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アストレア学園物語  作者: 愛庵苦労


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5/9

欺く微笑み

◆オリアナ視点

学園の裏庭。

古い噴水の縁に腰掛けながら、私は小さく笑った。


「エミリア様は感情的すぎるのよ。

 あれじゃあ、殿下の心は離れていくばかり」


私は、彼女の“親友”を演じている。

でも本当は――彼女の立場なんてどうでもいい。


欲しいのは、もっと上。

もっと光の当たる場所。


「殿下の婚約者の座……

 エミリア様が座れないなら、次は誰が座ると思う?」


答えは決まっている。

“次点”である私だ。


だから――邪魔者は排除する。


「アイリーン。

 あなたが殿下の視線を奪った瞬間から、私はあなたを許さない」


私はポケットから小瓶を取り出す。

透明な液体が揺れた。


「次は……“事故”じゃ済まないわよ」


◆アイリーン視点

午後の授業が終わり、私は中庭のベンチで深呼吸をしていた。


(黒幕……本当にいるのかな)


ケビンの言葉が頭から離れない。


「アイリーン」


振り向くと、魔法師団長の息子 キッド が立っていた。


「き、キッド……?」


「君、最近魔力の流れが乱れてる。

 嫌がらせのせいで精神が不安定になってるんじゃないか?」


「魔力……? 私、魔法なんてほとんど使えないのに」


「だから気づかないんだよ。

 君の魔力は“普通じゃない”。

 抑え込んでるだけで、流れは強い」


キッドは真剣な目で私を見つめる。


「君を狙ってるのは、魔力に気づいた誰かかもしれない」


「えっ……!」


魔力が理由――?

そんなこと、考えたこともなかった。


そこへ、カールが駆け寄ってきた。


「アイリーン! 一緒に帰ろう!」


「カール……」


キッドは肩をすくめた。


「ま、幼馴染くんに任せるよ。

 でも気をつけて。

 “次の一手”は、たぶんもう動いてる」


その言葉が胸に刺さる。


◆オリアナ視点:次の一手

私は、学園の調理実習室に忍び込んでいた。

明日の昼食は、学園全体での“特別ランチ”。

生徒たちが順番に配膳を手伝う。


そして――明日の担当はアイリーン。


「ふふ……完璧ね」


私は小瓶の液体を、アイリーンが使う予定のスープ鍋に数滴垂らした。


毒ではない。

でも、強烈なアレルギー反応を起こす“魔法薬”。


「平民の子が、殿下の前で倒れたら……

 どんな噂が広がるかしら」


殿下の信頼を失い、学園に居づらくなる。

エミリア様は泣いて殿下に縋る。

私は慰めるふりをして、殿下の隣に立つ。


完璧な計画。


「さあ、アイリーン。

 あなたの“終わり”はすぐそこよ」


◆アイリーン視点:胸騒ぎ

帰り道、カールと並んで歩きながらも、胸のざわめきは消えなかった。


「アイリーン、元気ないな……」


「うん……なんだか、嫌な予感がするの」


「大丈夫だよ。俺がいる」


カールの言葉は優しい。

でも――


(守られてばかりじゃ、だめだ)


私は小さく拳を握った。


「カール。

 私……強くなりたい。

 誰かに守られるだけじゃなくて、自分で立ちたい」


カールは驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。


「……そういうところ、好きだよ」


「えっ……?」


「なんでもない!」


カールは真っ赤になって走り出した。


私はその背中を見つめながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。


でも同時に――

背筋を冷たいものが走る。


(明日……何かが起きる)


その予感は、間違っていなかった。

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