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第64話 ついに…ついに来てしまった約束の日!!

前野裕介としての過去を、すべて手放したから2日。


やっと、前に進める

思えば、長かった気がする。


たった半年ちょっとのはずなのに、

まるで何年分も生きたみたいに濃くて――重くて。


そして、その先にある日が、ついにやってきた。


12月6日


「つ、つつつ……ついに……この日が……きた……」


部屋の中で、俺は一人、ぐるぐると歩き回っていた。


「ひぃぃ……やばい……やばい……」


ゆるニットにフレアスカート……タイツとブーツ


「うーん…派手すぎず…地味すぎず…こんなのかな…?」


思いつく限りのオシャレをして、鏡を見て…落ち着きがない。


「……ていうか想いを伝えるって……どう伝えればいいのかな…?」


「同人誌の件も……誤解は解けたし……」


「わ、わからん……!!」


今になって、急に恥ずかしくなってきた。 


いや、しかし待て

ここまで来て逃げるのは違う…!!


女子会で、あれだけ背中を押されて

自分でも、覚悟を決めたはずだ。


「……よし、今さら弱音はなしだ」


「そろそろ時間だな」


深呼吸…ふぅ…ふぅ…!


「……行くぞ」


勢いよく、部屋を飛び出した。


社宅前


「えーっと……いつもの車……」


辺りを見渡す。


「あれ……?」


いつも迎えに来る、黒塗りの高級車が見当たらない。


「……時間、間違えた?」


少し不安になる

その時――

視界の端に、違和感。


白い車

SUVタイプの、明らかに良い外国製の高級車

エンブレムは……逆Y字みたいな、あのマーク。



それ故に違和感ありまくりのフロントガラスの端に、

貼られた若葉マーク。


「……まさか……」


プッ!


と軽いクラクション。


「!?」


恐る恐る、近づく

ウィンドウが下がる。 


「おう、裕香。乗ってくれ」


「……翔?」


ハンドルを握っているのは、翔だった。


「し……翔!?運転してんの!?それ!?」


「ん?18になった時に。免許は取った」


「裕香も来月だろ?取っとけ。何かと便利だぞ」


「いや……いつの間に……」


情報量が多いが…

とりあえず言われるまま、助手席へ。


ドアを開ける。


「……うわ……」


内装が、もう違う…

触れるもの全部が、上質。


指先に触れるシートは、しっとりとした質感で、体にぴたりと吸い付く。


無駄がないのに、どこか近未来的なデザイン

正面には、大きなディスプレイ、ゲームできそうじゃん。


なんかこう…高級車っ!っていうイメージを全部詰め込んだ感じだ。


「……これ、買ったのか?」


「おう免許取得記念だ。悪くないだろ?」


「コックピットみたいで気に入ってる」

「……かっこいい……でも、初心者マーク……」


「し、仕方ないだろ!法律だ!」


「法律なのか!?初心者マークって」


「その辺は教習で習う…よし、行くか」


「行くかって……どこに?」


「とことん遊ぶんだよ。ここまで色々あっただろ。アクテビティな1日にしてやるよ」


「……なるほど……?アクテビティ…?」


アクテビティな遊びってなんだろうか…?

アウトドア的な事するのかな?


「……じゃあ、任せる」


「任された」


エンジンが静かに唸る。

車が、ゆっくりと動き出す……加速が…速い!


「うわっ……!こ、こわい……!」


「大丈夫だ、俺の運転は文句なしとの評価をもらってる」


「誰から!?」


「教習所の教官だ。かつてないほど安定した運転だとよ」


「へ…へぇ…」



車は滑るように道路へ出ていく。

街の景色が、ゆっくりと流れ始める。


――これから。

翔と二人きりの特別な時間が始まる。



高速道路を走り抜けて

やがて、視界の先にそれが現れる。


空へと伸びる、一本の塔。

まるでそのまま、空に突き刺さるみたいに。


「ス……スカイツリー……!」



「定番だがな。最初のアクティビティにはちょうどいいと思って」


「い……行きたかったんだよな……建設されてから……

ずっとテレビで見るだけでさ……」



「じゃあ――行くか」


車が静かに駐車場へ滑り込む。


入口…人は多い

海外の観光客も多い…というか外国人ばかりだ。

でも――


「……あれ?並ばなくていいのか?」


「予約してある、時間指定だ。すぐ乗れる」


「さすが……」



スタッフに案内され、そのままエレベーターへ。


「では、展望デッキまでご案内します」



そして――

ぐん、と身体が沈む。


「うおぉっ!?」


一瞬で、上へ

ぐんぐんと、景色が遠ざかっていく

耳が、少しだけキーンとする。


「はや…こんな速度で上がってんのか……」


気づけば、あっという間に到着。

扉が開く。

そして――


広がる景色。


「……おわぁ……た、高ぁ……」


ガラス越しに広がる東京の街。

ビルも、道路も、人の流れも。

全部が小さくなって、ひとつの景色になっている。


さっきまでの緊張も、不安も、

全部、どこかに吹き飛んでいく。


「……どうだ?」


隣で、翔が静かに聞く。


「凄い…来てよかった…!」



ここから少しずつ、

“特別な時間”が、積み重なっていく。



次に連れてこられたのは――

東京タワーの地下。

そこに広がっていたのは、まるで別世界だった。


「お……おおおおぉぉ!!!」


足元一面に広がるディスプレイ

踏み込めば、光が弾けて、映像が反応する。


壁面には巨大なスクリーン。


VRゴーグル、センサー、インタラクティブな演出。


と…とにかく新感覚の塊だった!!


「こういうの、好きだろ?裕香は特に」


「だ……大好きだ!!」


「そりゃ良かった」



――楽しい

純粋に、楽しい…!


体を動かして、笑って、はしゃいで。

気づけば、時間なんてあっという間に過ぎていく。


…あれ?…これ……普通に遊んでるだけじゃ……?

い、いつ……言うんだ……?言えばいいんだ?


俺は、タイミングを探していたがなかなか見つからない


…まぁ、いっか!今は……この時間を楽しもう!



気づけば、夕方。


「は……腹減った……ご飯は決めてるのか?翔」


「おうこれまたアクティビティだな…!」


「夕ご飯に……アクティビティ?」


想像がつかないが

テーマパーク的な何かな……?


そんなことを考えながら、車を降りる。


案内されたのは

どこか居酒屋のような外観

でも、やけに広い

そして、妙に賑やかだ。


「いらっしゃいませー!」


「予約していた神宮寺です」


「はい、こちらへどうぞ」


またもや予約…できる男だなぁ

案内されるまま進んでいくと――


思わず足が止まる

そこにあったのは、船の形をした席。


そして、その下には――


「え……?」


俺は覗き込む


魚が、泳いでいる…!?


「……なにこれ……?」



「よし、釣るぞ」


手渡される、釣り竿


「つる……?今?」


「そうだ、ここで釣った魚、そのまま調理してくれる」


「ざ、斬新すぎる飲食店だ…」


「はは…!結構昔からあるぞ、こういう店。今日は初めてを詰め込む日だからな」


「……なるほど……?」


完全に翔のペースだ。


踊らされてる気がするが

嫌じゃない…むしろ、楽しい。


「……よし」


釣り糸を垂らす。


数秒…………


ぴくっ。


「お、おお!?つ、釣れた!!」


「おー、鯛じゃねぇか。やるな裕香」



一方で――


ぽん、ぽん、と。

次々に魚を釣り上げる翔。


「な…なんで翔そんなに釣ってるんだ!?釣り竿の性能か!?」


「コツだ。魚の呼吸を掴め…!」


「魚の呼吸?!」


そんなやり取りをしているうちに――


「お待たせしました〜」


料理が運ばれてくる。

さっき釣った魚が、

刺身になり、煮付けになり、

豪華な一皿へと変わっていた。


うまそうだが…なんというか…命を食べるってこういう事なんだなと……

お魚さん、貴方の命は無駄にはしません…!


手を合わせる。


「うまい…!」


「美味いな、新鮮な味だ…」

翔も静かに頷く。


味も、空気も、時間も

全部が、満たされていく。


でも……そろそろ……


「な、なぁ……翔」


「ん?」


「あの時の……俺……その……」


言葉を探すが


「ああ、それな……もう少し、待ってくれ」


「え?」


「今日はお前との時間を、ただ楽しみたい」




「あ、そっか…!……そうだな。わかった…!」


くっ……

なんだそのセリフ……

キザすぎる……!でも……

翔が言うと、普通にカッコいいのズルい…


胸の奥が、じわり熱くなる。


食事を終え、再び車へ。


「美味かったか?」


「そ、そう……だな」


うわわわわ…タイミング…いつ言えばいいんだよ…!!

それに翔は、やけに余裕…?クールだし…


間違いなく、楽しかった……が

それだけじゃ終われない!!

終わらせたくない…!


そんな焦りが、胸の奥でじわじわ膨らんでいく。


「なぁ、裕香」


「……!」


「最後に、寄りたい場所がある」


「え?……あ、うん」


どこだろう?

そう思ったまま、車は静かに走り出す。


会話は、ない。

ただ、流れていく街灯と、窓に映る自分の顔。


ドクン……ドクン……

やけに大きく聞こえる、心臓の音。


あれ?……今日って、もしかして……

普通に遊ぶ日……だったのか?


いや……違うはずだ!!


一昨日……ちゃんと……言い合ったよな??


考えれば考えるほど、分からなくなる。

翔の考えてることが……


数十分後。


車が止まる

ドアを開けて、外に出る。


「……あ!」



「あー……懐かしいな」


「そうだな」


そこは――

5ヶ月前、あの夜に来た場所。

(22話参照)


街を一望できる、高台の夜景。


「はは…あの時、思い出すなぁ」


「おう、あの時はまだ、お前は竜鬼会に震えてたな」


「だなぁ……ほんとに懐かしいな」


当時、アパートで遭遇し恐怖で足がすくんで

どうしようもなくなって

バイクで連れてこられた、この場所。


「まさか、またここに来るなんてな、今度は車で」


「それに……竜鬼会のことも……

終わって……翔、ほんとにありがとう」



「よせって……お前が――」


「お前が、特別に大事だから」


「…………」


「……うん、ありがと…」


語彙力が減ってきた…ついに来たって空気になる…


「なぁ、裕香」


「!?……はい!!」



「俺は、お前のことが好きだ……心の底から、大好きだ」


「……裕介だった頃から」



「…………うん……」


ついに、来た

ずっと言いたくて言われたかった言葉。


俺も、逃げるな…!


息を吸って……吐いて。


「俺も……翔から、そんな風に想ってもらえて……嬉しい」


「正直……今……気持ち悪いと思うけど、ドキドキしてる……」



「俺もだよずっと……言いたかった」


翔は俺に肩が触れるくらに近づき


「俺と――恋人になってくれないか?」




「……うん…………喜んで」



頭が真っ白になりホワホワしながら…俺も……

もう、答えてしまった……



「……本当か?」


「本当だよ。俺も…俺でよければ……!」



「ありがとう、裕香」


静かな声……からの


「あぁぁぁ……!!やっっっと言えた……!!!」


「はぁ……長かった……ほんとに……」



「へ!?な、長かったのか!?」



「長いぞ?俺の本見てるくせに、去年の文化祭の準備の時に一目ぼれだ…人の性癖歪めやがって…文句あるか!?」


「え、えぇ……」


「今だから言うが、3年になってお前に近づいたの、半分は好意だ。」


「そ、そんなに前からか……!全然気づかなかった……」


「そうか……気づかなかったのか……」


どこか、少しだけ寂しそうに笑う翔。


「で、でも……翔……本当に……俺でいいのか?……その……元男で……こんな地味だし……気持ち悪くないのか?」


う…!自分で言っておきながら結構傷つく…!


でも――

聞かずにはいられなかった。


すると翔は、迷いなく言う。


「お前がいいんだよ。こんなありきたりなセリフ、言わせるな」


「……お前しかいない。お前以外、ありえない」


「お、重い……!重いぞ翔…!」


思わずツッコむ。


でも――

その重さがけ嬉しい

まるで自分の全てを見ててくれてそうで…


「そういう裕香はどうなんだ?俺でよかったのか?……そっちこそ、男と付き合うんだぞ」


「へ……!?……あ……う、うん……」


「なんだろうな……最初は、友達として……尊敬してて……」


「女子として生活してるうちに……その……」


あ、あれ?言葉が、出てこない

何を言えばいいんだ??えーっと…えーっと!


「うぅ……恥ずかしい……!」


「はは……!無理して言わなくていい。その反応で十分だ」


「むぅ…!」


助かったような、でも少し悔しいような。

不思議な気持ちになる。

――でも。

本当に、不思議だ。

最初は、違う人に惹かれていたはずなのに。


気づけば

翔の隣が、一番落ち着く場所になっていた

恋人を想像する度に翔が出てくることが増えてきた。


俺は夜景を見つめながら、ぽつりと呟く。


「不思議な気持ち…本当に、“前川裕香”として……新しく歩めそうだ」



「歩もう、一緒にな」


「……うん」


その一言で、胸が満たされる。


静かな沈黙。

でも、気まずくない。


その中で。

俺は、少しだけ恋人として甘えて…みた。


「な……なぁ……し、翔……」


「ん?」


「て、てててて、手を……」


「繋いでも……いいか……?」



「ああ」



次の瞬間

そっと、手が触れる

指先から、ゆっくりと。


そして――

指と指が、絡む。


離れないように

包み込むように。


「……あったかい……」



「翔……」


「ハグ……しても……いい?」


「ああ」



恐る恐る、近づく……


次の瞬間には、もう包まれていた。


しっかりと

優しく

逃げ場をなくすみたいに。


「……落ち着くか?」


「……うん……」


胸に顔を埋める。

ほんのりと久しぶりに感じる、男の匂い。


でも、これまでの誰のハグより…

今までで一番、安心する。


離れたくないな…


こんなに…翔の事…好きになってたんだな……


じんわりと、実感が広がる。

やがて、ゆっくりと体が離れる。 


「……裕香」


顎に、指が触れた。


くい、と

視線を上に向けられる……?


「……へ?……え?」


距離が、一気……まてまてまてまてまて!!!!

あれ…?あれあれ??


「ちょ……!」


心臓がバクバク…!!

ちちょい…!!ちょいちょい!!?



「し、翔……!まだ……その……早いというか……!」


「駄目だ…!」


「……?」


「俺が……どれだけ待ったと思ってる?

もう、俺に我慢させないでくれ」



……ずるい。本当に……ずるい…

そんな顔、されたら


堕ちない"女子"は……いない。


「……んっ…」


自然と、目を閉じていた

受け入れるために。


次の瞬間


唇に、そっと…確かに

優しく翔の口元が………触れた。

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