表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/79

第74話 神宮寺家極秘内部事情

神宮寺家、研究区画最深部。


俺は今、 翔と真桜さんの母親、 神宮寺紫苑さんと二人きりで向かい合っていた。


本来なら、 神宮寺家直属の家族や、ごく一部の研究関係者しか入れないような場所なのだろう。


そんな空間に、 なぜか俺がいる……怖い。


コポポポ……


静かな音と共に、 神宮寺のお母さんがティーカップへ紅茶を注いでいく。


「紅茶、飲めるかしら?」


「あ……は、はい……大丈夫です……」


ふわり、と香りが広がる

……いやもう、 香りだけでわかる。


なんか“格”が違う

高級とかそういう次元じゃない。 紅茶界の貴族みたいな香りしてる。


「ふふっ改めて初めまして。神宮寺紫苑よ。せーじゅの妻で、翔と真桜の母!」


神宮寺紫苑さん…神宮寺聖十郎さんの妻

そして翔と真桜さんの母親。


存在自体は聞いていたけれど、 表舞台にはほとんど出ない人物らしい。


なんでも海外を飛び回って、 各国の政界や医療機関と交渉しているとかなんとか……

いや、 もうその辺はスケールがデカすぎて、 正直よくわからない。


「は、ははは……はじめまして! 前川裕香……です……!」


俺はカップをガチャガチャ震わせながら、 改めて自己紹介した。


緊張で指先が死んでる。


「ふふふっ。そんなに緊張しなくていいのよ?」


「は、はは……はい……」 


無理です!こんな空気で緊張するなって方が無理です……!!

すると紫苑さんは、 楽しそうにこちらを眺めながら、 ふっと表情を柔らかくした。


「体調はどうかしら? その身体になって、もう八ヶ月くらい経つわよね?」


「あ、はい……! 問題ないです。健康診断でも、一般女性と遜色ないらしい……です」


「そう、良かった!流石はせーじゅの新技術ね! 私自ら実験体になった甲斐があったわ!」


「…………へ?じ、実験体……?」


「そう。貴方より前の、リサイクルタンパク質の実験体よ。同じ志願者として、凄く会いたかったわ!」


「え……ええぇぇぇっ!?」


な、なんだって……!?

この人が!? 俺より前に!?

いや待って待って待って!!

情報量が多い!!


「そ、その……失礼ですが……さっきの年齢の話って……」


「そうそう!貴方みたいに全身分解ではないけど、注射で少しずつ身体構造を変質させていってね。少しずつ……まぁ簡単に言うと、“ピチピチのお肌”を手に入れたってわけ!」


「ほ、ほぇぇ……?」


いや、 “ピチピチのお肌”で済ませていい話じゃないんだけど……!?


「で、でもそんな……何の確証もなく、よく人体実験なんて……できますね……」



「成功例がなきゃ、海外相手に強気でいられないからね!」


「そ、そんな軽く……」


「まぁ、ぶっちゃけ“せーじゅ”の研究を信じてたしね!」


なんだろう。

この人、 真桜さんをもっと大人にして、 さらにスケールアップさせた感じだ……。


「大きな発見をする時って、大概“イカれた決断”をするものなのよ。私や、貴方みたいにね」


ドキッ、と心臓が跳ねた。


「大事な人に迷惑かけたくなかったんでしょ?」


「あ……」


……そうだ

俺、 最初は竜鬼会から逃げるために志願したんだ。

今思えば、 “逃げるため”に、 性別そのものを書き換える研究へ飛び込むなんて――

た、多分普通にイカれてる。

いや、 かなりイカれてる。


「……そうですね……はは……」


苦笑いが漏れる。

でも、 それだけじゃなかった。

翔に迷惑をかけたくなかった。

役に立ちたかった。

居場所が欲しかった。

あの頃は、 こんな未来になるなんて、 想像もしていなかったけど…


どうやら紫苑さんは、 聖十郎さんが発見した“リサイクルタンパク質”を、 世界へ証明するため、 自ら実験体になったらしい。


成功した結果、 老化速度が極端に抑制された身体を手に入れ、 その身体そのものを“実例”として、 海外投資や研究協力を取り付けたとかなんとか……。


……うん。

スケールが大きすぎて、 正直よくわからない。

でも一つだけ確かなのは――

この夫婦、 揃って覚悟がイカれてる。


「ところで裕香さん。一つ聞いてもいいかしら?」


「? ……はい……」


「嘘なんでしょ? “四月から付き合ってた”なんて」


ブフゥッ!!


盛大に紅茶を吹いた。


「ゴホッ!! ゴホッ……!!」


終わった……バレた……全部終わった。



あーーーーー!!!!

作戦が!! 作戦が一瞬で崩壊したぁぁぁぁぁ!!!!

ごめん…ごめんよぅ…翔。


「ふふっ……あははっ!」


紫苑さんが肩を震わせながら笑っている。


「真桜の言う通り、本当にリアクション面白いわ!」


「い、いや……その……!! 本当にすみません……!! 全部、私が決めた事で……!! 翔に迷惑かけたくなくて……!!」


俺は慌ててブンブンと頭を下げた。

冷や汗が止まらない。


……なんとなくわかる。

この人、 嘘が通用しない。

言葉だけじゃない。

多分、 表情とか、 声色とか…、

なんなら、 思考まで読まれてる気がする……!!


でも、紫苑さんは そんな俺を責める様子が全く無かった。

むしろ、 楽しそうだった。


「いいのよ、そんなの」


「……え?」


「あんな嘘つくくらい、大事な人なんでしょ? 翔のことが」


「……っ!」


その瞬間、 俺は反射みたいに顔を上げていた。


「は、はい……!! 大事です!」


迷いなんて無かった。

ほぼ即答だった。

そんな俺を見て、 紫苑さんは満足そうに微笑む。


「ふふっ……なら十分よ。せーじゅには内緒にしててあげる」


「あ……ありがとう……ございます……」


た、助かったぁぁぁ……!!

全身から力が抜ける。

すると紫苑さんは、 面白そうに頬杖をついた。


「それにしても……よくあの翔を射止めたわねぇ? きっかけは何だったの?」


「あー……そ、それは……」



流石に、 メイド服女装してた時に一目惚れされた なんて、 親に言えるわけがない。翔にとっては拷問の極みである。


こ、ここは……!


「よ、よくわからないですけど……昔から、裕介だった頃から……私に興味はあったっぽいです……」


「…………ふーん?」


紫苑さんがニヤァ……っと笑う。

うわぁぁぁ!!

この感じ!! 真桜さんそっくりだ!!


なんか絶対、 まだ何か隠してるって思われてる……!!


「それで?」


紫苑さんが身を乗り出してくる。 


「裕香さんは、いつから好きになっちゃったの?」


「へ……?」


ど、どストレートに来た……!!


「え、えっと……うーん……修学旅行あたり……ですかね……」


「へぇ?」


「一緒にいて楽しいって思う時……気付いたら、想像の中にいるのが翔ばっかりになってて……」


「それで乙女になってしまったと」


「へぇぇ!? うぅぅ……!!」


この人ぉぉぉ……!!

絶対面白がってる!!


でも、 不思議と嫌な感じはしない。

むしろ、 恋バナを全力で聞きたがる親戚のお姉さんみたいだ。


「翔との話、もっと聞かせて?」


「え……?」


「あの子、全然こういう話してくれないのよ。つまんなくてもう」


「あ、あはは……」


そこから俺は、 翔との思い出をぽつぽつ話し始めた。

裕介だった頃。


誰とも上手く馴染めなかった俺に、 気さくに声をかけてくれたこと。


欲しかった言葉を、 自然にくれたこと

苦しい時、 ちゃんと隣にいてくれたこと


そしていつしか、 あの真っ直ぐで熱い視線を、 俺だけに向けてくれるようになったこと……たっっくさん話した。


「へぇ…翔に、そんな一面があったなんてねぇ

面白い話が聞けたわ… ありがとう、裕香さん!」


「い、いえいえ……! 私は、してもらってばかりで……」


「親からしたら、こういう話って貴重なのよ?」


そう言いながら、 紫苑さんは紅茶を優雅に一口飲む。


この人不思議だ。

圧が凄いのに、 会話そのものはめちゃくちゃ楽しい。


「それで……いつ結婚するのかしら?」


「け、結婚!!!?」


危うく紅茶を再噴射するとこだった。


「い、いやいやいや!! そ、その……!!」


顔が一気に熱くなる。

まだ高校生だぞ俺達!?



すると紫苑さんは、 意味深にニコッと笑った。


「ふふっ。それにね?」


「は、はい……?」


「私の事情を知ってるのって、基本的に家族だけなの、神宮寺家の最重要…国家機密に匹敵するわ」


「……え?」


「外部の人が聞いたら…この意味、わかるかしら?」


そう言って、 紫苑さんが獲物を狙うみたいな目で微笑んだ。


いや笑顔なんだけど。

笑顔なのに怖い…!!


「え、えぇぇ……ど、どうなっちゃうんですか?」


俺の背中に嫌な汗が流れる。

完全に“神宮寺家の内部”へ引き込まれてる感がある。


「冗談よ!でも私は大歓迎。こんな純粋でいい子、手放したくないもの」


「冗談!?……ほっ……う、嬉しいです…!

こ、今後もしっかり段階を踏んだお付き合いを……させて頂きます……」


「ふふっ!次会った時には、苗字変わってるかもしれないわね?」


「ひ、ひぃぃぃ……!!」


ーーーー



ひとまず、 神宮寺のお母さんとの会話も無事……なのか?

とにかく終わり。


俺は研究区画のレストスペースで、 ソファにぐで〜っと沈み込んでいた。


「ふぃ〜……なんか凄かったなぁ……神宮寺のお母さん……」


落ち着いた美人。 優しい。 でも怖い。 しかも世界レベルの交渉人。

情報が二転三転と変わってく。


「うーむ……俺……改めて凄い世界に入ってしまったんだなぁ……」


国家機密級研究

世界にまだ二人しかいない被検体

そして―― その御曹司が恋人。


なんかもう……

ラブコメとSFを、 反復横跳びしてる気分だ……

「新年早々、疲れたぁ……。もう流石に今日はこれ以上何も――」


そこで俺は、 スマホを取り出した。

さて、 翔に連絡でも――




……知っていた

いや、 忘れていた

これは、 “フラグ”というやつだと。


「おーい!ゆかっち! こんなとこにいたー!」


「あわわわ!! ま、真桜さん!!?」


真桜さんだ!ここぞとばかりに登場する!!

舞台装置か何かなのか!?この人は!


「兄ぃと一緒に行ってたのに、なんで一人なの?」


「あ、それは……」



ーーーー


「へぇ、母さんに会ったんだ。なんか凄いことになったね」


「ど、どんどん外堀を埋められる感じになって……」


「母さんに認められたってことだよ! 凄いよゆかっち!」


「そ、そうなのかなぁ……?」


なんかもう、 神宮寺家の“認めた”って、 普通の家庭より遥かに重みがある気がする……。


すると真桜さんが、 急にニヤァ……っと笑った…母親そっくりの笑みに…


「ところで、ゆかっち」


「ん?」


「クリスマス、どうだった?」


「!!!?!?!!!」


心臓が飛び跳ねた。


「ふふふっ……一緒に過ごしたんでしょ〜??」


「あ、あはは〜……その……プレゼント渡して〜、ゲームして〜、健全に〜……かな……?」


「…………ふーん?」


「…………」


ご、誤魔化せた……?

ま、まぁ別に最近は色んな距離感あるわけだし…?


「あ、気をつけてねゆかっち」


「へ?」


「相手、ちゃんと手洗った?」


「え?」


「稀に指でも妊娠することあるの」


「ええええ!?!?」


俺は思わず立ち上がり、お腹をさする。


「う…嘘ぉ!?え、えっと!? 洗ったっけ!? し、翔……洗ってたよな……!?確か…確か…!」


「うん、嘘!」


「え?………あっ……あぁぁ……!!」


や、やられたぁぁぁぁぁ!!!!

うわああああ!! 俺のバカぁぁぁ!!

なんで毎回こう簡単にハメられるんだよぉぉぉ!! 



「ついにゆかっちもしちゃったかぁ〜。これで私達に並んだね!」


今日だけで何回遊ばれてるんだ俺……

新年早々、 ちょろすぎる……。 


「それでそれで?どんな感じだったの?」


「ど、どんな感じって……うーん……

翔が積極的に近づいてきて……だんだん下着を下ろして……耳元で攻めっ気のあるセリフ言ってきて……頭がトローンって――」


「あ、ストップストップ、流石に身内の詳細は私もキツイから」


「あ、そ、そうですか……」


意外である。


「あ〜あ。でもちょっと残念だったなぁ〜」


「へ?」


「ゆかっちの初めて、私が欲しかったのに」


「えぇ…………」


こ、この人は……

冗談なのか、 半分本気なのか、 本当に読めない……!!


「でも私、隙あらば行くからね!いつでも!」


「えええええ!!? そ、それはどうなのかと!!」


「時代は多様性! 大丈夫!」


「多様性!? だ、大丈夫なのそれ!?!?」


そんなやり取りをしていると――


「大丈夫なわけあるか」


後ろから呆れた声が飛んできた。


「そんな過激ポリコレもドン引きだぞ」



トコトコとこちらへ歩いてくる人影。

……翔だ!


「あ! 兄ぃ!」


「まったく……隙あらば裕香にちょっかいかけやがって。油断ならんなお前は」


「えー? だってゆかっち、兄ぃにはもったいないもん!」


真桜さんが俺の肩を抱き寄せる。


「私が大事に育てますよーだ!」


「今夜あたりNTR動画送ってあげるね! いぇーい見てる〜? 兄ぃ〜?」


「ほーう?やれるもんならやってみろ。すまんな、BSSとやらを体験させてしまってな」


「うわっ、煽るねぇ〜!」


なんかもう、 天才兄妹が真顔でオタク用語を飛ばし合ってる光景、 シュールすぎるんだけど……


「それじゃ、ゆかっち。今日は一緒にお風呂入ろっか!」


「えぇぇ!?」


「ならん!!」


即座に翔が割って入った。

反応が速い、神速。


「大丈夫だって兄ぃ〜。女の子同士のいつもの健全な♡お風呂だから!」


「いつも?…ぐっ!!オイオイオイオイ、信用できるかバカ」

「これ以上裕香をおちょくってみろ……お前を……」


「でもさ、兄ぃ」


「あ?」


「もし私のゆかっちが兄ぃと結婚したら

ゆかっちから“お兄ちゃん”って呼ばれるんだよ?」


「…………………………」


その瞬間。

翔の動きが止まった。


翔の脳内に過る、別の可能性だった未来の妄想……


『お兄ちゃん! 朝だよ!』


『お兄ちゃん、行ってらっしゃい!』


『お兄ちゃん! おかえり! ご飯できてるよ!』


『お兄ちゃん……今日、一緒に寝て……いいかな?』





「……………………………!…ふふ……」



「……………………はっ!!い、いや駄目だ!!」


「いや、兄ぃ絶対妄想してたでしょ?」


「してねぇよ、バカか」


こ、コイツ……多分してた…

一瞬、 何を考えてたんだ……?


「いいもん!チャンスはあるんだから!」


「あってたまるか。このままゴールインしてやるよ」


「ゴゴゴゴールイン!?ちょっ!翔!!」



「うわっ、兄ぃ独占欲つよ〜重い男はモテないよ?」


「もうモテる必死ねぇよ、むしろ邪魔だ。そんな要素」


なんというか……

仲がいいのか悪いのか、 本当にわからない兄妹である。


でも――

こんな風に、 俺を巡って言い合いして

ちゃんと“見てもらえてる”って実感できるのは、 やっぱり少し嬉しかった。


神宮寺……世界規模の家族のはずなのに

どこか馴染み深い存在だった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ