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第67話 しっぽすらないのに、とんでもない尾びれがついてた話

「それじゃ、みんな〜かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


「か……かんぱーい……!」


グラスが軽くぶつかる音

明るい笑い声。


俺は今、ファミレスの一角で、クラスメイト数人とテーブルを囲んでいる。


刈谷さん、三島さん、大島くん――

文化祭の調理班で一緒だったメンバーだ。


いい人たちだ

ほんとに、いい人たちなんだけど…


いつものメンツが、いない……!

真桜さんも、桐谷さんも、白石さんも、

そして当然、翔もいない!!


つまりこれは

完全アウェーってやつだ……!


俺は笑顔を作りながら、内心で小さく震える。

――そもそも、なんでこうなったのか。


数日前


教室で、俺は机に突っ伏しながらスマホを見つめていた。


「あ〜……返信……気になる……」


指が、つい画面に伸びそうになる。


「いや……ダメだ……我慢……!」


ぐっとこらえる。

翔ばっかり見てたら……他の人との関係、おろそかになる……!

この前、自分で気づいたばかりだ

だからこそ意識して距離を取る。


そんなことを考えながら、ぼーっとしていた時だった。


「あの……前川さん……?」


「……? へっ!? は、はい!」


びくっと顔を上げる。

声をかけてきたのは――


(えっと……確か……刈谷さん……?)


文化祭で世話になった、穏やかな女子。


「よかったらさ、今度、調理メンバーでファミレス行くんだけど……前川さんもどうかな?」


「わ、私……ですか……?!?!」


「うん。久しぶりに集まるし、せっかくだから」


にこっと笑う刈谷さん。


「え、えっと……その…ちょっと……予定、確認します……!」


「あ、うん!じゃあ連絡先交換しよっか!」



――そして放課後


「ってことがあったんだけど……翔……俺、行っていいのかな?」


「いいんじゃねぇか?

クラスメイトなんだろ?仲良くしてこいよ」


「翔が言うなら……行こうかな……」


「てか、なんで俺の許可がいるんだよ」

「クラスのやつと飯行くくらい、普通だろ」


「いや……なんていうか……」

「この前見た漫画でさ……恋人いるのに飲み会とかどうなの、みたいな展開あって……翔、気にするのかなって……」


「お前、結構影響されやすいな……」

「心配すんな俺はそんな心狭くねぇよ、信用してるしな」


「へへ……嬉しいな……!」


「楽しんでこいよ」


「……うん!ありがとう……!」


――いつものように、解散。


そして、帰り道

翔は一人、夜道を歩いていた。


「……」


「…………」



「ななななな……なにぃ!!?」


「クラスの集まり……だと……!?」


モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ……!!

胸の奥で、黒い何かがぐるぐる渦巻く。


「ぐっ……!裕香が俺を裏切るわけがない……

それは分かってる……!」


「だが……!」


「いつもと違う連中が……裕香に絡みに行く……!!」

「それだけなのに、なぜこんなに……胸が苦しい……!!」

「しかも元が男な分……同性すら警戒対象になるとは!」


「……いや、落ち着け……」


深呼吸。


「束縛はダメだ……それは違う……」


「ただのクラスメイトだ……ただの……」


「……ふふ……なるほどな……これが恋か……」


「楽しいだけじゃない……こういうのも、込みか……」


「……俺も学習の余地がある」



そして…時は戻りファミレス。


「いやー!文化祭ほんとお疲れ様!」


「前川さんのおかげで売り上げ1位だよ!」


「料理のクオリティやばかったもんね!」


「え、いやいや……そんな……!」


俺はというと……?




めちゃくちゃ、楽しい!!!

めーーちゃくちゃ楽しいんだが!?


「俺は?役に立てた?」


「あ、大島…くん?……うん!助かった!荷物運びと洗い物!」


「おい、それ雑務枠じゃねぇか!」


「いや大島“俺料理できねぇから他やるわ〜!”って言ってたやん!」


「「わはははは!」」


「あはは……!」


気を遣いすぎない距離。

これだよ……これ……!

ずっと欲しかった感覚!!


同じ目線で、同じテンポで笑える関係

あ〜……居心地いい……!!


もちろん、いつものメンバーも大好きだよ??

桐谷さんも、白石さんも、真桜さんも


でも

なんていうか……あっちは……ハイスペックすぎてなぁ

“俺なんかここにいていいのか?”っていう感覚になるのよね。


いやいや、それはそれで楽しいんだけどな!?

それに…この人達を比較するのも失礼だし…!


そんなことを考えていると


「ところでさ……アレ、どれが本当かな?」


刈谷さんが、にやっと笑う。


「あ〜アレね!答え合わせタイムきた!

私は“有名シェフの娘説”を推す!」


三島さんもノリノリ。


「いやいや、“ゲーム会社の社長令嬢説”だろ」


大島くんが真顔で言う。


「なんかさ、めちゃくちゃ高そうなゲーミングヘッドホンしてたし」


「……ん?」



なにの話……?


「実はね……前川さんの正体は何なのかって話!」


「し、正体……??」


「ほら、転校初日から真桜さんと一緒にいてさ、そこから麗華さんと光さんともすぐ仲良くなって……」


「気づいたら、あのメンバーに普通に混ざってるし……!」


「噂では“あの子もハイスペック側の人間”って言われててさ〜」


「正直、畏れ多くて話しかけられなかったんだよね……!」


「だから今回来てくれるって聞いて、めっちゃびっくりした!ほんとありがとうな、前川!」


「へ……ええぇぇ……???」



そ……そうだったのかぁぁぁぁ!!!

あーーーーー!!!

なんてことだ…皮肉!…なんたる皮肉……!!


思い返せば、確かに。

クラスでの会話はどこか業務的で、距離があった。

てっきり俺の陰キャ感が原因かと思ってた……!!


違う!!逆だった!!

近寄りがたい側に分類されてたのか俺ぇぇぇ!!

まじかよぉ…半年も気づかなかったなぁ


「……あ、あぁ……私、その……」


「おっ!答え来るか!?」


三人の視線が一斉に集まる。


逃げ場、なし

言い訳、なし

本音、あり


「な、何も……ないんです……ただの女子です……!!」


「「「ええーーー!?」」」


「うそだー!真桜さん、前川さんに距離バグってるじゃん!」


「そうそう!絶対なんかあるって!」


「俺、久我奏と普通に喋ってるの見たぞ!??

あと神崎とも!いや無理に言わなくてもいいけどさ!」


わーーー!!

誤解!誤解だってば!!


「す、すみません!!ほんとに何もないんです!!」


「えーっと……強いて言えば……神宮寺製薬の社員の娘で……!」


「あ、いや、その……真桜さんと…し…いや!

…たまたま幼馴染で……!」


「そうだったの!?あの真桜さんと幼馴染!?」


「いやそれ普通に“ある側”じゃん!!」


「なるほどね〜!そういうことか〜!」



「そ、そうですね〜……たまたま運が良かっただけの

……一般女子でございます……」


「いやいや、“一般女子”であの中入れるのすごくないか?

前川、人に好かれる才能あるだろ」


大島くんがグイグイ褒めてくれる…


「えぇ……な、ないよぉ……」



俺はただの

虎の威を借りまくった狐です

虎だけじゃなく、熊とかゴリラとかライオンとか

多分、龍の威も借りてる。


なので、心の中で静かに土下座した。


変な誤解が処理されたのか、その後は空気は一気に和らいだ。

会話は自然と、日常の話へ。


「へー!社宅で一人暮らし?寂しくない?」 


「休日ゲームするの?俺もやるぞ!」


「神宮寺製薬の食堂ってやっぱ美味いんだ?」


「あ、うん……まぁ……!」


気づけば、普通に会話してる

なんだかんだ普通に楽しい。


――その時。

誰かが、にやっと笑った。


「……そんじゃ〜……本題いきますか!」 


「いいね!刈谷!」


お酒も入ってないというのに…

盛り上がたらこうなる。


「前川さん……恋人いる?」


「!?!?!?!?そ、それは〜……その…」


「ふふ……前川さん可愛いし、ずっと気になってたんだよね〜」


「……男子の間でも結構話題になってたぞ……?」


「えぇ……!?」


やばいやばいやばい……!!

一応、翔には言われている。

“名前出さなきゃ適当にごまかしていい”と。


でも――

ここで変に目立つのも……!



そして……


「い……今のところは……いない……かな……?」


言った

言ってしまった……嘘を…ついてしまった!

 

「……ふーんこれは……嘘ついてる顔だね」


「えっ!?わかるの!?」


「勘!笑」


なぜバレた!汗舐める奴か!?

それとも女の勘か!?なんで俺の嘘がバレたんだよ!!


「前川さーん、教えてよ〜!」


「気になる人でもいいからさ〜!」


「私たち友達じゃーん!」


ぐいぐい来る二人

距離が近い近い。


「わ、わわわわ……!」


た、助けてぇぇぇ……翔ぉぉぉ!!

ひぃぃぃ!!なんで女子って恋バナこんな好きなんだ!!

必須科目なのか!?


その時だった。 


「……おい、やめてやれよ。刈谷、三島。

前川困ってるぞ?」


救世主、現る。


「お?大島、点数稼ぎか〜?」


「女3男1だからって無理しなくていいぞ〜?」


「違ぇよ!普通に言っただけだ!前川、大丈夫か?」


「あ……うん、大丈夫……ありがと……」


「……そっか。ならいいけどな。

ほら、今日はもうお開きだろ。あがろうぜ」


その一言で、場はすんなり解散ムードへ

助かったぁ…この人なんて有難いお方。


店の外。


「じゃあ私と三島はここでー!」


「ふたりっきりだからって前川さん狙うなよ〜!

また集まろう〜!」


「うるせぇよバカ!またな」


「今日はありがとうございました…!また…!」


「また明日ー!」


わいわいと去っていく二人



「……」

「……」 


残されたのは、俺と大島くん。


あれ?これ……

2人きりってやつでは……?


「途中まで送るよ」


「え?あ、ありがとう……」


歩き出す

冬の空気が少し冷たい。


「なぁ、前川。今日、楽しかったか?」


「へ!?あ……うん!楽しかったよ!誤解も解けたし……!」


「そっか。それならよかった」


大島くんが、少し照れたように笑う。


「またこういうの、やりたいな」


「はは……そうだね……」


――沈黙


「……あのさ、前川、よかったら……連絡先、交換しない?

前から話したいと思ってたし……その……よければだけど」


「……!」



あ〜、これ……

“そういう顔”…と思っていいのかな?

こんな…こんな…図々しくて自惚れた発想なんてしてもいいのだろうか。


半年間、女子として生きてきた経験と

その顔はいつも“あの人”に向けられている事により

だから、分かってしまう。


多分…好意、ある……これ…


胸がきゅっと締まる

……誤魔化すのは違うな。


「も、申し訳ないんだけど……ちょっと、聞いてみる人がいる」


「あ…………それって」


「うん………彼氏。ごめんファミレスでは嘘ついてて」


「……そっか」


大島くんは、小さく笑った。


「いや、こっちこそごめん。迷惑かけたな」


「め、迷惑なんて……!」


「迷惑だろ!彼氏いるのにこんな距離で来られたらさ……」

「変な噂になったら、俺ちゃんと謝るから」


「いやいや!ほんと大丈夫だから!」


いい人すぎるだろこの人……!!

罪悪感……うう。


「じゃ、ここで。今日はありがとな、前川。また……皆でな」


「うん!こちらこそ!また…みんなで!」


手を振って別れる。



その後

一人歩く大島

スマホを取り出し、通話。


『お!どうだった?いけた?』


「あー……無理だった。彼氏いた」


『うわマジか〜!それはドンマイ!』


「そりゃ見逃されねぇよ、あれは…」


『でも大島いい男ムーブ完璧だったじゃん!』


「そうか?でも無意味だったな。

あ〜〜〜……失恋した。きっっつ!思ったよりキテるわ…俺」


『男なんだからシャキッとしなよ〜

……私でよければ、話聞くけど?』


「……頼むわ、刈谷」


放課後。


「なぁ、翔……俺、多分、大島くんに狙われてた」


「!?!?!?!?!?!?」


「ちょ、ちょっと待て……今なんて言った……!?」


翔がものすごい動揺しとる…


「連絡先聞かれてさ……その時の顔が……多分……って感じで」


「ほぉ……?」

(おいおいおい?どこの馬の骨だ?俺の裕香に色目付けくるやつは……?)


「それで?」


「彼氏いるって言ったら…なんか…気まずくなった」


「なるほどな、それは狙ってたな」


「やっぱり?はぁ…なんか複雑…友達として仲良くやって行けそうだったのに…」


「男女の友情ってのは難しいもんさ。

お前、自覚ないだけで男子からの評判いいぞ?」

(しょうもない有象無象はもちろん近づけさせんがな)


「えぇ……そんな……俺なんて……うぷっ!?」


翔に口を塞がれる。


「おい裕香そろそろ“俺なんて”はやめろ

俺はその“俺なんて”に全力出してるんだが?」


「……あ……そうだなつい口癖で……気をつける」


「口癖になってるなら常日頃から意識する必要があるな。

言っとくが俺に失礼だぞ?それに、その大島ってやつにもな」


「うぅ……も、申し訳ない」


「あ~、それにしても好意断るのって……めっちゃ気力使うな……」


「やっと分かったか…!俺はほぼ毎週やってるからな」


「え、最近も?」


「おう、昨日も後輩にな。当然断ったが」


「…………ふーん」



ぎゅっ!!


「!?!?!?」


俺は、翔に抱きついていた。


(ゆゆゆゆゆゆゆ、裕香ぁ!?)


「なんか……モヤモヤする……」


俺は翔のお腹に顔を押し付ける。


「ちょっと……こうしてていいか……?」


「……ああ気が済むまでな」


(クラスメイトの……大島)

(さっきまでどうしてやろうたとか考えてたが)

(なんあどうでもよくなった…!)


(今はそれどころじゃない…可愛い。裕香がただただ愛しい…!そうだな報復とか良くないな…!)



冬の空気の中

二人の距離は今日も温かかった。

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