欺く微笑み
◆オリアナ視点
学園の裏庭。
古い噴水の縁に腰掛けながら、私は小さく笑った。
「エミリア様は感情的すぎるのよ。
あれじゃあ、殿下の心は離れていくばかり」
私は、彼女の“親友”を演じている。
でも本当は――彼女の立場なんてどうでもいい。
欲しいのは、もっと上。
もっと光の当たる場所。
「殿下の婚約者の座……
エミリア様が座れないなら、次は誰が座ると思う?」
答えは決まっている。
“次点”である私だ。
だから――邪魔者は排除する。
「アイリーン。
あなたが殿下の視線を奪った瞬間から、私はあなたを許さない」
私はポケットから小瓶を取り出す。
透明な液体が揺れた。
「次は……“事故”じゃ済まないわよ」
◆アイリーン視点
午後の授業が終わり、私は中庭のベンチで深呼吸をしていた。
(黒幕……本当にいるのかな)
ケビンの言葉が頭から離れない。
「アイリーン」
振り向くと、魔法師団長の息子 キッド が立っていた。
「き、キッド……?」
「君、最近魔力の流れが乱れてる。
嫌がらせのせいで精神が不安定になってるんじゃないか?」
「魔力……? 私、魔法なんてほとんど使えないのに」
「だから気づかないんだよ。
君の魔力は“普通じゃない”。
抑え込んでるだけで、流れは強い」
キッドは真剣な目で私を見つめる。
「君を狙ってるのは、魔力に気づいた誰かかもしれない」
「えっ……!」
魔力が理由――?
そんなこと、考えたこともなかった。
そこへ、カールが駆け寄ってきた。
「アイリーン! 一緒に帰ろう!」
「カール……」
キッドは肩をすくめた。
「ま、幼馴染くんに任せるよ。
でも気をつけて。
“次の一手”は、たぶんもう動いてる」
その言葉が胸に刺さる。
◆オリアナ視点:次の一手
私は、学園の調理実習室に忍び込んでいた。
明日の昼食は、学園全体での“特別ランチ”。
生徒たちが順番に配膳を手伝う。
そして――明日の担当はアイリーン。
「ふふ……完璧ね」
私は小瓶の液体を、アイリーンが使う予定のスープ鍋に数滴垂らした。
毒ではない。
でも、強烈なアレルギー反応を起こす“魔法薬”。
「平民の子が、殿下の前で倒れたら……
どんな噂が広がるかしら」
殿下の信頼を失い、学園に居づらくなる。
エミリア様は泣いて殿下に縋る。
私は慰めるふりをして、殿下の隣に立つ。
完璧な計画。
「さあ、アイリーン。
あなたの“終わり”はすぐそこよ」
◆アイリーン視点:胸騒ぎ
帰り道、カールと並んで歩きながらも、胸のざわめきは消えなかった。
「アイリーン、元気ないな……」
「うん……なんだか、嫌な予感がするの」
「大丈夫だよ。俺がいる」
カールの言葉は優しい。
でも――
(守られてばかりじゃ、だめだ)
私は小さく拳を握った。
「カール。
私……強くなりたい。
誰かに守られるだけじゃなくて、自分で立ちたい」
カールは驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「……そういうところ、好きだよ」
「えっ……?」
「なんでもない!」
カールは真っ赤になって走り出した。
私はその背中を見つめながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
でも同時に――
背筋を冷たいものが走る。
(明日……何かが起きる)
その予感は、間違っていなかった。




