第94話 反逆者の隠れ家――世界の裏核
王都の地下水路を抜け、冷たい夜風が吹き抜ける郊外の廃教会。
そこが、ディオルがかつて密かに用意していた隠れ家だった。
張り詰めていた死線の空気が解け、一行は崩れ落ちるように床に座り込む。
「少し、痛みますよ。『ハイヒール』」
リュシアが両手をかざし、穏やかな光の魔力を展開する。
回復に特化した彼女の魔法が、ディオルの深い傷や、限界まで魔力を酷使したアルトたちの肉体を優しく包み込み、癒していく。
堂内に、深い安堵の吐息が漏れた。
だが、クラウスだけは鋭い視線を緩めず、壁際で静かに佇む光の騎士を睨み据えていた。
「助かったのは事実だが、腑に落ちない。なぜ、完璧な正義を体現するはずの光刃が、国に牙を剥いた」
クラウスの問いに、ルクスは伏せていた目をゆっくりと開いた。
「私が信じていた正義が、ただの欺瞞だと知ったからだ。お前たちは知っているか。我々騎士団が振るう魔器が、何から作られているかを」
堂内の空気が、ふっと冷たくなる。
ルクスは血の滲むような声で、世界の深層を吐き出した。
「魔器の素材は、異能者だ。過負荷で結晶化した使用者もまた、秘密裏に再利用されている。この国は、異能者を資源として消費することで成り立っているんだ」
「……倫理が破綻している」
クラウスが戦慄したように呟く。だが、彼の分析型の思考が即座に一つの答えを導き出していた。
「だが、だからこそ辻褄が合うのか。毎年学園から卒業生が入るのに、騎士団の総数が増えすぎない理由が」
学園の実態が、単なる教育機関ではなく、異能者の選別と回収装置であったという事実。
「その通りだ」
ルクスはさらに深く、国家の闇を暴く。
「国の上層部しか知らない国家機密の鉱山がある。大結晶だ。そこで異能者たちは特殊な魔法陣による儀式で鉱石に変えられ、魔器として成形される」
「なるほどな。俺たち異能者が国に集められ、二度と帰ってこない理由ってわけだ」
手首をさすりながら、カインが自嘲気味に呟く。
その言葉に、アルトがギリッと強く拳を握りしめた。
守れなかった命。理不尽に奪われた者たちが、国の兵器として再利用されているというおぞましい現実。
「ならば、そこを潰す」
傷の癒えかけたディオルが、低く、だが絶対の意志を込めて言い放つ。
大結晶を破壊し、囚われた異能者たちを解放する。それが、この理不尽な構造を打ち砕く唯一の手段だった。
「随分と、面倒なことになったな」
重苦しい沈黙を破ったのは、窓枠に腰掛けて夜空を眺めていたレインだった。
彼は気怠げに首を鳴らし、振り返る。
「世界を救うとか、正義の味方になるとか、そういう大層な話ならパスだ。俺は使えるものは使うし、面倒事はごめんだ」
レインはそこで言葉を切り、真っ直ぐに仲間たちを見回した。
「だが。あいつらの勝手な都合で、俺の周りのもんが素材扱いされるのは、どうにも気に食わない」
理屈ではない。大義でもない。
ただ、自分の手の届く範囲の人間が、不条理に踏みにじられることだけは絶対に許容しない。
「いいぜ。その大結晶とやらの前提ごと、ただ壊すだけだ」
レインの不敵な言葉に、ルクスとカインが微かに口角を上げる。
反逆者たちの次なる標的が、定まった。




