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第65話 初めての恋にしても、知らない事が多すぎる!

じゅうにがつなのか、にちようび


あさ、おきたけどまだあたまがふわふわしてます。


「………んーっと……んーっと…きおくが…」


「あれぇ?…えっと…きのー……しょうに……」


『駄目だ…俺が……どれだけ待ったと思ってる?

もう、俺に我慢させないでくれ』


じわじわと意識がはっきりしてくる。


「あわわわわ…、あわわわわ…」

「お…俺…翔とキスしてしまった…!!うわあああ!!!」


キキキキ…キス……確かに、した!


目を閉じた瞬間、唇に触れられて――

その後のことは、正直よく覚えていない。


あまりにも突然で、頭が真っ白になって。

気づいたら、全部がふわふわしていた。


「いきなり……してくるなんて…

いや……仕方ないぞ……あんな……あんな顔されたら……」


思い出すだけで、顔が熱くなる。


「うぅ……俺……完全に女子として自認してたよな……」


今さら、という感じもある。

もうとっくに、自覚はしていた。


――でも。

女子として生活しているうちに、どこかで“スイッチ”ができていた気がする。


普段は、“俺”として、前野裕介として、なんとか自我を保っている。


けど……

一度それが入ると――


「ううううぅぅぅ!!は、恥ずかしい……!!いや、なんかこう……胸が……キュンって……切なくて…!」


言葉にできない熱い感覚が、身体の奥に広がる。


「ん…………翔……と……恋人に……ついに……」


「わわわわわ……!!」


耐えきれず、スマホを手に取る。


通知が一件きてた


【昨日は、受けてくれてありがとう。本当に嬉しかったよ】


【友達から恋人……って、俺達の関係は特殊すぎるからな。普段通りでいこう】


【学校では、あまり話せないと思う。でも、少しでも会える時間を楽しみにしてる】


余りにも、お気遣いなメッセージ…

思わず、にやける。


「へへへ〜……!翔からメッセージ……なんて返そうかな……」


たったそれだけで、こんなに嬉しいのか。


悩む時間すら、楽しい…!



――そして、翌朝。


「はぁ……あ〜……寝不足じゃない登校って……こんなに幸せなのか……」


普通の朝

普通の通学

何もないというのが、こんなに恵まれてるなんて。 


「やっと……俺の安定した日常が……再び始まる!」


ガラッ――


教室のドアを開ける。


「お……おはよ……ございます……」


いつもの調子で、少しだけおどおどしながら。

視線を向ける。



「へへへ!」

「なはは!」

「ふふっ……!」


三人が、こちらを見ている。

完全に、何かを聞き出す気満々の目だ。


ですよね〜……

ああ、やっぱり、こうなるか。


迫りくるかと思いきや……


キーンコーンカーンコーン――


朝のチャイムが、教室に響く。



た、助かった……!いや、執行猶予だ…これ!

むしろ…向こうに質問の内容に考えさせてるし…


そして、昼休み。


「ゆかっち食べるぞー!このー!!」


「外のベンチ行こ!」


「飲み物用意しなくちゃね」


桐谷さんの合図で即座に囲まれる…

とほほ、逃げ場は、もうない。


ーーーー


「……ってことがありまして……

一応……その……無事に……付き合いました……?」


「なははは!一件落着なのだ!」


「おめでと〜、ゆかっち〜!

あーあ、私のゆかっち、兄ぃに取られちゃったな〜」


「ふふ……本当に良かったね、裕香さん」


(ああああぁ……!!よかった……本当に……!!)

(2人とも……ちゃんと……!!)

(うう……私、どうなるかと思った……!)



「あはは……そうですね……」


「そんで〜?今日は大丈夫なの?」


「せっかくのお昼なのに、会わなくていいの?裕香さん」


「あ……うん。翔は……周りとか、私のことも気遣ってるから……

学校では、あんまり会わない方がいいかなって……」


「えー!?それは寂しいぞ!?普通に会えばいいのに!」


「そうなんだけど……2人で話し合って決めたことだから……」

「それと……付き合ってることも……な、内緒で……!」


「ありゃ〜これはなかなか大変そうだね〜」


「う……うん…でも、メッセージは……今もしてるし……それで大丈夫かなって……」


「ふふ……甘酸っぱいわね……」


「はは…そうなのかな?」


恋愛の報告ってこんなに初々しいしくなってしまのか…

でも、祝ってもらえて少し嬉しさもあった。


そして真桜さんが深く切り込む。


「それでさ〜……ゆかっち」


「……ん?」


「告られた後……どうだったの?」


「――っ!?」


カー……………ッ!


一昨日の事を想像した瞬間、一瞬で、顔が熱くなる。


「へ…へへと……えと……その……あ…の…それは〜…」



「……ふーん、なるほどね」


「なは〜……大胆……」


「はわわわわ……裕香さん……!」


俺のリアクションで三人は大体察した……



一方、その頃1組。


「おーう、翔。飯食おうぜ」


「だな」


いつも通りの空気。


「それで……神宮寺くん。どうだったんだい?」


「…………まぁ、聞いてくるとは思ってたがな」


翔が小さく息を吐く。

その時――


「わ、私も……!!」


「うぉっ!?神崎!?落ち着けって!」


飯田が驚く。


「はぁ……はぁ……」


神崎は息を整えながら、

まっすぐ翔を見る。


「翔くん……6日……どうだったの……?」


「お、おう…そうだな」


「この前の誤解は解けた。

そして……無事に、想いは伝え合えた」


「……それって……」


「いい知らせだと思ってくれていい」


「まじか!!やるな!翔!」


「おお……神宮寺くん……良かったね!」


「う……うぅ……やっと……報われた……!

良かった……本当に……良かった……」



「いや、お前ら…そんな強いリアクションしなくてもいいぞ……」


「しかしよぉこの前まで死んだ顔でコルチンなんたらとか言ってた奴がよ、今はこの顔だぜ?」


「コルチゾールな、おかげ様で今はオキシトシンが分泌してる。気分が非常にいい」


「またよくわかんねぇこと言ってるぞ、久我」


「オキシトシン…いわゆる幸せホルモン。ストレスを緩和する効果があるね……確かに、顔色がかなり良くなってる」


「うんうん……私もそう見える」


「はは、そりゃどうも」


飯田が弁当をつつきながら聞く。


「昼休みとか、一緒にいねぇのか?」


「まぁな、この辺はちょいと面倒でな。

今だにコソコソしてる奴らもいるし、少なくとも学内では会わないようにって、話してる」


「へぇ、意外と大変なんだな」


「そうでもないさ。その分、プライベートで楽しめばいい」


「恋人ができても、その辺は徹底してるんだね」


「アイツにだけは迷惑はかけたくないからな

……初めて、俺から告白した相手だし」


「早速惚気てんじゃねぇか」


「これは珍しい……神宮寺くんの惚気……初観測だね」


「私達……初めて聞いたかも……!」



「お前らな…」


昼休みが終わり、授業へ。


だが――

翔の意識は、教室にはなかった

完全に、一昨日の記憶へ飛んでいた。


(惚気……ねぇ……これでも我慢してる方なんだが?)

(ついに……ついに……ついに…!!!!)

(付き合えた……!!裕香と!おおおおお!!)


ノートは開いている。

ペンも握っている。

だが、一文字も書かれていない。


(ああ……絶縁の危機もあったが……無事に……!!)

(乗り越えた……!俺は……やったぞ……!!)


(幸せだ……今、俺は……強い幸福感を得ている……)

(これが……恋愛…!真剣で、本気の恋愛……!)

(俺にも人をこれほど強く想えるとはな…!)


(あ〜〜……会いてぇ……裕香に……何してるんだろうか)


(一昨日…まず、あのコーデだ……)

(可愛かった……いや、普通に可愛すぎた……)

(ゆるニット……フレアスカート……タイツ……ブーツ……)


(よく俺、平常心保てたな……?)

(いや、保ててなかったな……内心は大荒れだった)

(とにかく……俺は“余裕のある男”を演じた……)

(かなり気を張ったがな……)


静かにチョークの音が響く。

翔の脳内では、全く別の映像が上映中。


(デートプランは完璧だった……完璧に決まった……!)


(……まぁ……そして、その後は…色々しゃべって…

キス……したわけだが……)


(あ゛あ゛ぁ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!)

(さいっっっこうだったな……!!!)


(あの顔……目閉じて……受け入れてきて……)

(俺を殺す気か……?いや、死んでもいいなあれは……

いや、やっぱりだめだ、もっと堪能してぇ…!)


(……が、帰りの車の中…あれは予想外だったな……)

(ホワホワと完全に上の空だった)


(あれは………今までの女子と同じ反応………幸せそうな顔)


(…………TSメス堕ちって、存在するんだな)


――結論。

妙に納得した顔。


その瞬間。


「神宮寺」


「……!……はい」


「この式の回答は?」


「44です」


「……正解。流石だ」

(ぼーっとしてたのに当てたか……)


上の空でも天才は天才

授業の内容は、頭に入ってはいたが

まだ半分、別の世界にいた。


ーーーー


放課後、友達と別れた後、俺はそのまま校内に残っていた。

最終下校時間まで、適当に時間を潰す。


理由は、もちろん…!


「おう、裕香。待たせたな」


「……!翔!お疲れ!」


「お疲れさんだ」

(今日も可愛い…推せる。俺のために待っててくれたのか……?嬉しいな……結婚してぇ……)



「……大丈夫かな?」


思わず、周囲を見回す。


「心配すんな、塚本さんが確認してる。

変なストーカーはいねぇよ」


「そっか……塚本さんにも、感謝しないとだね」


「そうだな」


外はすっかり暗くなっていた。

冬の空気が、静かに冷えていく。


「……正直さまだ、実感ないや」


「そうか?」俺は、してるぞ?」


「あはは……俺……恋人って初めてだし……」

「なんていうか……恋人って、何するんだろうなって……」


自分で言ってて、少し恥ずかしい…

でも、実際恋人なんて漫画やゲームの世界だけぐらいの認識だった。



「なんだ、そんなことか別に、恋人だからって“しなきゃいけないこと”も、“しちゃいけないこと”もない、普段通りでいい」


「想い合って、自然体でいればいいんだよ」


「……なるほど……?」


――恋人。

俺にとっては、まだ輪郭のないもの。


「これからさ」


少しだけ勇気を出して言う。


「こうやって、一緒にいる時間……増えたらいいな、翔と」


「ほぉ?裕香から言ってくれるのか。ありがたいな」


「うっ…し、自然体だ!自然体!」


「ははは!自然体だな!確かに!」


また、顔が熱くなる。


そのまま

話しては、沈黙

話しては、沈黙

でも、その沈黙が嫌じゃない。


むしろ――

じわじわと、胸が温かくしてくれる。


「…………」


ビュウッ――


冷たい風が吹く。

一気に、手先の感覚が奪われる。


「……っ寒っ!」



俺は思わず、手を口元に寄せる。

はぁ、と息をかける。


「……手、冷たいな」


言った瞬間思った


余りにもコテコテ過ぎるヒロインのセリフ…!


自分で自分にツッコむ。

いや、そんなつもりじゃなかったけどな…


ただ、寒かっただけなのに…!!



その時。


スッ――



ぎゅっ


「……へ?」


気づけば、手が繋がれていた。


「ちょっとありきたりだな、裕香」


翔が、少しだけ笑う。


「う……うぅ……わざとじゃないのに……」


「別にいいだろ、ほら、あったかいだろ?俺の手」


「ま、まぁ…そうだな…」


「もっと素直に甘えてくれていいんだぞ?俺の恋人なんだから」


「……っや……やめてくれ……!恥ずかしくなってきた……!」


そんなストレートに言われると…もう…スイッチが

入ってしまううぅぅ……


手を繋ぎながら暫く歩く。


「恋人……か……」


ぽつりと呟く。


「翔は……俺のこと……女として見てるのか?」


「女のお前も見てるって感じだな。なんだ?いやか?女として見られるのが」


「いや…そんな今更だしな…それに、あの同人誌が俺のきっかけになったし…」


「…あ…あぁ…その話はちと…またな…」


「い…いやそういうわけじゃ!正直……ドキドキ、するかな…

自分でもよく分からない感覚。

自分の女な部分を見透かされて、ちょっとへんな快感が…


「どうしよう……一人称“私”にした方がいいかな?口調とかも……」



「それは気にしないな俺の前では、いつも通りでいい」

(正直、TS女子の醍醐味…“俺っ娘属性”はそのままでいてほしいが……)



「そっか……!じゃあ、翔の前では普段通りにする!」


「ああ、それでいい」


やがて、社宅の前。

足が止まる。


「それじゃ、またな、裕香」


「うん……送ってくれて、ありがとう……!」


「あ、あの……翔……」


「……ん?」


「メッセージ……送るから……ちゃんと返して…くれよな?」


「……!?!?!?!?!?」


「もちろんだ、心配すんな」


そう言って、背を向け帰っていった。


部屋に戻り、ドアを閉めた瞬間、力が抜ける。


「はぁ……」


そして、ぽすっとベッドに倒れ込む。


「へへへ……変なこと言っちゃったかな…???」


「重くないか……?俺……面倒くさいって……思われてないかな……」


「甘えるって……どうするんだろ??……それに……“女の俺”も……」


「あ〜…女の甘え方……知りたい……!」


「恋って……分からないことだらけだな……」


まだまだ、勉強が必要だ。



一方、その頃、帰路につく翔。


「おおぉ……あいつ……早速、甘えてきやがった……」


「可愛い……可愛すぎるー!!!!……ズルいな……あれは……」


「どんどん“女の顔”になってきてるな……」


「下手すりゃ、その辺の女子より女子してるぞ……」


苦笑しながらも、

どこか誇らしげに。


「さて、甘えられてやるか…!」


俺達の、かなり奇妙な恋

でも確かに

今、ここから始まったばかりだった。

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