第72話 同人誌みたいな展開が多いクリスマス
ーーーー朝
「ん……寒……」
布団を被っているはずなのに、どこからかスースーと冷たい風が入り込んでくる感覚で目が覚めた。暖房は効いているはずなのに、妙に肌寒い。
モゾモゾと身体を動かして、違和感に気づく。
肌に触れるシーツの感触が、いつもより直接的すぎる。…ん?俺…裸、だ。
そして、隣に伝わる確かな体温。
見慣れた逞しい体格。寝息を立てて、満足そうに眠っているのは……恋人の翔。
「……あ。あぁ……あああああああああ!!!!」
思い出した。一気に、昨夜の記憶が奔流のように脳内を駆け巡る。
俺……し、しししし翔と……その、ついに
最後まで、シてしまったんだ。
「〜〜〜〜っ!!!!!」
寝起きだというのに、心臓が爆発しそうな勢いで跳ね上がる。
全部。全部……ぜぇ〜んぶ……!!
はっきり、くっきり、鮮明に覚えている!!
『翔……欲しい……翔……私を……お願い……』
『うん……気持ち……いい……かも……っ♡』
『翔……私……ちゃんと、女に……なれてる……?』
「あわあわわ……! 俺…、こんな、こんなセリフ……言ってた……のか……っ!?俺が…言ったのか!!?」
同人誌の読みすぎか、それとも白石さんに教えてもらった動画の影響か。
……いや、違う。あんなの、知識で言えるような言葉じゃない。
あの瞬間、あんなにも感情が込み上げて……。
「あんなに女として、見てほしかったなんて……」
自分でも引くくらいの熱量で、翔を求めていた。
もしかして、俺……受けの才能でもあるんだろうか。
隣では、翔がまだ深い眠りの中にいた。
「スーッ……スーッ……」
思わず、その透き通るような白い頬を、指先でツンッと突いてみる。
「……ん……」
ちょっと反応…でも起きない。
昨夜、あれだけ激しく俺を求めた男とは思えないほど、今は無防備だ。
「ふふ……可愛い……」
綺麗な寝顔。天使……いや、まるで神の使いのような美貌
ただの寝顔なのに、どうしてこんなに絵になるんだろう
でも、知っている。
この容姿端麗な男が、昨夜、俺だけに魅せたあの顔。
あの……支配的で、逃げ場を塞ぐような、強引で熱い眼差し
「ん……やば……」
思い出しただけで、お腹の奥がキュン……と疼いた。
ちょっと……これは、落ち着かない。
身体を洗うのと、高ぶった頭を冷やすために、ベッドを抜け出してシャワーを浴びることにした。
シャー……。
温水が肩を叩く音だけが響く浴室で、ぼーっと立ち尽くす。
「………………」
そっと、自分のお腹をさすってみる。
じわりと、昨夜の感覚がまだ奥の方に残っているような気がした。
処女、確かに失った……
いや、翔に捧げた、と言うべきか?
18年間も必死に守り抜いた童貞は、捨てる事ができなかったのに、処女としての時間は、たった半年そこらで上書きされてしまった。
確かに、ゴム越しではあったけれど
翔の、あの熱くて大きなモノが、この身体の奥まで、しっかりと、逃げ場がないくらいに届いて……
あんなものが入るなんて、人間の身体って不思議だな、なんて、どこか他人事のように感心してしまう。
「すごかったな……初体験……」
一人で慰めていた時とは、次元が違う…!
身体の本能そのものに直接働きかけられるような感覚
快感と脳が、ダイレクトに直結して、自分じゃないみたいに蕩けていく感覚。
あん!あん!なんて声、フィクションの中だけの演出だと思っていたのに、今はわかる。
色っぽく、エロくあろうとすればするほど、感度も上がり、気分も昂っていく。
そうか……「声」って、こういう意味だったんだ。
俺は確かに、あの夜
女として、殻を破ったんだと思う
物理的なものも、精神的なものも。
鏡に映る自分の顔は、昨日までより、ほんの少しだけ「女」の深みが増しているように見えた。
「俺も、土壇場になれば……ちゃんと『女』に……なれるんだな……ははっ」
温かいシャワーを浴びながら、俺は我ながら少しだけ感心しつつ、自嘲気味に笑った。
「……まぁ……でも。白石さんが言ってたみたいに、『お〇〇ぽ大好き女になっちゃう〜〜!!♡』ってセリフだけは……流石に言わなかったな……流石に……うん」
そんなバカなことを一人で呟きながら、俺は火照った顔を両手で覆った。
ーーーー
同時刻。寝室のベッド。
裕香は翔が「まだ寝ている」と確信していたが……実は、翔は裕香が起きてモゾモゾと動いた瞬間に、とっくに目を覚ましていた。
いたずら心か、それとも行為の後の気恥ずかしさを抱える裕香への彼なりの気遣いか……
翔は、裕香が部屋を出ていくまで、ずっと静かに寝たふりをしていた。
パタン、と脱衣所のドアが閉まる音が聞こえ、シャワーの音が響き始める。
……ムクッ
翔はベッドの上に上半身を起こした。
「………………ふぅ……」
「………はぁ……」
「……ぁぁあぁぁぁぁっ……!!!! き……っっっもっちよかっっった!!! 最高だったぞ……!!」
声にならない絶叫を上げながら、ベッドの上で頭を抱える。
「してしまった……! ……ついに……裕香と!!」
シーツに残る裕香の残り香と、確かな感触。
思い出しては、顔が緩んでどうしようもなくなる。
「裕香のやつ……あんな……あんな声で、あんな反応するんだな……」
翔の脳裏に、昨夜の裕香の潤んだ瞳と、熱に浮かされた表情がフラッシュバックする。
「しかし……あまりにも『女』だったな……。俺の想像以上に……今まで数多の女を抱いてきた俺だ……間違いない。裕香は、まごうことなき……極上の女となっていた……」
「…………いや、それにしても、あんな模範的で、そそる反応するか普通……!? 裕香……初めて……なんだよな? ……俺にとって、女として理想的すぎたぞ……??」
「今まで……人体再生成時のデータや……レントゲン……定期検診のデータなど……俺も全て確認していた……」
「臓器的にも……遺伝子的にも……裕香は医学的に……完全に女性へと変異していた……」
「が……! 昨夜のあの時……触れた肌の質感……胸の弾力……声……反応……行為時の感覚……。知識やデータなんかじゃない、完全に……『女』だった。俺だからこそ……言える……」
「……………はぁ……本当に……身も心も、俺の女になってたんだな……………」
「あんなに……俺を求めてくれてた……。そうか……本当に心から惚れた相手との、気持ちの乗ったエッチって……こんなに楽しくて、満たされるものなんだな……申し訳ないな、元カノ達」
「しかし……流石にな」
翔はふと、苦笑いを浮かべた。
「あの裕香でも……『翔のお〇〇ぽ大好き女になっちゃう〜!♡♡』……とまでは、言わなかったか……ちょっと期待してたんだが」
ーーーー
シャワーも終わり、下着と服をしっかり着込んで、俺はリビングのドアを開けた。
「ふぅ……」
……って、えええっ!?
さっきまで寝ていたはずの翔が、とっくに起きてキッチンに立っているではないか!
「し……翔……? もう起きてたのか……?」
俺がビクッとして固まると、翔は振り返り、いつも通りの、あの余裕たっぷりの涼しい顔で微笑んだ。
「……おう、おはよう。コーヒー、淹れるけどいるか?」
「あ……うん……。えと、ミルクもお願いしても……いいかな?」
「了解」
カチャ、カチャ
カップにコーヒーが注がれる音だけが、リビングに響く。
ソファに並んで座る俺たち。
「………………」
「………………」
お互いに、昨夜のドロドロに甘かった空気を思い出しながら
無言のまま、ズズッ……とコーヒーを啜る、気まずくも初々しい二人だった。
無言……圧倒的……無言!!
気まずい……!! これが……世に聞く『朝チュン後』のリアルなのか……!?
無言のまま、コーヒーを飲み終えてしまう俺と翔。
……さて、何から話せばいいのか。天気の事か? それとも朝ごはんの事か?
俺が視線を泳がせながら思考を巡らせていた、その時。
グイッ……!
「うおわぁっ!?」
突然腕を引かれ、俺は背中からすっぽりと、翔の大きな身体に包み込まれた。
ソファの上で、翔の膝の間に座らされるような、完全なバックハグの体勢。
「し……翔……??」
「裕香……どうだった……?」
耳元に落ちる、寝起き特有の少し掠れた低い声。
「へ……へ!? ……えーっと……えーっと……!」
うう……付き合ってから、翔のこの手の『俺様&甘やかしムーブ』が多すぎる……!
「そ……その……た、楽し……かった……」
「俺もだ。あんな気持ちになったの、初めてだ」
ななななな……なに会話してんだよ……!! 俺達は!! こうなのか!? 初体験後のカップルって、みんなこういう甘ったるい反省会みたいなのするのか!?
でも、翔の腕の中に包まれているうちに、緊張が少しずつ解けていく。
時間が経つにつれ、俺も自然と、心の奥にある本音を口にしていた。
「翔が、俺を求めてくれてるのが……凄く、心地よくて……なんか……翔になんでもしてあげたくなって……。その代わり……翔が欲しくて……堪らなくなって……」
「……おぉ……なるほど…嬉しいな…それと裕香、もう一つ聞いていいか」
「ん?」
「その……ぶっちゃけ……『女の感覚』って……どうだったんだ……?男の何倍も気持ちいいって聞くが」
翔が、どこか探るように、少しだけ気まずそうに尋ねてきた。
「あ……あ〜……うーん…俺は逆に男の頃は体験出来なかったけど…なんだろ? 同人誌みたく、ずっとビクンビクン!って感じじゃないけど……」
俺は、自分の中に残る未知の感覚を、一生懸命言葉に変換する。
「最初は圧迫感? みたいなのがあったかな。でも、俺は全然不快じゃなかったし……むしろ、それが凄く……快感……になってた、かな……?」
「そ、そうか……」
「あ……俺も……聞きたい。それこそ、翔って『女性としてる感覚』って、どんな感じなんだ? 俺はそれを味わう前に女になっちゃったから……知りたいな」
元男同士、そして今は男女の恋人同士だからこそ成立する、あまりにも特殊で、だけど純粋な疑問。
「うむ……。まぁ……お前も男の頃があったならわかるだろうが、女に対する性欲って、最初はやっぱり『本能そのもの』だろ……?」
「う……うん」
「本能の赴くままに行動できる、支配的な快感……って感じか。しかし、まぁ……元カノたちの時は、本当に『性欲発散』ぐらいにしか思ってなかったな」
「え? 男の性欲発散って、そういうもんじゃないの?」
「男もな……本当に心底惚れた、心のこもった相手とする方が、何百倍も気持ちいいし、満たされるんだよ。……そういう意味じゃ、昨夜は俺にとっても……『初体験』みたいなもんだな」
「〜〜〜っ! や……やめろよ……!! 恥ずかしい……!!」
「ははっ……! そうだな」
顔から火が出そうになって暴れる俺を、翔は愛おしそうに笑って抱きしめ返す。
そのまま、温かいリビングで密着する俺たち……。
俺の心臓は、清々しい朝だというのに、またしてもドクンドクンと激しい音を立て始めているのだった。
「おし。裕香、今日はクリスマス本番だ。出かけるから準備しろ!」
そんな俺のほわほわした空気を断ち切るように、翔がパンッと手を叩いて立ち上がった。
「あっ……! 確かに! ……って、どこに行くの?」
「カップルらしい所だ」
カップルらしい所……?? 全然見当がつかないけど……
とにかく、時間はもうお昼過ぎ。急いで着替えて支度をしよう!
カップルらしい所ってことは、それなりに気合を入れた方がいいよな……!
俺はクローゼットを漁り、ちょっとオシャレに見えそうな服をチョイスした。
デコルテが綺麗に見える白のVネックのニットワンピースに、黒のタイツ。上には淡いピンク色のノーカラーコートを羽織ってみる。我ながら、清楚で『彼氏とのデート』って感じの完璧なチョイスだ!
「翔、お待たせ……!」
意気揚々とリビングへ戻り、翔の前でくるりと回ってみせる。
「おう。……って、あ。裕香、今日はだな……その……悪いが、タートルネックにしとけ」
「へ? なんで?」
せっかく気合を入れて選んだのに。首元が寒そうだから気遣ってくれているのだろうか?
「……俺が、つけちまったからな。首にな」
「何を?」
訳がわからず首を傾げる俺に、翔はちょっと気まずそうに視線を逸らした。
気になった俺は、洗面所に走って鏡を覗き込む。
「ん……?」
そこには、俺の首筋の下部……鎖骨の少し上のあたりに、赤色の痣のようなものがくっきりと残っていた。
なんだこれ? 虫刺され? いやいや、冬に蚊なんかいるわけないし……。それに『翔がつけてしまった』って……どういうこと……?
「……よくわからないけど……翔が言うなら、タートルネックに着替えてくるね」
「お、おう」
(し……知らねぇのかよ……!! キスマークの存在を!!
どんだけ純粋なんだ!! だがまぁ……これで、昨夜の反応と合わせて、本当に完全な『未経験』だったってことが証明されたな……良かった…ああ良かったぁ!…)
ーーーー
遅めの昼食を少しお洒落なレストランで済ませた後、俺たちはまさに『カップル』っぽい王道デートを満喫した。
ゲームセンターのクレーンゲームでムキになったり、可愛い雑貨屋を二人で巡ったり……
そして時刻は、イルミネーションが点灯し始める夕方の6時ごろ。
「サイズはどうですか?」
「も、問題ないですね……!」
「わかりました! 本日はご購入、誠にありがとうございます!」
一度行ったジュエリーブランドの店を後にした。
「ま……まさか……本当に今日すぐに作ってもらうとは……」
「神宮寺の名前を出したら、速攻で製作してくれたぞ。こういう時に使えるな、この肩書きは」
「ひぇぇ……特権階級の職権乱用……」
翔は宣言通り、昨日俺がプレゼントしたブランドの店へ行き、俺のための指輪を買ってくれた。
しかも、俺の右手の薬指にぴったり合うように
ついでに、俺があげた翔の指輪もその場でサイズ調整してもらい、翔の右手の薬指に入るように直してもらったのだ。
俺と翔の右手で、お揃いのシルバーリングが冬の空気の中でキラリと光る。
これにて……完全に『恋人の証』であるペアリングの完成、というわけだ。
「さて……行くか」
「ど、どこに……? 結局、行き先聞いてないんだけど」
翔にエスコートされて連れてこられたのは……
街の中心にある、巨大な高層ビルの屋上――『空中庭園』と呼ばれる場所だった。
「す……すごい……! イルミネーション! 大きなツリー! しかも、屋台まで出てる!?」
目の前に広がったのは、何万球もの光が織りなす幻想的な空間だった。
冷たい風が吹く中、温かそうなオレンジやシャンパンゴールドの光が庭園全体を包み込んでいる。
「あんまりガチガチにリッチすぎる場所だと、裕香、緊張して苦手だろ? だから、ちょっとカジュアルに楽しめるここがいいかなってな」
「翔……」
神宮寺の御曹司なら、夜景の見える超高級フレンチの貸し切りだって簡単にできるはずだ。
なのに、庶民の俺が萎縮しないで、心から楽しめる場所をわざわざ選んでくれた。
その神がかった気遣いが……イルミネーションの光以上に、胸をじんわりと温かくさせる。
俺たちは温かい飲み物や屋台の軽食を分け合いながら、光のトンネルをゆっくりと歩いた。
庭園の縁まで行けば、眼下には宝石箱をひっくり返したような街の綺麗な夜景が広がっている。
「気に入ったか?」
「……うん……! すっごく……綺麗だ……!」
俺は右手の薬指にある指輪の感触をそっと確かめながら、満面の笑みで頷いたのだった
こんなセリフ……もう何度も言ってきた気がするけど。本当に、俺の知らない景色ばかりだ
「新鮮」という言葉。女になってから、心の中で一体何万回繰り返しただろうか。
美しいイルミネーションを堪能し、俺たちは屋上庭園から下へと降りた。
「他に行きたい所はないか?」
「……この街を、ぶらぶら歩いてみたい、かな」
「そうか、わかった。……人も多いから、はぐれないように手を繋ぐぞ」
「………うん」
翔の大きくてあたたかい男の手にしっかりと握られ、クリスマスの熱気に包まれた街並みを歩く。
街は最高潮に賑わっていた。
笑顔で歩く家族連れ、楽しそうにふざけ合う友人グループ、そして、身を寄せ合うカップルたち。そこには多種多様な、人それぞれの『聖夜の楽しみ方』が溢れていた。
「ふふ……」
「ん? どうした?」
「いや、やっと……俺もこの風景に溶け込めたんだなって、思ってさ」
「……?」
「前は、こういう風景がただただ羨ましかったんだ。みんな、一緒に楽しめる相手がいて……年相応のイベントで素直に盛り上がることができて。俺、ずっと……憧れてたんだよね」
「俺も……ちゃんとこの風景に、混ざれてるかな……?」
「当たり前だろ。混ざれてるさ。……お前がずっと憧れてた風景の一部に、俺たちは今、ちゃんとなってる。……これからも、ずっとな」
「ありがとう……翔……」
翔は本当に、いつも俺に気を遣って、大切にしてくれる……
貰ってばかりで、俺はまだ翔に何も返せていない気がする。
いつか……必ず、俺なりの恩返しをしよう。心の中でそっと誓う。
そのまま、ゆっくりと肩を並べて夜の街を歩いていく。
と、帰り道すがら、ギラギラとした黄色と黒のド派手な看板が目に飛び込んできた。
『激安の殿堂! ダイドンデイ!』
「あ……! 翔!、この店、ちょっと入ってみてもいいかな!?」
「おう、いいぞ。……また随分と庶民的なところだな」
クリスマスということもあり、店内は凄まじい人で大混雑していた!
しかし、一歩足を踏み入れると、そこはまさに魔境。天井まで隙間なく積み上げられた段ボールに、ポップな手書きの札。食品から雑貨、家電からパーティーグッズまで、ありとあらゆるものが驚異的な安値でひしめき合っている……!!
こ……こりゃすごい!!
さっきまでのロマンチックな空気はどこへやら…?
「おわわ……! ひとまず……! 今日のデザートと……ドリンク……。凄いな、本当に何でもあるな、ここ!」
見たことのないお菓子の山や、山積みの商品に目を輝かせていると……ふと、隣を歩いていた翔が、とある商品棚の前で一瞬ピタッと足を止めた。
「…………」
「……翔?」
「あ、なんでもない。……買い物はもう決まったか?」
「あ、うん、大体は」
そう言って誤魔化したものの、俺は見逃さなかった。
翔が先ほどまで食い入るように見ていたもの……それは、パーティーグッズの『コスプレコーナー』
それも、パッケージにデカデカと『魅惑のサンタクロース♡』と書かれた、超絶丈の短いサンタのミニスカコスプレだった。
(ぐぅぅ……!! 裕香に……!! 着て欲しい……!! いや、言うべきか!? すでに俺たちは同人誌を一緒に読む仲……! しかし……彼女にドンキのミニスカコスプレをして欲しいなどと懇願するのは……流石に神宮寺家として……どうなのか!?)
(それに万が一だ……こんな浮かれた物を買っているところを、あの真桜になんらかの形でバレてみろ。そしたら……俺は……俺の尊厳は……!! クソッ!)
「……くっ……!」
翔は棚から視線を外し、なにやら一瞬、ひどく悔しそうな、苦悶の表情を浮かべた。
……いや、流石に…流石にわかる…!俺でもわかる。
いや、『俺』だからこそ、あの視線の意味と葛藤が痛いほどわかるぞ……!
翔は、俺にあのサンタコスを……してほしい……んだな……?
これだ!…これか?
いやとにかく恩返しをしよう…!
先ほどの自分の決意が、まさか数十分後にこういう形で試されることになるとは思わなかった。
俺は翔の服の袖をちょいちょいと引っ張り、周囲に聞こえないようにコソッと言った。
「………着て……みよっか……?」
「え?は? んん? ……い、いや……そ、そうだな……」
俺の爆弾発言に、完璧超人の翔がかつてないほどバグった。
声が裏返り、目が泳ぎ、最後は顔を真っ赤にして口元を覆いながら、しどろもどろに頷いた。
出来るだけ翔に恩返しをする……
ま、まぁ……予想外の、かつめちゃくちゃ斜め上の方向の恩返しだけど……。
俺は、カゴの中にお菓子とドリンクと……ついでに、『サンタコス』を放り込み、レジへと向かったのだった。
ーーーーその夜
「は……はひ……はは……ど、どう……かな……??」
着替えてリビングに戻ってきた俺は、顔から火を噴きそうなほどの羞恥心に襲われていた。
パンツが見えるんじゃないかと言わんばかりの超ミニ丈のスカート…!
一応赤い上着を羽織っているとはいえ、インナーはノースリーブで、おまけにへそ出し仕様。
布面積が……布面積が圧倒的に足りない!!
ムリムリムリ!! 恥ずかしい!! し……死ぬ!! 恥ずかしすぎて……死ぬ!!
内股になってモジモジと身をよじりながら、俺は心の中で絶叫していた。
あああああ!! 数時間前の俺のアホ!! なんで着るなんて言っちゃったんだよ!! 恩返しってなんだよ!!
「あ……あぁ……」
目の前に立つ翔は、俺を見たまま完全に言葉を失い、固まっていた。
ほ……ほほほほら!! 翔もドン引きじゃないか!! 当たり前だ、元男の親友がこんなペラペラのミニスカサンタ着て出てきたら!! うううう……きつい……コスプレなんてもう二度としない!!
羞恥心が限界を突破し、俺の精神が蒸発しかけた、その時。
ガッ……!
「へ……?」
突然、翔の大きな手が俺の肩を両側から強く掴んだ。
「裕香……もう……無理だ……」
「ななな……何が?」
「我慢できねぇ……!! これを見て理性を抑えられる男がいるとしたら、そいつの頭の方がおかしい!!」
「へ、へ……? ええええ??」
ちょちょちょ!! 翔の目が!!
あの夜……昨日の夜に俺を押し倒した時の、あの熱に浮かされた雄の目をしてる!! なんで!!? ドン引きしてたんじゃないの!?
「ま、待って翔!! 昨日シたばかりだろ!?」
「俺のは大丈夫だ。……裕香……可愛すぎるぞ……」
そう言って、翔の大きな手が、ひらひらした短いスカートの下から……俺のパンツへと直接滑り込んでくる……!!
「んっ……! ちょ……! 翔……ッ!」
「……恨むなら、自分のその恐ろしい魅力を恨むんだな……!」
「やっ……! んんっ!!…うぷっ…」
抗議の声を上げる間もなく、翔の熱い唇が深く、深く重なった。
息をする隙間も与えられないほどの、貪るようなディープキス。
昨夜開発されたばかりの身体が、翔の匂いと熱に当てられて、信じられないほどの早さで甘く溶け始めていく。
結局……
クリスマス本番の今日も、俺たちは……ベッドの上で、昨日以上に激しくて甘い夜を過ごしてしまったのだった……。




