第71話 王国の最高戦力――静かなる理不尽
静寂が支配する地下施設に、一歩、また一歩と規則正しい足音が響く。
現れたのは、白銀の甲冑に身を包んだ男。王国の最高戦力、七騎士が一人、光刃ルクス。
彼は部屋の中央まで歩を進めると、不意に足を止めた。
その視線の先にあるのは、肉体を結晶に変えられ、管に繋がれた若者たちの姿。
「……っ」
ルクスの端正な顔が、一瞬だけ苦痛に歪む。
知識としては知っていた。だが、凄惨な現場を目の当たりにした衝撃は、騎士としての理性を揺さぶるに十分なものだった。
しかし、彼は数秒後にはその迷いを強引に押し殺し、冷徹な瞳でレインたちを射抜いた。
「これが、あんたの守る国の正義なのか! 人を部品にして、何が平和だ!」
アルトが血を吐き出すような声で叫ぶ。
ルクスは、静かに腰の長剣へと手をかけた。魔器としての能力を解放していない、純粋な業物としての剣。
「黙れ。これを見ても、私の心は揺らがん。少数の犠牲で数百万の民が魔物に怯えず暮らせるなら、私は喜んでその泥を被ろう。それが、王国の剣たる私の正義だ」
ルクスの全身から、膨大な光の魔力が立ち昇る。
そのプレッシャーを前にして、レインが静かに一歩前へ出た。
「こいつは次元が違う。俺一人でも、お前たちだけでも防ぎきれない」
武器を持たない両手を自然に下ろしたまま、平坦な声で告げる。
「全員で潰すぞ」
その言葉を合図に、反逆者たちの連携が動いた。
『ブラストウィンド』
先陣を切ったのはラグ。不可視の暴風がルクスを包み込み、視界と姿勢を奪いにかかる。
しかし、ルクスは風の中に立たされたまま、一切の動揺を見せなかった。
『シャイン・フレア』
ルクスが空いた左手で指を鳴らす。
瞬間、地下施設全体が網膜を焼き切るほどの強烈な閃光に包まれた。
「くそっ、目が……!」
ラグが顔を覆う。ユークやリュシアも反射的に目を閉じてしまう。
光属性魔法による、純粋かつ極めて練度の高い視界奪取。
だが、その閃光の中でも視界を失わない者が二人いた。
「アルト! 正面から真っ直ぐ来ます!」
目を閉じたまま魔力の動きを捉えていたミレアの鋭い声。
アルトが目を細め、勘と気配だけを頼りに全身のバネを解放して前へ踏み込む。
次の瞬間、閃光を切り裂いてルクスの白銀の剣がアルトの首筋へと迫っていた。魔法による身体強化と、洗練され尽くした踏み込み。
アルトの反応速度でも、回避は間に合わない。
だが、刃がアルトの皮膚に触れる数ミリ手前で、その軌道が不自然にズレた。
甲高い金属音が、地下施設に鋭く反響した。
レインの干渉によって軌道を逸らされたルクスの剣が、空を切って床の鉄板に深く突き刺さる。
「……空間の干渉か。厄介な異能だ」
ルクスが微かに眉を寄せる。
その決定的な隙に、アルトの拳がルクスの胴体を捉えに行く。
「おおおおおッ!」
リュシアの支援で限界まで強化されたアルトの正拳突き。雷光が拳を包む。
だが、ルクスは床に突き刺さった剣の柄を軸にして軽やかに宙を舞い、その重い一撃を紙一重で回避する。そのまま空中で反転し、光の魔力を纏わせた重い蹴りをアルトの肩口に叩き込んだ。
「がはっ……!」
アルトが吹き飛ばされ、カプセルの壁面に激突する。
空中にいるルクスに向け、ユークが鋭い岩の槍を下から突き上げるが、ルクスは空中で剣を振るい、圧縮した光の魔力を斬撃として飛ばして岩槍を容易く粉砕し、音もなく着地した。
無駄な動きが一切ない。
魔器の力に頼るまでもない、圧倒的な魔法の練度と剣技。
「……これが、七騎士」
ユークが冷や汗を流す。
六人がかりの連携。それでもなお、彼らはルクスの足元にすら届いていなかった。




