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第55話 特殊すぎる恋愛初心者な二人

ラブホ女子会の、1日前

神宮寺研究所


深夜の研究所。

机の上には資料と機材が山積みになり、長時間の作業の痕跡がそのまま残っていた。


椅子に深くもたれ込み、翔は大きく背伸びをする。


「あ〜…………やっっと……落ち着いた」


「おっつー、兄ぃ。ずっと詰めてたね」


「まぁな。ここんとこ補助続きが多くてな」


すると真桜が、何か思い出したように手を叩く。


「あ!そうだ兄ぃ!」


「ん?」


「私、明日女子会するからね!お泊まりで!」



「そうかい。そりゃ行ってらっしゃい」


「あれ?いつもの“ギリギリ〜!!”とか“ぐぬぬ……”とかやらないの?」


「あのな……俺も、いちいちそんなリアクションはもうしないぞ」


少しだけ視線を逸らす。


「……こっちはこっちで、確信に近づきつつあるんだからな」


「へぇ〜、そうなんだ!」


そしてふと思い出したように言う。


「あ、そういえば兄ぃ」


「ん?なんだ?」


「もうすぐクリスマスだね!」


「……そうだな……」


短い返事。

だがその声の奥には、やはり不安のようなものが混じっていた。


――――


その夜。


――神宮寺家 別荘。


「うぃー、お疲れ〜」


「お疲れ様……!」


「あぁ、お疲れだ」


暖炉の火がぱちぱちと音を立てる中、男三人がソファに腰掛けていた。


翔、剛、久我。


どうやら翔は、真桜たちの女子会に対抗するかのように、

二人を誘って男子会を開いていたらしい。


「もうすぐ12月か……早いな」



時は11月22日。

およそ二週間後には、街は完全にクリスマスムードの真っ最中だ。


先陣を切ったのは剛、ニヤリと笑う。


「12月といえばアレだな……クリスマスだ」



「おう、久我くんよ……」

「聖なる夜を過ごせるぜ……?」


すると久我は、グラスを静かにテーブルへ置き――


「ふっ……そうだね」


どこか余裕のある笑みを浮かべた。

翔と剛が同時に眉をひそめる。


「……なぁ、翔よ……」


「あぁ、俺は返事のニュアンスで確信した」


「そんな大したことはないよ

やっと君たちに『追いついた』だけさ」


「「まじか!!」」


とびっきりの暴露に、年相応の反応をする

剛と翔。


「おいおいおい!いつの間に卒業してんだ!」


「懐かしいな……

遊びに誘うだけで一喜一憂してた、あのウブな久我くんがよ」



「そ、そりゃ僕だって男さ!」



「で……どうだったんだ?白石の“魅惑のボディ”はよ」


「あー……その……一言で言うと……凄かったね」

なんていうか……もう、凄かったなぁ……

意外と……攻めに回ってくるんだなって……」


「……おい、翔、コイツ完全に語彙力が消失してんぞ」


「あぁ、あんな繊細な作曲をする久我が、ここまで言葉を失うとはな……」


男三人の『ゲス男子会』は、修学旅行の夜を遥かに超える熱を帯びていた。


「それがさ……麗華さんって、結構求めてくるからさ。その……言葉とかで……『ここ、もっと……』とか」


「ほぉ〜、そりゃすげぇギャップ萌えだな。うちの光は普段あんなに元気なクセに、トータルで見ると意外と受けに回ることが多いが」


「それもいいギャップだな。自分にしか見せない一面

いいねぇ、男の夜はこうじゃなくちゃ」


こちらも未成年の枠を軽々と飛び越えたトーク。

かつて純粋無垢の象徴だった久我でさえ、誰もが羨む美人の彼女と『一皮むけた』経験を経たことで、その純情は完全に消失していた。


代わりに、恋愛経験豊富な悪友二人に肩を並べられたという高揚感に浸り、このゲスな話題にも難なく食らいついている。


「そしてだな…! 翔、お前はどうなんだ?」


「ん? あ、あぁ……順調だ」


「本当かぁ? にしては、顔に余裕がねぇぞ?」


「そうか?」


(クリスマスまで、あと一ヶ月もない。

修学旅行と文化祭のリアクションを見る限り、俺を異性として見ている可能性はかなり高い。)


(だが問題はそこからだ。どうやって恋人の関係まで落とし込むか……いや、違うな、まだ確実な情報が少ない。)


(ならば、ひとまず本能に訴えかけるべきか。

元来、人間を含む動物は優秀な雄を――)


「ょう……」


(いや、待て。

着物の件から考えると、あいつは自分を女性として認識している可能性がある。そこを突くか……?)


(それなら、あえて学校では軽く声をかけ、他の女子との差別化を――)


「翔……おい! 翔!」


「ん!? おお! な、なんだ……?」


「お前……最近考えすぎてねぇか?

なんというか……こんなに引っ込み気質だったか?」


「俺はまず、確実性を高めることを考えるだけだ……久我よ

告白はギャンブルじゃないんだろ?」


「………………」


「久我……?」


「確かに、ギャンブルで告白するのは良くない。

だけど状況が……修学旅行の時より変わってきてる」


「というと?」


「麗華さんから聞いたんだけど……

裕香さん、密かにモテてるらしい。文化祭の料理をきっかけに、本気で狙ってる男子もいる。女子グループにまで話が届いてると考えると、つまり……ライバルが増えてきてる」


「……まじかよ」


「まぁ俺とアイツは幼馴染だ。

それにアイツの良さや会話は、俺ぐらいしか――」


「そういう話じゃなくてだな、翔…お前、逃げてないか?」


はのを割り切るように剛が入る。


「逃げてる……? 俺が?」


「あぁ、そう見えるぞ」


「何を根拠に?」


「んー……………勘だな」


「……あぁ、そうかい」


「あ、僕からも一ついい?」

「逃げてる……というよりは、裕香さんに対して熱意を注いでる割に、決定打を避けてる。そんな感じは前からしてたよ」


「なるほど」


「文化祭でわざわざ裕香さんの好きなキャラを調べて、二度もコスプレをした。麗華さんから聞いた反応もかなり良かったみたいだし……」


「なのに、その先に踏み込むより

外堀だけを強化してるように見える」


「そう!それだ!俺もそれが言いたかった!」


「お前な……」


「神宮寺くんがここまで熱く、しかも慎重になるなんて……

それほど特別な存在なんだね」


「………まぁな」


翔は少しだけ視線を落とす。


「本当に、昔から大切で……大事で……

できることなら、深く繋がりたい。そんな人だよ」


「翔、時には大胆に行くのが近道ってやつだぞ?」


「何を言ってんだか……」



(大胆、か……)



(俺の考えとは、かなり程遠い。二人とも最もらしい事言ってるが俺とアイツの過去の関係を全部説明して同じ事言えるのか…?)


(いや、いい加減にしろ…俺。もういいだろ?本音を人に言っても)


「ははは……!」


「?」


「ん?どうした?」


「正直、怖かったんだ。

嫌味じゃないが……俺はこれまで恋人に困ったことがなかったからな」


「それなりに容姿に気を遣って、適度に話を合わせていれば……向こうから来る。そんな人生だった」


「そうだな……俺はヘタレで恋愛初心者だ。

攻めに関しては、お前らの方が先輩だ」


「大胆にいく……勉強になるな、剛。久我も分析助かる」


そう言って、翔はスマホを取り出した。

画面には、裕香とのメッセージ画面。


「うぉ!翔、マジか!!」


「つ、ついに……行くんだね……?」


「男なら……なんだろ?」


(いや、男とか女とか……関係ない

俺は、裕香が裕介だった頃から気になっていた

今はただ……この想いを強く伝えたい)


(もう考えるな、大丈夫だ、もう十分だ

というか考えすぎてしょうもない情報羅列してたな俺。)



翔は指を動かし、メッセージを送る。


【裕香、12月の初めの土曜日、空いてるか?】


そして送信


「ありがとうな。背中を押してくれて」



――――





午前十時過ぎ。


「ん……んん……」


「ゆかっち!おはよ〜!」


「光……いつものやつ……」


「あ、桐谷さん……白石さん……おはよ……」


いつもの元気な桐谷さんの挨拶。

眠気覚ましには丁度いい…

めちゃくちゃ頭に響くけど。


「あれ?真桜さんと神崎さんは?」


「なはは!朝からサウナだ!元気だな、あの二人!」


サウナ…朝からサウナか

なんか健康にいいのかな?


「裕香さん、ドリンクいる?注文するけど」


「あ…!それなら……アイスティーお願いします!」



サウナ


白い湯気が立ちこめるサウナ室

じんわりと健康的な汗をかく真桜と神崎。


「ゆかっちは決意したとして……翔くんの方はどうなの?」


「ん〜、大丈夫だよ。昨日の夜、お誘いのメッセージ来てたし。そろそろ向こうもアタックするんじゃない?」


「へ!?!? 嘘!?奇跡??」


「奇跡だなぁ〜兄ぃに“女子会行く”って言ってさ。

クリスマス近いよ〜って煽ったら、いそいそ男子会を企画してたしいい奇跡だなぁ〜!」


「真桜ちゃん……策士すぎて怖いわ……」



すると真桜は、くすっと笑った。


「私はさ、ここんとこ楽しかったんだよ!

ゆかっちは昔に比べて明るくなったし

兄ぃの意外なヘタレっぷりをたくさん見れて満足したし!

でも、そろそろ兄ぃにはちょっとダルくなったから、もうくっついてもらおうかなって!」


「そ、そう……」


神崎は少し視線を落とした。


「でもまぁ……ようやく翔くんが報われるんだね。

良かった。私も、色々と役に立てたかな…まぁ、心残りがないと言えば嘘になるけど二人が幸せになるのなら」


「ふふ〜、心残りあるならその時はまた……私が……」


「も、もう!!!忘れさせてよ!それ……!」




昼を過ぎ、女子会は解散。

俺は真桜さんと並んで帰り道を歩いていた。

冬の空気は冷たく、頬に心地いい。

モヤモヤは消え妙な心地よさと高揚感が込み上げてる。


翔からのメッセージを即返信してしまった…

それっきりソワソワしてしまう。


「あー……12月初めの土曜……6日か………なんか今思ったら恥ずかしくなってきた……なんであんな事言ったんだろうか

ラブホだったからかな……」


「盛り上がったしね!

ゆかっちは、そこで想いを伝えるつもりなの?」



「……うんそのつもり。

で、ででも…うぅ……引かれ……ないかな……?」


「そこはもう前を見てこ!私は全力で応援するから!」


「あ、ありがとう……真桜さん」


深呼吸する…だ、大丈夫だ…

修学旅行とか…文化祭とか…

多分…多分だけど…男として引っ張ってくれてるような気がしてた。

友達にしては距離がまた違う…そう実感してる。


「そうだ……前を……見るぞ!」


「その意気!」 

(七ヶ月か……女子の生活にもすっかり順応して……気づけば、性的指向まで変わっちゃったみたい)


(何がそこまで変えたんだろう、ホルモン?

それとも……ゆかっちは元々、そういう素質があったのかな?)


(うーん……人間って不思議!)



冬の空は高く、澄んでいた。


――そして

その日は、少しずつ近づいている

あと二週間。

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