第78話 人工神の心臓――強奪作戦
作戦司令室の空中に、クラウスが持参したデータが投影された。
若者たちを部品として消費する悍ましい養殖システムの全貌と、国家規模の巨大兵器『デミウルゴス』の設計図。
詳細なデータに目を通すにつれ、百戦錬磨のレジスタンス幹部たちの顔から血の気が引いていく。
「人工の神、だと。複数の異能を同時に制御し、単体で戦略級の殲滅力を誇る特製ゴーレム。これを量産でもする気か」
バルガスが、信じられないものを見るように唸る。
「いいや、量産の必要はない。こんなふざけた代物が一体でも完成すれば、周辺諸国の戦力など容易く蹂躙できる。国が本気で世界大戦を引き起こし、武力による世界統一を企てているという噂はあったが、これほど具体的な兵器として形を成しつつあるとはな」
ディオルが険しい顔で腕を組んだ。
世界統一という野望。そのために、国は秘密裏に異能者を狩り集め、巨大兵器の動力源として命をすり潰していたのだ。
「だが、このデータを見る限り、デミウルゴスの器自体はすでに完成間近のようだが、まだ稼働には至っていないはずだ。そうだろう、クラウス」
「はい。設計図の解析結果から推測するに、これほど複数の特殊な魔器を同時に駆動させるには、既存の魔力では到底足りません。規格外の魔力を放つ、特級の心臓が必要です」
「その通りだ。そして、俺たちはその心臓の行方を掴んでいる」
ディオルが作戦机に一枚の広域マップを広げ、あるポイントを指差した。
「軍の内部に潜り込ませている間諜からの情報だ。国は数日後、辺境の特殊実験施設で精製された心臓――規格外の魔力を秘めた巨大な結晶を、デミウルゴスの建造が行われている要塞都市へと移送する。手段は、厳重な防衛機構を備えた軍用装甲列車だ」
その言葉に、室内の空気が一気に張り詰めた。
「その結晶が運び込まれ、デミウルゴスに組み込まれれば、もはや俺たちの戦力では太刀打ちできなくなる。世界大戦の火蓋が切られるのは時間の問題だ」
バルガスが拳を鳴らす。
「つまり、その装甲列車を襲撃して、心臓を奪うかぶっ壊すかして、計画を頓挫させるってわけだな」
「そうだ。だが、移送の護衛には軍の精鋭部隊が配置される。まともに正面からぶつかれば、被害は免れない」
ディオルが視線をレインたちへ向けた。
「そこで、お前たちの出番だ。俺たちレジスタンスの本隊が、ルートの途中で大規模な陽動を仕掛け、護衛部隊の目を釘付けにする。その隙に、少数精鋭であるお前たちが列車の中枢へ潜入し、心臓を抑える。やれるか」
七騎士と渡り合った彼らの実力を信頼しての、極めて危険な潜入任務。
ユークとアルトが顔を見合わせ、力強く頷く。クラウスとリュシア、ミレアも迷いのない瞳でディオルを見返した。
そして、レインが静かに口を開く。
「その巨大兵器が完成すれば、国は俺たちをさらに執拗に狙ってくる。俺たちの安全を確保するためにも、ここで心臓を潰して計画ごと終わらせるのが一番手っ取り早い」
世界を救うためでも、大義のためでもない。ただ自分たちの生存を脅かす理不尽を、徹底的に排除するための決断。
「相変わらず可愛げのない理屈だが、頼もしいぜ」
ディオルが口角を上げ、豪快に笑った。
王国の野望を食い止めるための、装甲列車襲撃作戦。
反逆者たちとレジスタンスの、国家の命運を懸けた共同ミッションがいよいよ幕を開ける。




