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アストレア学園物語  作者: 愛庵苦労


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連立する影

エミリア様が泣きながら去っていったあと、図書塔には重たい沈黙が落ちていた。


私は胸の奥がざわざわして、落ち着かない。

殿下の優しさも、カールの心配も、ケビンの冷静さも――

全部が、今の私には重すぎた。


「……私、どうしたらいいんだろう」


思わず漏れた声に、カールがそっと寄り添う。


「アイリーン。無理に答えを出さなくていい。

 ただ……俺は、お前が傷つくのが嫌なんだ」


その言葉は優しくて、胸に刺さる。


殿下は静かに私を見つめていた。


「君を守ると言ったのは本気だよ。

 でも……君が望まないなら、距離を置くこともできる」


「そ、そんな……!」


距離を置く――

その言葉が、なぜか胸を締めつけた。


(どうして……? 私は殿下に特別な感情なんて……)


自分の心が分からない。

そんな私の混乱を見透かしたように、ケビンが口を開いた。


「アイリーン。

 嫌がらせは、まだ終わらないと思う。

 むしろ――これからが本番だ」


「……え?」


ケビンの瞳は、冷たく鋭かった。


「エミリア様は確かに感情的だが、彼女は“計画的な嫌がらせ”をするタイプではない。

 今日の対決も、衝動的だった」


「じゃあ……誰が?」


「黒幕は別にいる。

 エミリア様の感情を利用し、君を追い詰めようとしている者が」


その言葉に、背筋が冷たくなる。


「そんな……誰が、私なんかを……」


「君“だから”だよ」


ケビンは淡々と言った。


「殿下が気にかけている。

 カールも守ろうとしている。

 キッドも興味を示している。

 ――君は、学園の“中心”に立ち始めている」


「わ、私はそんなつもり……!」


「つもりがなくても、周囲はそう見ない」


ケビンの言葉は厳しいけれど、真実味があった。


殿下が静かに続ける。


「ケビンの言う通りだ。

 君を排除したい者がいる。

 その者は、エミリアを利用しているだけだ」


「殿下……心当たりがあるんですか?」


殿下は少しだけ視線を伏せた。


「……まだ確証はない。

 だが、僕の周囲に“君を嫌う理由がある者”は限られている」


その言い方が、逆に不安を煽る。


(殿下の周囲……?

 王族、貴族、側近……

 そんな人たちが、私を……?)


胸が苦しくなる。



学園の裏庭。

人目のない古い噴水のそばで、ひとりの少女が薄く笑っていた。


「……エミリア様は使いやすいわね」


声の主は――エミリアの取り巻き、オリアナ。


彼女の瞳は、普段の従順な色ではなかった。


「殿下が平民の子に気を取られるなんて、あってはならないこと。

 エミリア様が殿下と結ばれれば、私は“次の席”に座れるのに」


オリアナは小さく舌打ちした。


「なのに……あの子が現れたせいで、全部が狂った」


その声には、嫉妬と野心が混ざっていた。


「次は……もっと決定的な“事故”を起こさないとね」


風が吹き、彼女のスカートが揺れる。

その影は、まるで蛇のように地面を這っていた。



図書塔を出たあとも、胸のざわめきは消えなかった。


(黒幕……誰かが私を追い出そうとしている……?)


怖い。

でも、逃げたくない。

逃げたら、もっとひどいことが起きる気がする。


カールがそっと私の手を握った。


「アイリーン。

 何があっても、俺が守るから」


その温かさに、涙が出そうになる。


殿下は少し離れた場所で、静かに私を見つめていた。

その瞳には、言葉にできない想いが宿っている。


ケビンは冷静に言った。


「アイリーン。

 君はもう、巻き込まれている。

 だから――覚悟を決めるんだ」


覚悟。

そんな大げさな……と思いたかった。


でも、胸の奥で何かが囁く。


(逃げちゃいけない)


その瞬間、学園の鐘が鳴り響いた。


まるで、これから始まる嵐を告げるように。

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