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人類敗北間近の世界で俺がこみゅりょく♡で無双する件。  作者: バニハ


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第十二話 外の世界。白き者。

 俺の目の前に見えるのは、朝の日の光に照らされている街道であった。街道は高低差なくまっすぐと伸びていて、左右には畑が広がっている。遥か先まで道は続いているが、その先は木々の緑が小さく壁になっている。そこで道が折れているか、もしくは行き止まりか。その場所まで辿り着くにはしばらく歩き続ける必要がありそうだ。

 そう思いながら、俺は前に進みつつ後ろを振り返った。離れたところに、コンラッドの街の鉄の扉が見えた。俺が通りすぎた後、すぐに閉じられたのだ。詰所で言葉を交わした警備兵のケビンが、やたら緊張した面持ちだったことを俺は思い出した。緊張している理由を尋ねても、彼は何となく扉を開けるときは、いつもこのような気持ちになるのだ、としか言わなかった。

 道の先は一向に景色が変わらないので、俺は左右の畑を観察した。

 場所によって植えるものを変えているようで、見たところ様々なものが育てられているようだ。植物に詳しくない俺でも理解できたのは、小麦畑だけだった。

 働いている人は見かけなかったが、コンラッドの街での食事を不自由だと思ったことがないことから、一日のうちに何度かは、街の門を開けて畑の世話をし、そして収穫を街に持ち帰る人間が出入りしていることは想像がつく。つまり、この畑のある地帯は、まだコンラッドの人間が行き来することができる範囲だということだ。

 俺は道の脇にある水路を水が流れる音、風が畑の作物を揺らす音、そして、鳥の鳴き声に耳を傾けながら、歩みを進めていった。

 今のところは、特におかしなことはない。ただ、誰もいないだけだ。静かに、自然の中の音が存在しているだけ……。そうして、俺は街からかなり離れた場所まで来た時に、足を止めた。そこからは道の両側は畑ではなく、見通せないほどに林立した木々の世界となっていた。振り返ると、かなり遠くにコンラッドの街の扉が見える。

 俺は深呼吸した。そして……。一歩足を踏み出した。


 ……。


 なんだ?


 何か、起きたか? それとも、何も起きていない?


 踏み出しても、景色は変わっていない。道の先には、街を出た時から見えている緑の木々の壁がずっと見えている。そして振り返ると……。霧に覆われて、街の扉どころか、視界がすべて白く覆われてしまっていた。

「うわああ!?」

 俺は声を上げて、後ずさりした。突如現れた霧が、ゆらりと動いて俺に手を伸ばしたように思えた。元々向かおうとしていた先は相変わらずなのに、今まで歩いてきた道さえ、一瞬で無くなっている。俺は、動悸する胸を数回の深呼吸でなんとか落ち着かせると、一旦引き返してみることにした。

 手を前に突き出しながら、転ばないように注意しつつ、ゆっくりと足を進める。そして、一歩来た道を戻ってみた。……景色は何も変わらない。白い霧は俺の視界を完全に奪い、ただただ世界に佇んでいた。

 来た道は平坦な道だった。特に躓きそうなものもなかった。

「うああああああ!!」

そのことを思い出した俺は、思いっきり走って戻ってみることにした。予想外の出来事に震えている両足を叱咤するように、大声を上げながら、駆け足で地面をける。

 しかし、視界は全く変わらない。全く先が見えない霧の中を走り続けるのは、想像以上に怖かった。俺は一向に晴れない霧に挑戦することは一旦やめて、道の先にあった緑の木々の壁を確認しようと思った。もしも、そちらから離れていれば、一応距離的には戻れていると判断できる。そうであれば、戻り続ければ、コンラッドの鉄の扉にぶつかることができるはずだ。そう思いながら、俺は再び、街を出た時から向いていた方向へ視線を戻した。


 俺は息が止まりそうになった。


 何かがいた。


 それは、俺よりも背丈が高く、横幅も広かった。全身が白く、ねじくれた木の枝が何本も絡み合い、むき出しの血管のようにも見える胸板をさらして、街道に仁王立ちしていた。白い頭巾つきのマントを被っており、その表情は影になっていて見ることはできない。


 「・・・・・・・」


 何かの音が聞こえた。聞いたことの無い音だった。しかし、俺はその音が、目の前の白い頭巾が発した声だと理解できた。その意味までは分からなかったが。

 「なんだ。今のは挨拶か? それとも別の意味合いの言葉か? 汚い内容じゃないだろうな」

俺は相手を観察しながら、適当に口が動くまま喋った。相手は人型だった。相手の巨躯の横をすり抜けて、逃げるのは難しそうだった。木の枝が絡み合った腕のようなものも見える。あれが人間と同じように自由に動くのなら、脇の下を走り抜けようとしても、少し腕を動かせば簡単に掴まってしまいそうだった。


 「・・・・・・・!!」


 再び先ほどと同じ音がした。今度は強めに聞こえた。それを聞きながら、俺は相手に感情のようなものがあるのではないか、と推察した。全く同じ音を強めに聞いたとき、そこに微かな苛立ちを感じたような気がした。もちろん感覚的なもののため、俺がそう思い込んでいるだけの可能性も十分にあるが。


 「・・・、・・・」


 今度は別の音が聞こえた。その瞬間、今度は俺の耳には声ではなく、明確に何かが破壊されているとわかる音が続いた。


 ビキ……ミシミシ……。


 俺は地面に目を向けた。音は俺の周囲全体から聞こえてきていた。そして、周囲の様子が変化していることを目の当たりにした。

 地面がゆっくりと凹んでいっている。街道に亀裂を作りながら、俺が立っている場所を除いて。周囲半径5メートルぐらいだろうか。地面が丸く、まるで見えない何かに押しつぶされるように、音を立てながら沈んでいく。沈む際に押しのけられた土が、白い頭巾のつま先、のように見える部位の手前に盛り上がっている。

 俺はただただその状況を眺めていることしかできなかった。やがて30センチほど地面が凹んだあたりで、白い頭巾は少しだけ身じろぎをした。地面の軋む音は無くなり、凹みも止まった。間違いなく、こいつが何かやったのだ。

 次にそいつは手のような部位を俺に向けた。俺は身構えた。しかし、何も起こらない。ただ、それについては相手も意外なようだった。まるで人間がするように、首を傾げるような動きをしたあとに、腕組みをしたのだ。

 「興味深いな」

俺の声ではなかった。とすれば、目の前の何かが発したとしか思えない。

「人間の言葉が話せるんだな」

すかさず返答しながら、聞こえてきた声について、俺は違和感を覚えた。

 言語としては聞き取れる。しかし、どこかぎこちなく、人間が発したとは思えないような響きだった。枯れ木の間を吹き抜ける風のような、胸の内をかき乱すような音だった。

 「人の声を発したのは久しぶりだ」

「そうか。顔を合わせる誰かがいないところに住んでいるのか」

「普段は、相手の思考に直接意思を届けるのだ」

白い頭巾は、そう言うと再び手を前にかざした。そして、ゆっくりと下ろす。

「お前には、我の意思が届かぬ。それ故、こうして声を出さなければならぬ。……それに……」

そこで言葉を切った相手は、凹んだ地面を見渡してから続けた。

「お前には、我の力が作用せぬ。何かがお前と我の間に存在している。それが壁のように、我の力を通さぬ。加護か、それとも別の法則か……お前は何者だ」

「それはこっちが聞きたい。だが、敢えて先に名乗ってやろう。俺はハァトだ。コンラッドの街の冒険者だ。街の外にでた行方不明者を探すために、ここに来たんだ」

俺は最初にこの街に来た時のことを思い出していた。相手が人数が多かったり、体格が立派だったりすると、とりあえずは話をして時間を稼ぐことしか、自分はできないのだ。会話している間は死ぬことはない。だが、相手がそれをやめてしまえば、ねじくれた木の枝の集合体のような腕が、俺の頭を殴り飛ばす可能性が高くなる。今はとにかくそれだけは避けたいとしか、思っていなかった。

 だが、思惑通りにならなかったことを、俺は相手の次の動きで理解することになる。

「ああ……。お前はエステルの祝福を受けているのか。なるほど。……では、これならどうだ」

次の瞬間、そいつは腕を振り上げると、巨躯に似合わぬ速度で、俺に向かってきたのだ。



来週も月曜日更新です!

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