステルは目をうるうるとさせながらこちらを見つめてきた。黄緑色の縁の眼鏡の奥で、大きな瞳が周囲の星々の光を強く反射したように見えた。
「……そういう風にも考えられるかもしれないけれど、あの状況になったら……俺は同じように考えると思う。だって、俺は別に、依頼を果たすことができるっていう自信があるわけじゃなかったからさ……。自分に遂行する能力があるかどうかよりも、その依頼を受けたいって願望に突き動かされただけなんだ。だから……多分、別のスキルを持っていたとしても、同じことをしていたぜ」
「……そうですか……」
エステルは俺の言葉を聞いて、少しだけ肩を落としながら小さくそう言った。
一方で、俺もエステルにそのような言葉をかけながら、今一度自分のことを振り返っていた。
本当にそうだと言えるか?
意思決定は、完全に自分のものによるものだ、と思いたかった。エステルの言うように、与えられたスキルに引っ張られた可能性は無いか? もちろん、自分がエステルに貰ったらしい、『こみゅりょく♡』とかを上手く発揮できていたのかは、今になってもはっきりはしていない。しかし、心のどこか奥底で、それが効力を発揮することを無意識に期待して、自分の行動を決めてはいなかっただろうか。
もしそうだとしたら、それはエステルの言った通りのことだ。
ジェリやルーシーだけでなく、路地裏の老人パックや、警備員のケビン……そして、あの白い奴と相対して拳を握りながら思ったことも全て、俺が俺と認識しているだけで、エステルから与えられたスキルありきでのものだったとしたら、俺は……俺の想いというのは、一体なんなのだろう。
こめかみが痛くなってきた。自分の親指で、それぞれ頭の両側から押し当てて、ぐりぐりと揉みほぐす。エステルの方にちらりと目をやると、彼女も彼女で、同じように片手でこめかみをぐりぐりとしながら、相変わらず紙に何かを書き込んでいた。その様子を見ていると、次第に痛みが薄らいでいく。
能天気に見える彼女も、彼女なりに何かに悩むことがあるのだろう。そして、俺がそう思うということは、逆もまた然りだ。女神からすれば、俺のような人間が何かに悩んでいることは、小さなことなのかもしれない。
それに……。
脳裏にコンラッドの街を歩き、少ないながらも人々と接した時に、自分が感じていたことを、もう一度思い出した。合う価値観、理解できない価値観、理解されない価値観、そしてそれらと相互作用しながら、最終的には俺は街を出るという行動をとった。でも、そこには嫌な気持ちは無かった。寧ろ、その過程は自分にとって良い気持ちでいられるものだった。
それで良いじゃないか。
俺だって、限られた寿命の中で生きている。当然、良いと思えることだけでその寿命は構成されているわけじゃなかった。特に、コンラッドの街に来る前、高校生で終わった俺の最初の人生は特にそうだった。白い奴と相対して、死ぬかもしれないと思った時、少しだけ後悔をしたことは覚えている。でも、今から思えば、それもひっくるめて、良い気持ちだった。もしエステルからのスキルによって、俺の思考が影響を受けていたとしても、俺は良いと感じた。それは、確かな事実だ。
「エステル……」
「ふぁ、はい?」
紙を目にしてうんうんと唸っていたエステルは、間の抜けた返事をしてこちらを見つめてきた。
「……俺を元の場所に戻してくれ。それはできるか?」
「あ、それはできますよ! えっと……どの段階、どの場所に戻しましょうか? あと、スキルはどうします? もう一回やり直します?」
エステルは笑顔を向けてきた。しかし、俺はその中に、少しだけ違和感を感じた気がした。だが、彼女の返答内容の方に興味が注がれた。
「え、戻す場所や時間も指定できるのか?」
「もちろんです! あれもできない、これもできない、みたいに思われちゃったかもしれませんけど、私、基本的に凄いんですよ!」
得意そうな顔になるエステルの言葉は、俺は全く信じてはいなかったが、今ここでとやかく言うべきことではない。
「いやあ、ありがたいぜ。じゃあ、俺が今から言う時と場所に、戻してくれ」
そして、俺は彼女に指示を出した。
エステルは俺の言ったことを聞いて、得意顔を驚きで歪めた。
そして、再び渋る様な事を言い出した。
しかし、俺は彼女がそれをできると確信していた。
なにせ、その俺の言った状況から、エステルは俺をここに連れてきたのだから。
次回も月曜更新しまーす!




