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アストレア学園物語  作者: 愛庵苦労


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7/9

崩れ行く仮面

◆オリアナ視点

事件の翌日。

私は鏡の前で微笑みを作っていた。


「完璧よ。誰も疑っていない」


そう言い聞かせる。

だが――胸の奥に、昨日にはなかった“ざらつき”が残っていた。


(カールが気づくなんて……予想外だったわ)


彼はただの騎士志望の平民だと思っていた。

なのに、魔法薬の匂いを嗅ぎ分けるなんて。


「……邪魔ね」


私は鏡に映る自分の瞳を見つめる。

その奥に、焦りが滲んでいた。


(でも、まだ終わりじゃない。

 アイリーンを追い詰める方法はいくらでもある)


そう思った瞬間――


「オリアナ嬢。少し話がある」


背後から声がした。

振り返ると、ケビンが立っていた。


「まあ、ケビン様。どうなさいましたの?」


「昨日の件。

 君は“何も知らない”と言ったね」


「ええ、もちろんですわ」


ケビンは微笑まなかった。

その瞳は、鋭く、冷たく、すべてを見透かすようだった。


「……君の言葉には、いつも“余計な一言”がある。

 それが気になってね」


胸が跳ねた。


(この男……気づいてる?)


ケビンは一歩近づく。


「オリアナ嬢。

 君は――何を隠している?」


その問いに、私は笑顔を崩さず答えた。


「隠す? わたくしが?

 まあ、失礼ですわね」


だが、心臓は激しく脈打っていた。


◆アイリーン視点

私は中庭のベンチで、昨日の出来事を思い返していた。


(あのスープ……本当に私が触れていたら……)


怖さが遅れて押し寄せる。

手が震えた。


そこへ、キッドがやってきた。


「アイリーン。

 昨日の鍋、調べたよ」


「どうだったの……?」


「魔法薬の痕跡は薄かった。

 つまり、混入したのは“直前”だ」


「直前……?」


「配膳が始まる前、ほんの数分。

 その時間に鍋に近づけた人間は限られてる」


キッドは私の目を見た。


「アイリーン。

 君は……誰かに恨まれてる?」


「わ、分からない……」


「じゃあ、誰かが“君を利用して殿下を狙った”可能性もある」


「殿下を……?」


胸が痛くなる。


(そんな……殿下を巻き込むなんて……)


キッドは続けた。


「でもね、もっと気になることがある」


「え……?」


「君の魔力だよ」


またその話。

私は魔法が苦手だと思っていたのに。


「昨日、君が鍋に触れそうになった瞬間……

 君の魔力が“反応”した」


「反応……?」


「まるで、危険を察知したみたいに」


私は息を呑んだ。


(そんなこと……あるの?)


キッドは真剣な表情で言った。


「アイリーン。

 君の魔力は、ただの平民のものじゃない」


その言葉が胸に刺さる。


◆オリアナ視点:揺らぎ

ケビンと別れたあと、私は人気のない廊下を歩いていた。


(ケビン……あの男、侮れない)


焦りが胸を締めつける。


(でも、まだ証拠はない。

 私が動揺しているように見せなければ……)


そう思った瞬間――


「オリアナ様」


背後から声がした。


振り返ると、エミリア様が立っていた。

泣いたあとのように目が赤い。


「エミリア様……ご機嫌麗しゅう」


「オリアナ……あなた、何か隠しているでしょう?」


心臓が止まりそうになった。


「な、何を……?」


「昨日のスープの件。

 あなた、妙に落ち着いていたわ」


(まずい……!)


エミリア様は震える声で続けた。


「わたくし……殿下に嫌われたくないの。

 だから……お願い。

 わたくしを利用しているのなら、やめて」


その言葉に、私は一瞬だけ言葉を失った。


(利用……?

 この子、気づいて……)


エミリア様は涙をこぼした。


「オリアナ……あなたは、わたくしの友達でしょう……?」


その瞬間、胸の奥がざわついた。


(友達……?

 そんなもの、最初から……)


だが、言葉が出なかった。


◆アイリーン視点

放課後、私は図書塔へ向かった。

昨日の出来事を整理したかったから。


階段を上がる途中、誰かの気配を感じた。


「……誰かいるの?」


返事はない。

だが、確かに“視線”を感じる。


(また……?)


胸がざわつく。


そのとき――


「アイリーン」


振り向くと、ケビンが立っていた。


「驚かせてすまない。

 君に伝えておくべきことがある」


「な、なに……?」


ケビンは静かに言った。


「黒幕は――もうすぐ尻尾を出す。

 そのとき、君は“中心”に立つことになる」


「中心……?」


「覚悟しておけ。

 君の魔力と、君自身の存在が……

 この学園の均衡を揺るがす」


その言葉に、背筋が震えた。


(私が……中心?

 どうして……?)


ケビンは続けた。


「そして――黒幕は、君のすぐそばにいる」


「えっ……!」


その瞬間、階段の上から誰かがこちらを見下ろしていた。


スカートの裾。

金色の髪。


オリアナだった。


だが――

その瞳は、昨日までの“取り巻きの顔”ではなかった。


冷たく、鋭く、そして――

何かを決意した者の目。


(この人が……黒幕……?)


胸が強く脈打つ。


オリアナは微笑んだ。


「アイリーンさん。

 そろそろ――終わりにしましょう?」


その声は、甘く、そして恐ろしく静かだった。

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