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無属性と判定された俺、実は世界の理から外れた【例外】でした。〜攻撃が当たらない上に魔法陣すら掴める俺が、聖騎士を圧倒する  作者: 真波 蓮


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第64話 砕かれる封印――帰れぬ夜明け


 処置台を覆う青白い光のドーム。


 異能者を厳重に隔離するための、強固な封印術式。通常であれば、幾重にも編み込まれた魔力回路を一つずつ解析し、解除式を流し込まなければならない。


 だが、レインにその理屈は必要なかった。


 無造作に右手を伸ばす。空中に浮かぶ光の魔法陣の端を、物理的な物体として掴んだ。


 大気が悲鳴を上げる。


 そのまま腕を引き剥がすように振るうと、絶対の強度を誇るはずの封印が、薄いガラスのようにあっけなく砕け散った。


 魔力の残滓が雪のように舞い落ちる中、台座に横たわっていた少女が目を開く。


 薄紫色の瞳。


 ミレアの意識が覚醒すると同時、彼女の探知能力が広域の情報を読み取った。崩落した天井。壁に磔にされた特務兵。部屋を満たす異常な魔力干渉の痕跡。目の前に立つ少年が、自分のためにどれほど規格外の力を振るったのか、痛いほどに理解できてしまう。


「どうして」


 震える声が漏れた。


 国に追われ、誰にも関わらないように生きてきた。自分は災厄を呼ぶ存在だと思っていた。


「頼まれたから来ただけだ。立てるか」


 レインの声はぶっきらぼうで、感傷を含んでいない。


 だが差し出された手はひどく真っ直ぐで、ミレアの瞳から涙が溢れ落ちた。


 その背後で、クラウスは部屋の隅にしゃがみ込んでいた。


 視線の先にあるのは、砕けた装置の足元に散らばる透明な結晶の欠片。


「……あり得ない」


 顔から血の気が引いていた。


「クラウス、どうした。早くずらかるぞ」


「ラグ、これを見てくれ。この結晶が放つ微弱な魔力の波長、人間のものと極めて酷似している」


 声が、普段の冷静さを欠いて微かに震えていた。


(魔器の素材となる鉱石。異能者を管理する施設。そして、この結晶。もし、これが人間を材料に抽出されたものだとしたら)


 悍ましい可能性に、クラウスは息を呑む。


「いや、まだ断定には足りない。計測ミスの可能性もある」


 結晶の欠片をハンカチで包み、慎重に懐へ収めた。


「だが、この違和感は放置できない。いずれ確かめる必要がある」


「急ごう。長居は無用だ」


 ユークとイリスが周囲の警戒を解き、出口へと向かう。


 一行は処置室を抜け、地下通路を引き返した。


-----


 分断された隔壁の先。


 完全に沈黙した防衛ゴーレムの残骸に囲まれて、壁に背を預けたアルトが座り込んでいた。


 右腕は赤黒く腫れ上がっている。だが表情は、憑き物が落ちたように穏やかだった。


「遅いぞ、お前ら」


「アルト!」


 ユークが駆け寄り、肩を貸す。


 傷ついた仲間を支え合いながら、一行は冷たい石の階段を上り、外へと出た。


 夜風が火照った身体を冷ましていく。


 東の空が白み始め、朝日が荒野を照らし出そうとしていた。


「終わったな」


 ラグが伸びをしながら呟く。


 だが、クラウスが眼鏡を押し上げながら告げた。


「いや、始まったんだ。僕たちは国の重要施設を破壊し、特務兵を打倒し、彼らが独占しようとする異能者を奪取した」


 朝日の中、言葉が重く響く。


「学園には、もう二度と戻れない。ここから先は、国家そのものが僕たちの敵になる」


 帰る場所を失った。


 だがユークも、イリスも、アルトも、ラグも、誰の瞳にも後悔の色はない。


 レインは昇る朝日を静かに見つめていた。


「関係ない」


 平坦な声だった。


「邪魔をするなら、退けるだけだ」

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