第79話 鋼鉄の軌道――見えざる重圧
荒野を切り裂くように疾走する、王国軍の巨大な装甲列車。
その行く手を遮るように、前方の線路と先導車両に向かって、突如として大規模な爆発と土煙が巻き起こった。バルガス率いるレジスタンス本隊による、派手な奇襲攻撃だ。
列車の急ブレーキが軋むような金属音を立て、護衛部隊の意識が完全に前方へと引きつけられる。
その一瞬の隙を突き、レインたち少数精鋭のチームは列車の最後尾へと張り付き、いとも容易く内部への侵入を果たした。
「前方の車両に、特務の兵士が多数展開しています。待ち伏せの陣形です」
薄暗い車両の通路で、ミレアが目を閉じたまま静かに告げる。
「上等だ。立ち止まらずに抜けるぞ」
レインの指示に、アルトが先陣を切って駆け出した。
連結部の扉を蹴り破った瞬間、待ち構えていた特務部隊から無数の銃弾と魔力弾が放たれる。だが、それらがアルトの身体を穿つことはなかった。
レインが後方から無造作に手をかざし、弾道を空間ごとズラす。
すべての攻撃が不自然に軌道を曲げられ、通路の壁や天井を虚しく削り取っていく。
「なっ、当たらない!?」
敵が動揺した隙に、ユークが床から岩の棘を隆起させて兵士たちの体勢を崩し、ラグが圧縮した暴風の塊を叩き込んで陣形を粉砕する。
そこへ、リュシアの魔法で身体能力を極限まで強化されたアルトが飛び込み、雷を纏った拳で次々と兵士たちを沈めていった。
一切の無駄がない連携。
ミレアの探知によって敵の配置を完全に先読みしている彼らにとって、狭い通路での戦闘はもはや足止めにすらならなかった。
次々と車両を制圧し、ついに一行は目的の心臓が積載されているであろう、中枢車両の分厚い鋼鉄の扉の前へと辿り着く。
「待ってください」
扉の奥を探知しようとしたミレアが、不意に顔をしかめて後ずさった。
「おかしいです。奥に膨大な魔力を感じますが、それ以上に、空間そのものがひどく歪んでいるような、異様な重さを感じます」
その言葉に、クラウスが険しい顔で息を呑む。
だが、ここで引き返す選択肢はない。アルトが覚悟を決めて、分厚い扉に蹴りを叩き込んだ。
ひしゃげた扉が吹き飛び、中枢車両の光景が露わになる。
車両の中央には、特級の魔力を放つ巨大な結晶が鎮座していた。しかし、それ以上に一行の目を釘付けにしたのは、結晶の前に立ち塞がる岩山のような影だった。
分厚い重装甲に身を包んだ、見上げるほどの巨漢。
その手には、床に突き立てられた身の丈ほどもある巨大な盾の魔器が握られている。
そして次の瞬間。
一歩踏み込もうとしたアルトとユークの身体が、見えない巨大な手に上から押さえつけられたかのように、激しい音を立てて床に叩きつけられた。
「がはっ……!?」
「な、んだ……これ、身体が」
後方にいたリュシアやミレアも、たまらずその場に膝をつく。レインでさえも、異常な重さに顔を歪めて姿勢を低くせざるを得なかった。
重力。それは巨大な盾の魔器が放つ、空間そのものを制圧する絶対的な圧だった。
「鼠が入り込んだか」
巨漢の騎士が、兜の奥で低い声を響かせる。
それは、ルクスのような鋭い剣気ではない。ただそこに存在するだけで周囲のすべてを圧殺する、岩山のような威圧感。
「此処から先は、地を這うことすら許さん。我が盾と土の前に、這いつくばったまま潰れるがいい」
七騎士が一人、不動ガドラム。
圧倒的な防御と重力の圧を司る最強の盾が、反逆者たちの前に絶望の壁となって立ち塞がった。




