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第57話 オタクの戦地へといざ出陣!!

ついに来た!!コミレジェ当日。


時刻は朝8時

万全の準備を整え、俺たちは玄関に並んで立っていた。


「白石さん、準備は大丈夫……かな?」


「ええ。小銭も持ったし、防寒も万全よ」


その頼もしい返事に、俺は小さくうなずく。


そして、俺たちは外へ踏み出した。


――が、その前に。


「ちょっと待って」


白石さんが、

いつもはきちんとまとめている髪をほどいた。


「……え?」


「変装よ!こういう場所で知り合いに見られたら…まぁね…?」 


「あ!あー……なるほど、確かに…」


場所はともかく…買ってる本がバレたらそりゃ…


「裕香さんも、はい」


そう言われて、後ろで軽く髪を結ばれる。

さらにマスク、そして伊達メガネ。


「ふふ、いい感じじゃない。これなら大丈夫そうね」


白石さんは満足げにうなずく。


「ありがとうございます……よし、行こう」


「ええ、いざ出陣ね」


こうして俺たちは、

それぞれの“顔”を隠しながら

戦場、コミレジェへと向かうのだった。




吐く息は白く、空気はキンと冷えていた。

12月目前の朝は、やっぱり容赦がない。


「……やっぱり朝は寒いわねぇ」


「ですなぁ……」


肩をすくめながらも、足取りは軽い。

目的地はすぐそこだ。



白石さんがうちに泊まりに来た理由は、もう一つある

ここから会場まで、徒歩20分…近い!!徒歩で行ける!!


男だった頃は、満員電車に揺られての参戦だった。

あの、ぎゅうぎゅう詰めの押し寿司状態。


……いや、さすがに白石さんをあれに乗せるのは酷だし、

今の俺でも色々と大変な気がする。


改めて思う

なんて神立地なんだ、神宮寺製薬会社。

ここに住むって、家賃いくらするんだ……?

ほんとありがとうございます、社長……!


「今更だけど……裕香さん、すごい所に住んでるのね。たしか、ご両親が社員なんだっけ?」


「あっ……う、うん!でも基本海外にいるから、ほぼ一人暮らしみたいな感じかな!」

(嘘の設定だけど)


「えぇ……それ、淋しくないの?」


「えーっと……まあ、慣れたから大丈夫……かな?」


「たくましいわね。……また泊まりに来てもいい?」


「うん!ぜひ!」


やった!白石さん、また泊まりに来てくれるのか……!


内心ガッツポーズを決めながら歩いていると、

やがて視界の先に人の流れが見えてくる。


同じ目的地へ向かう、同士たち

ざわざわとした空気

少しずつ高まっていく熱。



そして――

俺たちは、ついに会場へとたどり着いた。


会場に……たどり着いたが。


視界いっぱいに広がるのは――

人、人、人。


まるで地面を覆い尽くす人のカーペット。



「うわ……すごい人……」


「白石さん……まだ、少ない方です。急ぎましょう!」


「ええっ!?これで!?」


スタッフの案内に従って最後尾へ向かう。


「最後尾はこちらでーす!走らないでくださーい!」


拡声器の声が飛び交う中、俺たちは列へと加わった。


「あー……懐かしいなぁ」



「今日は頼りにしてるよ、裕香さん」


「あ、いえ、そんな……!私も一回しか来たことないし……」


「あと、たぶん……3時間以上並ぶけど、大丈夫かな?」


「3時間くらいなら大丈夫!私、パリのテーマパークで4時間並んだことあるから!」


「おぉ……それは強い……」


パリのテーマパーク

日本にもある有名なアレだが

4時間もならんでたら1日あっという間に終わってしまいそうだが…


そんなツッコミを挟み

妙な安心感を覚えつつ、俺たちは列の中へと溶け込んでいく。


――そこからは、ひたすら待機

少し進んでは止まり、また少し進んでは止まり。

じわり、じわりと前へ

吐く息は白く、指先はじんと冷える。


それでも――

タンブラーに入れてきた飲み物で一息つきながら、

少しずつ、確実に、会場へと近づいていく。


やがて――


「列、進みま〜す!」


スタッフの声とともに、流れが大きく動いた

リストバンドを掲げ手を挙げ

視界の先に、入口が見える。


そして――

俺たちは、ついに会場の中へと足を踏み入れた!!



「――うわぁ……!!」


白石さんが、目を輝かせる。


「おぉぉ……久々だ……!」


そこに広がっていたのは――


企業ブース、個人サークル。

ずらりと並ぶ机と本の山。


そして、華やかなコスプレイヤーたちと、

それを囲むカメラの列。


――まさに。

オタクが、オタクのために作り上げた祭典!!!


「これが……コミレジェ……すごいわ……」



「それじゃ……白石さん…!」


「ええ……!」


互いに、視線を交わす。


「――お互い、欲しい本を確保するために……解散!」


「武運を祈ります!」


その言葉を最後に――

俺たちは、それぞれの目的のために駆け出した

求めるものを、この戦場で手に入れるために。



ーーーー


無事に入場したのはいいものの。

俺はすぐさまスマホを取り出し、パンフレットを確認。


「ここだ……!」


人の波をかき分け、なんとか辿り着いた先で――

目に飛び込んできたのは。


ズラァ……!!


「うひぃ……また並ぶのか……」



やっぱり開幕参戦が必要だったか……?

後悔しつつも、俺は慌てて最後尾へと滑り込む。


今回の目当ては、とある同人作家。

普段は百合漫画を描いているが――

イラストレーターとしても名の知れた人だ。


そりゃ……こうなるよな


納得しかない行列。


ひとまず、並ぶ

ただひたすらに、並ぶ。

時間の感覚が曖昧になるほど、人の流れに身を任せて

やがて、じわじわと列が動き始めた。


「……お、近づいてきた……?」


俺はつま先立ちになって、ブースの様子を覗き込む。


その瞬間――


「うお……!!イラストレーターの、りりさんだ……!!」


本物!?

本物だこれ!!?

売り子の横で、スケッチブックにせっせと描いてる!!


(え、こんな近くで……描いてるの……?)


有名な人なのに、めちゃくちゃ現場に立ってる……!

しかも普通に対応してるし……律儀すぎるだろ……!


そうこうしているうちに――


「次の方どうぞ〜!」


ついに、俺の番が回ってきた。


(頼む……残っててくれ……!)


視線をやると

あった…まだある。


勝った…!!


「それ一部、お願いします」


「はーい、ありがとうございます!」


差し出された本を受け取り、すかさず小銭を出す。


そして、ほんの一瞬の勇気を振り絞って。


「あ、あの……!」


思わず、横にいたりりさんへ声をかけてしまった。


「りりさんのイラスト……大ファンです!ずっと見てました……!応援してます!」


「ほぇ!?ほんとですか!?」


顔を上げたりりさんが、ぱっと笑う。


「嬉しい……!ありがとう!!」


なんて…眩しい笑顔…そんで美人

絵も描けて、漫画も描けて……この人、強すぎないか……?

天は人に二物をなんとやら…



――その後も、戦いは続いた。

人気サークルはどこも長蛇の列。

気づけば完売の札もちらほら見え始める。


やっぱり……昼到着は厳しいか……


それでも、なんとか戦利品は確保。

袋の中に積み重なった本たちを見て、

ほんの少しだけ、満足感が胸に広がった。



戦利品を確保し、俺たちは無事、白石さんと合流した。



休憩スペース

人でごった返してはいるものの、なんとか座れる場所を確保し、軽食を広げる。


「はぁ〜………つかれた……」


白石さんがテーブルに突っ伏す。


「熱気すご……今、冬よね……?」


「あはは……まぁ初めてだとそうなるね」


「白石さんは、本……買えた?」


「うん……まぁ、大体は……かな?」



「でも、有名どころ……すごかったわね……」


「こんなに激しいなんて……裕香さん、前に行った時はどうだったの?」


「うーん……今回の方が、まだマシかな」


「え?なんで?」


「私が前に行ったの……夏だったから」


「…………」


「……というと?」



「もう、地獄でした……あれは」


「列は長いし、日光は直撃、熱気は倍増。

炎天下に数時間立ちっぱなしで……」


「う、うん……」


「あと……会場内の……匂いが……もう…」


「う……そんな過酷な場所だったの……?大丈夫だったの……?」


「大丈夫です!それなりに楽しかったので!」


「す、凄いね…裕香さんて…尊敬するわ…」


白石さんに尊敬されるのは嬉しいが、

いや、まぁ男だったから耐えられたけど

今の俺じゃもう…無理かな。

うぅ…なんか悲しい…


「あ、あのさ白石さんこの後……コスプレスペースとか、企業ブース行かない?」


「……!」



「眺めてるだけでも、結構楽しいよ?」


「それ思った!行きましょう!」


さっきまで溶けていた白石さんが、勢いよく復活した。


「お、おぉ……!!」


完全復活さすがだ

この人、ちゃんとしたオタクだ。


午後。

時間はそれなりに経っているはずなのに――

このイベント、まだまだ終わる気がしない。


むしろここからが本番まである。

俺たちは戦利品の入った袋を抱え直し、

再び、人の波の中へと踏み出した。




その頃――。


白石と裕香が、純粋にオタ活を満喫している裏で。

このイベントには、あまりにも“予想外”な人物も紛れ込んでいた。


人混みの中

ひときわ不自然な存在感。


サングラス、マスク

そして、本来の自慢の金髪を隠すためのウィッグ。

徹底した変装。


「あー……初めて来たが、なんだこれは……」


「朝から参加したのはいいものの……

人混みと情報量でどうにかなりそうだ」



そう――

神宮寺翔である。


その手には――

しっかりと、紙袋。

中には数冊の同人誌が収められている。


「……まぁ、大体は買えたか」


「しかし同人誌……なかなか興味深いな」


「企業や出版社の管理を離れて、

個人の嗜好やシチュエーションがそのまま表現されている……」


「制約が少ない分、発想の振れ幅が広い」


「……なるほど。これは、一定の需要があるのも理解できる」


分析をしているつもりだが、彼もまた

性癖の追求者であり、探索者へとなっていた。

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