第60話 臨界――解き放たれた雷
空気が軋んでいた。
白く染まった雷光が、地下空間の酸素を焼き尽くしていく。
「ふざけやがって!」
ガルグが吠えた。先ほどまでの余裕が完全に消えている。目の前で膨れ上がる魔力の密度。あれを撃たれれば、自分の振動の層ごと消し飛ばされる。直感がそう告げていた。
ガルグが地を蹴る。防御を捨て、殺意だけを込めた連撃。振動を纏った拳、手刀、蹴りが嵐のようにアルトへ襲い掛かる。
アルトは痛む右腕を庇いながら、紙一重で躱していく。避けきれない一撃は左腕で軌道を逸らし、空振りの反撃を繰り出し続けた。
外す。避ける。また外す。
打撃が空を切るたびに、魔法の出力が跳ね上がっていく。
「ちょこまかと……! 俺の防御は絶対に抜けない!」
焦燥に駆られたガルグが、腰の魔器へ限界以上の魔力を流し込んだ。
魔器の核が赤黒く明滅する。ガルグの腕に異変が走る。皮膚が硬質な変色を起こし、半透明の結晶が肉を突き破って這い出した。
その痛みに顔を歪めながらも、ガルグは笑う。男の周囲の空間が、目視できるほどに歪む。触れれば岩すら砕け散る、最大出力の絶対防御。
(抜けるさ。お前が回避を放棄してくれたのなら)
アルトの瞳が、鋭く細められた。
蓄積は臨界点に達している。これ以上の保持は、アルト自身の肉体が耐えられない。
ガルグの放った大ぶりの右フック。
アルトはそれを躱さない。前へ鋭く踏み込み、左拳を深く腰の横へ引いた。
「積み重ねたものは、裏切らない」
静かな、だが確かな確信を込めた言葉。
『スパークコンプレッション』
放たれた左の拳。ただの打撃ではない。極限まで圧縮された雷そのものだった。
拳がガルグの振動の層に激突する。一瞬の拮抗。直後、強固な層がガラスのように砕け散る感触がアルトの拳に伝わった。
白い雷光がガルグの巨体を完全に飲み込む。
視界が白一色に染まった。
関所の地下を揺るがす熱量と閃光が、全てを掻き消していった。
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