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無属性と判定された俺、実は世界の理から外れた【例外】でした。〜攻撃が当たらない上に魔法陣すら掴める俺が、聖騎士を圧倒する  作者: 真波 蓮


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第65話 聖女の決断――不退転の癒やし


 関所の背後に広がる深い森の中を、一行はひた走っていた。


 背後からは、未だに混乱の渦中にある関所の喧騒が微かに響いている。


「ハァ、ハァ……っ!」


 隣を走るアルトの荒い息遣いに、ユークが鋭い視線を向けた。


 肩を貸して支えているものの、アルトの身体は目に見えて震えている。右腕はどす黒く変色し、指先からは感覚が消失し始めていた。


「おい、しっかりしろ。これ、思ってたよりヤバいぞ」


「気にするな。ただの、打撲だ」


 強がるアルトだが、額に脂汗が滲み、顔色は土色だ。


 先頭を走るレインが、足を止めずに告げる。


「そのまま放置すれば腕を落とすことになる。クラウス、回復ポーションは」


「使い切った。それに、振動波で内部から粉砕された肉体は、市販の薬では治せない」


 クラウスが眼鏡を押し上げる。


 学園に戻れば即座に拘束される。かといって、闇雲に逃げ続ければアルトの命が危ない。


 その時、最後尾を走っていたラグが声を上げた。


「待てよ。今日って確か、リュシアが市街地外れの救護院にボランティアに行ってる日じゃなかったか」


 一行の空気が変わった。


「救護院か。あそこなら騎士団の詰所からも距離がある」


 クラウスが脳内の地図を展開し、即座に判断を下す。


「ルートを変更する。森を抜けて北の裏街道へ。リュシアの元へ急ぐぞ」


-----


 王都の外れにある小さな救護院。


 朝の光が差し込む静かな院内で、リュシアは怪我人のための包帯を整理していた。


 突然、表の扉が乱暴に開け放たれる。


「リュシア! いるか!」


 ユークの声に振り返った彼女の視界に、土に汚れ血の匂いを纏った仲間たちの姿が飛び込んできた。


「アルトさん……っ! 皆さん、何が……」


「済まない。事情は後で話す。僕たちは――」


 説明しようとしたクラウスを、リュシアが強い声で遮った。


「説明は後です。早く彼をこちらへ」


 普段の温厚な彼女からは想像もつかない気迫だった。


 リュシアはアルトを簡易ベッドに寝かせると、即座に両手をその右腕にかざした。


『ヒール・オーバー』


 純白の光が、アルトの腕を包み込む。彼女の魔力が、千切れた筋繊維を繋ぎ合わせ、砕けた骨を再生させていく。


「リュシア」


 激痛が和らぎ、意識がはっきりしたアルトが、かすれた声で呟く。


「逃げろ。俺たちは、とんでもないことをした。一緒にいたら、お前まで」


「喋らないでください。魔力の定着が遅れます」


 リュシアはアルトの言葉を聞き入れず、ただひたすら光を注ぎ続ける。


 その時。


 救護院の外から、けたたましい金属音と多数の足音が響いた。


 関所からの魔力痕跡を追って、騎士団がここを包囲したのだ。


 武装した騎士数名が院内に踏み込んでくる。剣先は、治療を続けるリュシアに向けられた。


「そこまでだ。そいつらは国家の重要施設を襲撃した大罪人だ。直ちに治療をやめ、引き渡せ。従わねば、貴様も国家反逆の共犯と見なす」


 その言葉は、彼らが正式に国から追われる存在になったという事実を突きつけていた。


 だが、リュシアは一度も振り返ることなく告げた。


「お断りします」


「何だと」


「目の前で苦しんでいる怪我人を前にして、手を止める癒やし手はいません。それが国の命令でも、私の祈りは曲げられません」


 リュシアの瞳には迷いがなかった。


 激昂した部隊長が、容赦なくリュシアへと剣を振り下ろす。


 だがその刃が届くよりも早く、床を蹴ったユークの長剣が下から跳ね上げるように騎士の刃を弾き飛ばした。


「やらせるかよ!」


 乱戦の火蓋が切られる。


 窓の外から一斉に放たれた矢と魔法を、ユークが『クレイウォール』を隆起させて防ぐ。その土壁を足場に跳躍したラグが、暴風の刃を放って騎士たちの姿勢を崩した。死角から滑り込んだイリスが、的確に首筋を打ち据えて意識を刈り取っていく。


 レインは前に出すぎず、仲間たちの背後へ回り込もうとする敵の軌道をズラし、壁に激突させた。


 わずか数分。流れるような攻防の末、騎士団の包囲は沈黙した。


「終わりました」


 外の喧騒が静まるのと同時に、リュシアの手から光が消えた。


 アルトの右腕は、先程までの惨状が嘘のように元の姿を取り戻している。


「済まない、リュシア。君の帰る場所まで壊してしまった」


 ユークが深く頭を下げる。


 リュシアは首を横に振り、力強く微笑んだ。


「私が、自分で決めたことです。私は、国に従うお人形ではなく、私の助けたい人を助ける魔法使いでありたい。だから、私を連れて行ってください」


 朝日が差し込む半壊した救護院の中で、逃亡者たちは一つになった。

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