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第75話 たまに高校3年生である事を忘れつつあります

一月上旬。

長かったようで短かった冬休みも、 気付けば終わりを迎えていた。


クリスマス、 初詣

そして神宮寺家への挨拶。

恋人との初めての………その…うん!


思い返せば、 本当に色々あった。



神宮寺家の両親にも認めてもらえた。

もう試練なんてほとんど残っていないだろう。

そう思っていた。


学校、五時限目

学級活動。


俺は今、 担任の先生と向かい合って座っていた。

机の上に置かれているのは一枚の紙。


卒業後進路希望調査票。


第一志望……

第二志望……

第三志望……


白紙!!綺麗な空欄!!


「前川さん」


「は、はい……」


「もう一月だけど……大丈夫かな?」


「だ、大丈夫の……はずです……」


全然大丈夫じゃなかった…

先生は紙と俺を交互に見る

そして深いため息を吐いた。


「進学は……まぁ有名大学はもう厳しい時期だけど、本当に考えてないの?」


「は、はい……勉強苦手で……」


「そ、そうなのか……じゃあ就職は?」


「それも……まだ……」


「うーん……大丈夫じゃないよね?」


「…………はい」


ううぅぅ……俺もそう思う…!!


どうすりゃいいんだよ!!

大学行ったところで何したいかわからないし!


就職なんてもっと無理だろ!!

俺だぞ!?

コミュ障だぞ!?

面接とか死ぬぞ!?

社会人とか無理無理無理無理!!あわあわ…!になるに決まってる!怖いよー!


先生は心配そうな顔をしている。


「クラスの子達も、ほとんど進路決まってるんだよな」


「うぅ……」


「何か事情があるなら話してごらん。無理には聞かないけど」

 

「え、えっと……」


事情…事情か


あります

めちゃくちゃあります

でも説明できません…!



世界に二人しかいない国家機密レベルの被験体なんで

毎月不労所得入ってるんです!

神宮寺製薬が生活保障してくれてるんです!!


……なんて、言えるわけあるか!!


いっそ将来の夢の欄に

『ニート』

って書こうかな…?


いや駄目だ、社会を馬鹿にしてる…



うーむボカロ作曲するか…?

……最近全然触ってない。



「とにかく、もう卒業まで日が少ないから早めに決めてね」


「は、はいぃ……」


新年早々

問題発生である

しかも結構デカい。


恋愛は順調、友人関係も良好なのに

将来だけ真っ白

俺は重い足取りで教室へ戻った。


ガララッ――


教室の中は賑やかだった

卒業まであと少し

進学先が決まった人。 就職先が決まった人

みんな将来の話をしている。


どこか不安そうで、 でも希望に満ちた顔。

未来へ向かう顔だ

それを見ていると、 胸の奥が少しだけモヤモヤした。


俺は……。

この先どうすればいいんだろう

今が楽しすぎて、 全然考えてなかったなー……


「おーい! ゆかっち〜!」


聞き慣れた声が飛んでくる。


真桜さんだ

その周りには、 いつものメンバー。


白石さん 桐谷さん

なんだかんだ、 この四人で集まると安心する。


「お疲れ〜」


「ゆかっち、進路どうするの?」


開口一番それだった

うぅっ……


「それが……な、何も……とほほ……」


「ええええっ!?どうするんだ!? もう一月だぞ!?」



わかってる…!

わかってるんだ。


先生にも言われた。

でもどうしようもないんだ……!


「ゆ、裕香さん……何か事情があるのかな……?」


うわぁ…先生と全く同じ反応だ。


「ないです…!あわわ……み、みんなは決まってるのかな……?」


話題を逸らすように聞いてみる。

すると桐谷さんが元気よく手を上げた。


「私は就職だ!スポーツジムのトレーナー! 内定決まったのだ! なはは!」


「私は進学かな……。第一志望はA判定もらってるし

でも油断はできないけどね」



「へぇ〜、二人とも凄いね〜」


真桜さんが感心したように頷く。


そういえば…


「ま、真桜さんは?」


「私?しばらく遊びたい!」


「ええっ!?」



「それで適当に会社行くかな〜」


自由すぎる……!!

いや確かに神宮寺製薬の令嬢だけど!

人生設計が雑すぎる!


「ゆかっちもうち来る?」 


「ええええっ!?わ、私はそんな容量良くないし……!!」


「大丈夫大丈夫!」


「大丈夫じゃないってぇ!」


むしろ俺が入社したら、 神宮寺製薬の信用問題になりそうだ


唯一できそうなのは、 パソコンの前でボーッとすることくらいである。


すると――


「あっ! そうだ!」


桐谷さんが突然机を叩いた。


「折角なら皆で考えるぞ!! ファミレスで!!」


「おー!ヒカ、いいね!!」


「光にしては良いアイデアね。賛成…!」


「だろだろ!? 天音も呼んでやろう!」


「い、いいんですか!? みんなぁ……!!」


思わず身を乗り出してしまう。


「なはは!友達のよしみだ! 感謝しろよ、ゆかっち!」


「ああありがとうございます……!! 桐谷様ぁ!!」


思わず拝んだ

本当に

本当に友達に恵まれている。


三人寄れば文殊の知恵。

いや、 このメンツなら百人力だ。

きっと何か良い進路が見つかるはず……!


俺はそう信じていた。


――その時までは


ーーーー


放課後

翔にも許可を取り、 俺達はファミレスへ集まった

テーブルには五人。


本日の議題

『前川裕香の進路について』

……のはずだった。


「えーーー!?レイ、イタリア行ってたの!? くーくんと!?」


「そうなのよ」


白石さんが少し照れながら笑う。


「すごっ!私とあまねっち、フランスにいたのに!」


「ええ!?そうなの!?ヨーロッパに知り合いが三人もいたなんて……」


「真桜ちゃんがどうしてもって言うからさ

まぁ……楽しかったけど」


「またまた〜!あまねっちクールぶって〜!」


「な、何よ」


「楽しかったのは年明けのプライベートホテルでの――」 


「や!やめなさいよ!!も、もう……! 白石さんはどうだったの? 久我くんと!」



「そうね、花火が上がって、とても綺麗だったし、

奏くんも楽しそうだったかな?」



「なはは!私は剛の実家に挨拶行ったぞ!」


「へぇ、もう固めてる感じ?」


「そうだ!結婚前提だな!」


「おお〜!ヒカすごいな!」


テーブルが盛り上がる。


……

…………

………………

ごめん、訂正する。


ハイスペックだろうと

女子は女子だった

恋バナは酸素みたいなものらしい。


「…………」


俺は目の前のドリンクバーのメロンソーダを眺めた。


誰かに進路を考えてもらおう

そう思っていた俺が甘かった…!!

そして、 その天罰と言わんばかりに


「なははは!!ゆかっちは翔くんとどうだったのだ!?」


「はっ!! そういえば!!」


「ゆ、裕香さん……!!」


神崎さんと白石さんが、身を乗り出した。


「あわわわ……え、えっと……」


そう

このパターンである。


知ってた。

知ってたよ俺は


「ふふふ〜!私はもう知ってるけどねぇ〜!」


「真桜ずるいぞ!!」



「ゆかっち……クリスマス……翔くんと……あ、遊んだ……の?」


「い、一応……」 


「日帰り……?お泊まり……?」


そそそそその質問を白石さんがするのかぁぁぁ!?


いや待て、まぁ確かに

そういえば俺は…

白石さんに色々相談したな?


万が一とか

そういう話もしたな?


ぐぬぬ…!逃げ場がない…!

俺は観念した。


そして

顔を真っ赤にしながら

小さく呟く。


「……お泊まり……夜まで……」


静寂


そして――!?


「ゆゆゆゆゆゆかっちが大人になったぞぉぉぉ!!」


桐谷さんが立ち上がった。


「唯一の純潔だったのにねぇ〜!」


真桜さんが爆笑している。


「なはははは!! ようこそ!!」



言った!!

俺も言ってしまった!!

ついに!!


まぁ……

このメンバーには隠し事なんて今更だしな……


案の定

真桜さんと桐谷さんは大盛り上がりだった。


しか。

意外だったのは――



ズゥゥーーン…!


「…………」


「…………」


白石さんと神崎さんが何故か

落ち込んでいた…??



「どうした!?レイ! 天音! 折角のゆかっち大暴露大会だというのに!」


「その……推しが結婚した感じというか…裕香さんも……まぁ……仕方ないし……うぅ」


「えぇ……なんというか……喪失感……?可愛い子だったのに……」


もしかして

翔の話を聞いてショックだったのか……?

た、確かに神崎さんは元々翔の事が好きだったし…

白石さんもそうだったのかな?



「あはは!二人とも落ち込みすぎ〜!」


「なはは!よく分からないけど元気出せ!」


結局、俺の進路相談会は

気付けば全員の恋愛トーク大会へと変貌していた。


白石さんも神崎さんも、 後半には元気を取り戻し

久我くんの話

飯田くんの話

翔の話

真桜さんと神崎さんの海外話。


なんだかんだで盛り上がった

……うん

楽しかった

楽しかったけど。


「進路…すっかり忘れててた………」


冷たい風に現実を戻される。

俺の進路

何一つ決まってないっ…!!!!


「ま、まぁ……」


誰かに決めてもらうものじゃないよな

こういうのは自分で考えなきゃいけないよなぁ…


ーーーー


ピコピコ……



俺と翔はいつものようにゲームをしながら、 だらだらと雑談していた。


「――って訳で悩んでるわけよ……」


「進路かそういえば、もうそういう時期だな」


「皆決まってるんだよなぁ……翔はやっぱり神宮寺製薬?」


「まぁ、そうだな。表向きは会社員だが」


「いいなぁ……」


「裕香」


「ん?」


「お前も来るんだぞ」


「へ?……俺も?」


「ああ何せ下手に外をうろつかれるより、神宮寺製薬に就職させろと父さんが言ってるからな」


「いやいやいやいや!!」


思わず立ち上がった。


「真桜さんにも誘われたけど…俺にあんな高度な研究無理だぞ!?」


ノーベル賞候補みたいな人達が働く場所だろ!?


俺だぞ!?


高校の課題ですらヒーヒー言ってるんだぞ!?


「大丈夫だ簡単なデータ入力だ」


「データ入力?」


「ああ。パソコン触れるやつなら誰でもできる」


「ほ、本当に……?」


「給料もいいぞ?福利厚生もしっかりしてる」


「うむ……」


「残業も少ない」


「うむ……」


「嫌か?」


「い、いや……そういう訳じゃ……」


「それに…母さんが、絶対に連れてこい…ってな…済まんこれはスカウトというより俺のお願いだ…」


「ええぇぇ……」


いいのか!?

こんな簡単に!?

天下の神宮寺製薬だぞ!?

世界的大企業だぞ!?


普通、面接とか!筆記試験とか!

なんか英語の点数のやつとか!!


色々あるんじゃないの!? 



「心配するな。また詳しく説明してやる」


「は、はい……」


俺は思わず頷いてしまった。


数時間前まで、将来どうしよう

そう悩んでいたはずなのに。


俺の進路は――

ものの五分で決まってしまったのだった。


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