第73話 12月終わり!そして1月初め!!今更の新キャラ!?
クリスマス。 俺たちは、例に漏れずいや、多分かなり平均以上に、日本らしく“熱い”数日間を過ごした。
……そして、気づけば時刻は年末。
今年最後の日。 俺は今、神宮寺家の接客室という、超高級空間で、年越しの瞬間を迎えようとしていた。
目の前には、巨大なテレビ。 ふかふかすぎるソファ。 高そうな絨毯。 天井高っ……!
一緒にいるのは――
翔 そして、つい先日までフランスに行っていた真桜さん。
「お疲れ〜」
「おつー!」
「お……お疲れさまです……!」
カチン、とグラスが軽く触れ合う。
中身は酒……ではなく、 オレンジジュースだったり、メロンソーダだったり。 未成年らしい、平和な年越しである。
とはいえ、空気は完全に大人のパーティーみたいで、俺は未だにちょっとだけ落ち着かない。
『それでは、カウントダウンです!!』
『さぁー!! 今年も残りあと1分!!』
「おぉ〜……」
画面の中では、毎年恒例の大型歌番組が大盛り上がりを見せている。
何気に、こういう“年越し特番”をちゃんと観るのは初めてかもしれない。
しかも最近は、俺でも知ってるボカロPの曲が普通にメジャー番組で流れていて、ちょっと感動してしまう
時代、変わったなぁ……。
「あー! ウオノーション山野さんだ! この人、前にご飯行ったことある!」
「俺は昔、麦津さんと会ったことあるな」
……うん、 やっぱり神宮寺家の“普通”って、絶対どこかおかしい。
『5!』
テレビのカウントダウンが始まる。
『4!』
『3!』
『2!』
『1!!』
『――あけましておめでとうございまーーーす!!』
「「「あけましておめでとー!!」」」
2026年。
グラスを掲げながら、俺たちは改めて乾杯した。
……なんだろうな。
ほんの半年前まで、 俺には“こういう未来”なんて、一生来ないと思っていた。
誰かと笑いながら年を越して、 好きな人が隣にいて、 安心できる場所があって。
こんなの、あまりにも贅沢すぎる。
でも今だけはこの幸せを、素直に噛み締めてもいい気がした。
「あ〜、あっという間だったね〜」
真桜さんがソファに寝転がりながら、だら〜っとグラスを揺らす。
「だな。まぁ色々とあったけど……どうだったんだ? フランス」
「ふつーに楽しかったな! あまねっちと行ったの!」
「へぇ、そんな仲か、珍しい」
「けっこー遊ぶよ?沢山思い出を作ってきたのだ!」
「そりゃ、何より」
「で? ゆかっち達はどうだった?」
「へ……!? あ、まぁ、その……ぼちぼちですね……はは……」
「ふーん?ぼちぼち、ねぇ〜……なるほどなるほど……?」
じりじりと距離を詰めてくる真桜さん。
うわ近い近い近い!!
「おいおい、あんまりからかうなって」
「はわわわ……!」
「ほほ〜? 翔くん随分と過保護ですなぁ〜?」
「うるせぇ…」
そんな感じで、年越しの夜はゆる〜く、騒がしく過ぎていった。
テレビを見ながら駄弁って、 途中から三人で鉄道会社経営ゲームを始めて、 気付けば深夜テンションで大騒ぎ。
結局、数時間後には、三人まとめてソファや床で見事に寝落ちしていた。
ーーーー
そして元旦。
支度を整えた俺達は、そのまま初詣へ向かうことになったのだが――
「人……!! 人がぁ!!」
「はは、まぁ元旦だしな」
「今年もすごいねぇ〜」
神社へ到着した瞬間、俺は軽く絶望していた。
人、人、人、毎回こんなリアクションしててあれだけど
前も後ろも横も全部人。
押される!! 潰れる!! 酸素が薄い!!
「ち……窒息してしまう……!!」
人混みにはもう慣れたはずなのに、 年始特有の熱気と圧が凄すぎて、普通に気疲れしてくる……!
ああ〜……助けてくれぇ〜……
すると、
「裕香、こっちだぞ」
「……え?」
翔が当然のように、人の流れとは別方向へ歩き出した。
「あはは! ゆかっち普通に並ぼうとしてる! うける!」
「え!? だ、だって初詣はこっちって看板が…?」
「まぁ普通はな」
普通は…?
するとその時。
黒いスーツ姿の男性が、俺達の前へ静かに歩み寄ってきた。
「お待ちしておりました。神宮寺御一行様」
「毎年すみません。今年も宜しくお願いします」
「お願いしまーす!」
翔と真桜さんが慣れた様子で軽く会釈する
そのまま俺達は、 一般参拝列の横を抜け、 普段は閉鎖されているらしい静かな脇通路へ案内されていった。
「うわぁ……」
裏ルート……!?隠しコマンド!?
まるでゲームで条件を満たしたら開放される隠し通路みたいな、 そんな空気。
おおぉ……神宮寺クオリティ……これが、初神宮寺クオリティ。
年始早々、 世界の違いを見せつけられている気分だ……
俺達は一般参拝客とは別の、 神社内部の静かな参拝エリアへ通されることになった。
神社の内部は、外の喧騒が嘘みたいに静かだった
一般参拝客の列とは完全に隔離された、広く厳かな空間
畳の香り、微かに漂う線香の匂い、 天井の高い木造建築。
そして正面には――
ぽつん、と巨大なお賽銭箱。
さらにその奥では、 白装束姿の神職?の人達が、低く響く声で祝詞を上げていた。
「…………」
……え? なにこれ。
俺、なんか想像してた“初詣”と違うんだけど!?
もっとこう、 屋台! 人混み! おみくじ! みたいな感じじゃないの!?
「ほら、裕香」
チャリーン……!
ジャラジャラ!
翔と真桜さんが自然な動作でお賽銭を入れ、 そのまま上に吊るされたおっきな鈴を鳴らす。
「……!? へ? え?」
「ゆかっち、お賽銭入れて、二礼二拍手一礼するの!」
「に、にれーにはく……?」
「二回お辞儀して、二回拍手して、願い事して、最後に一回お辞儀。まぁ、俺達の見様見真似でいいさ。ほら、やってみろ」
「う、うん……!」
神社って…… ルールとかあるんだなぁ……
俺はお財布から500円玉を取り出し、 そっとお賽銭箱へ入れた。
カランッ――
少し緊張しながら、 言われた通りに二回お辞儀
そして二回拍手。
パンッ、パンッ
それで……願い……?願い、かぁ……
うーん……
楽しい学校生活
優しい友達
安心できる居場所
そして 隣にいてくれる、頼れる恋人。
……なんだか、 俺の欲しかったものって、 もうほとんど手に入っちゃってる気がする。
よ、よし……!
だったら――
みんなが、幸せに生きられますように……!
心の中でありきたりな願いを込め、 最後にもう一度、深くお辞儀をした。
ーーーー
その後、 俺達は静かな裏通路を通って神社を後にした。
帰り道は、翔の運転する車
年始特有のゆったりした空気の中、 車内には穏やかな音楽が流れている。
「初詣って……初めてしたなぁ」
「おいおい……マジかよ。どんだけ悲惨な生活送ってたんだ」
「いや……年末年始とか、親ほぼ家にいなかったし……」
「あー……いつもの…ね」
「ゆかっちはこれからだよ! いっぱい体験してこ!」
「そ、そうですな……!」
……俺、 やっぱりまだまだ知らないことだらけだなぁ。
そんなことを考えているうちに、 車は再び神宮寺家へ到着した。
「ふぃ〜、疲れた〜」
真桜さんが靴を脱ぎながらぐで〜っと伸びる
ちょっと可愛い。
「兄ぃ、なんか飲み物いる?」
「あ〜、いや。ちょっと父さんに用事あるんだ。後でな」
「ふーん?ゆかっちは?」
「あ……わ、私も……一緒に……」
「?? そうなの?」
「……裕香。それじゃ、行くか」
「……うん……!」
「……どこに?」
真桜さんにちょっと説明し、神宮寺家の長い廊下を歩きながら、 俺と翔は小さな声で最後の確認をしていた。
「裕香……段取りは決まってるが……本当にこれでいいのか?」
翔が少しだけ心配そうにこちらを見る。
「うん……! 翔にばっかり負担かける訳にもいかないから……ここは俺が……!」
正直、めちゃくちゃ怖い。
でも、恋人になった以上、 避けて通れない。
“親への挨拶”。
まして相手は、 神宮寺製薬CEO
世界レベルの研究者、そして翔の父親。
「ふふっ……頼りにしてるぞ?」
やがて、 廊下の最奥
重厚なセキュリティドアが見えてきた
もはや会社の機密室である。
「……相変わらずすごいなここ……」
「父さんの部屋兼、研究データ管理室みたいなもんだからな」
翔が慣れた様子で認証を通し、 重い扉が静かに開いた。
ウィィン――……
その先にいたのは、
デスクで資料を読んでいた神宮寺聖十郎さん。
「お、来たか」
静かな声
「時間を空けてくれと言われて、とりあえず空けておいたが……。まずは翔、そして前川さん。明けましておめでとう。今年も宜しくお願いします」
「おめでとう、父さん」
「あああ……! あけ……まじて!! おめでとうございます……!」
「ふむ?」
うぅぅ……!! 落ち着け俺ぇ……!!
こ…これから、いうぞ…言うぞぉ!!
「ところで、この奥に久しぶりに帰ってきた――」
「あ……済まない父さん。大事な話なんだ」
「……む?」
空気が少し変わった
翔が真剣な顔になる
俺もゴクリと唾を飲み込む。
ーーーー
「は…??え?……ま、まままま……マジか……!!?」
「し……翔……お前と……前川さん……が……?」
「本当だ。俺と裕香……恋人なんだ」
「は、はい……そうです……」
翔の父さん……めちゃくちゃ動揺してる……!! そりゃそうだよなぁ……!!
「え、ええ……? ま、待て……取り敢えず落ち着かせてくれ……。いや、いつ……からだ?」
翔がちらりと俺を見る。
「し……神宮寺のお父さん……! すみません、わ、私から説明します……!」
「う、うむ……?」
うぅぅぅ……!! 胃が痛い!! でもここは俺が背負うって決めたんだ……!!
「実は……私と翔は……隠れながら……去年の四月から付き合ってました……!」
「な、なんだと!?」
「本当だ、父さん。俺は……今までの元カノ達より、裕香……いや、当時の裕介に対して恋心を抱いていた」
「……うむ?」
「私も……男でありながら……翔の事が好きでした……。私の気持ちを、翔は受け止めてくれました……!」
「…………」
聖十郎さんが静かに耳を傾けている
怒ってはいない
でも、 真剣だ
だからこそ逆に怖い。
「当時の俺達は……いや、俺はプライドが高かった。神宮寺家として……同性愛は昔より受け入れられてきたとはいえ、偏見が無い訳じゃない。だから誰にも言えなかった……」
「……うむ」
「私も……思ってしまったんです……。もし……私が女だったら……どれだけ人目を気にせず、翔と過ごせたんだろうって……」
「……」
「皮肉か……幸運か……その機会が訪れた……」
「む………はっ!!翔!……だからお前、ジェンダー研究にあれほど向き合ったのか……!」
「あ…!!そ、そうなんだ父さん……! どうか……認めてくれないか……? 俺達の恋愛を……!」
「神宮寺のお父さん……! お願いします……!」
ううううう……!!
ご、ごめんなさい……!! 神宮寺のお父さん……!!
こんな良い人騙して……!! 罪悪感がヤバい……!!
でも!! でも他に説明のしようがなかったんだ……!!
「む、むぅ……なるほどな……」
聖十郎さんが深く息を吐く。
「翔。そして前川さん……そんな深刻に悩んでいたとは……気づけてやれなくて済まないな……」
「父さん……」
「あわわわ……!」
や、やっぱりこの人聖人だぁぁぁぁ……!!
なんで俺、 こんな人騙してるんだよぉぉぉ……!!
「………………」
聖十郎さんが腕を組み、 静かに考え込む。
(私としても予想外の出来事だ……。しかし……被検体である前川さんが卒業後に離れるより、身内になってくれた方が研究的には――……いや。真剣な恋愛に合理性を持ち込むのは違うな)
「翔……ま、まぁ私は――」
――コンコン。
突然、 部屋の奥側の扉がノックされた。
ガチャ……
「ふふっ……話は聞かせてもらったわ?」
――現れたのは
「………………おわ……!」
思わず、間の抜けた声が漏れた。
すごい美人…
真桜さんをそのまま大人にして、 さらに落ち着きと色気を加えたような女性。
艶のある黒髪、切れ長の瞳、 柔らかい微笑み。
上品なのに、妙な圧がある。
年齢だって、 どう見ても二十代後半くらいにしか見えない。
「母さん!?」
「へ? 母さん!!?」
翔の……母親!?
えっ!? いやいやいやいや若っっっ!!?
まぁ確かに、 漫画とかだと社長夫人が異常に若いことはあるけど……!
現実にいるんだこういう人ぉ!?
「ふふっ……翔、明けましておめでとう。久しぶりね、元気してた?」
「おめでとう……まぁな。帰ってるなら先に言えよ」
「いや、私が言おうとしてたんだがな……」
聖十郎さんが苦笑する。
「久しぶりに帰ってきたら、とても良い話を聞いてね? 研究すっぽかして来ちゃった」
「け、研究…?」
「ふふっ。そちらが恋人さん? ……まぁ、可愛い!」
「へぇぇっ!? あ、ありがとうございます!! 前川裕香と申します!! 翔とお付き合いさせていただいてます!!」
緊張で背筋がピシィッと伸びる。
うぅぅ……!! なんかこの人、 めちゃくちゃ優しそうなのに圧が凄い……!!
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ? 経緯はだいたい“せーじゅ”から聞いてるから」
「し、紫苑……その歳で“せーじゅ”はやめろ……客人の前だぞ」
「え〜? だってこっちの方が見た目相応じゃない? 実年齢に合わせたらつまんないし」
「???? 見た目?? 実年齢??」
なんだその会話
というか、 なんかワードに違和感…。
「あ、いや、前川さん。これは違うんだ、気にしないでくれ……!」
「ゆ、裕香! そうだ……! 気にしないでくれ!」
翔のおとかはともかく、翔まで焦ってる??
えっ、 なにこれ。 なんか地雷踏んだ??
「いや、別にいいわよ?」
翔のお母さんはケロッとした顔で笑った。
「裕香さんは、ゆくゆく翔のお嫁さんになるんでしょ? だったら隠す必要もないし」
「へっ……!? よ、嫁……!?そ、そんな!」
「私………こう見えて五十二歳なの!」
「…………え?ご……ごじゅう……に……!?」
「……あ、お…おい…!紫苑。それは極秘中の極秘……」
翔のお父さんが額を押さえる。
いやいやいやいやいや待て待て待て!!
五十二!? この人が!?
どう見ても二十八とか三十手前なんだけど!?
「ふふっ」
紫苑さんは楽しそうに笑う。
「せーじゅも翔も、変な顔しちゃって」
「いや、母さんはもう少し秘密をだな……」
「神宮寺のお父さん……えっと……その……え?」
「そりゃ、そういう反応になる、この話は家族以外は公言禁止なんだ…だが、彼女は私の妻で翔と真桜は私達の実子だ…」
実子!?も…もうなにがなにやら!?!
神宮寺家に関わって、 もう一年近く経つ。
なのに、 なんでこの家は未だに驚きが尽きないんだ……!?
すると紫苑さんは、 クスッと笑いながらこちらへ歩み寄ってきた。
そして――
「……せーじゅ、翔。この子と、少し二人きりにしてくれないかしら?」
「へ…へぇぇえ!?」
お…俺は…この人に何のお話があるんだ!!?
神宮寺家…俺は無事に帰れるのか!?




