栗の花の匂いがする頃(1)
いつもより深い眠りについた。
隣でまだ眠っている彼の顔を見る。
少しだけ秋が深まり朝は肌寒く感じた。
私は床に落ちているパジャマの上着を拾い、ボタンを止める。
ベッドから降りようとして、不意に腕を掴まれた。
「もう、起きるの?」
彼は私の腰に手を回し、眠たそうな声で私に尋ねる。
私は再度布団にくるまる。
彼の腕に閉じ込められ、幸せなため息をつく。
「仕事、休みだよね。もう少しゆっくりしよ。」
彼は私の耳元でささやく。
夜を思い出し、私は彼の胸に顔を埋める。
名前を呼ばれて顔をあげると唇が重なる。
触れるだけのキスを何度かして、
「リナ、かわいい。」
と、とろけるような顔で私を見つめる。
今までの距離が保てず戸惑った。
「おはよう。起きようか。」
と、ぎゅっと私を一度強く抱きしめ、彼は私の顔を確かめて笑った。
焦っている私を優しく見つめている。
彼はベッドに腰掛け上着を手に持つ。
私は彼の左肩の小さな傷痕にキスをした。
「おはよう、ユウ。」
私は彼の顔を肩越しから覗き込む。
もう一度だけキスをして、2人でリビングに向かう。
今までと違う対応に少しだけ身構えながらキッチンへ向かう。
冷蔵庫を見て卵と野菜を取り出す。
「何ご飯?」
私に彼が尋ねる。
「オムレツとかかな?」
私が振り向くと距離が近くて驚いた。
「ユウ、朝から距離感おかしいよ。」
私は彼に焦りながら伝えた。
嬉しそうな笑顔で、
「もともと、そうしたい人ですよ。甘えたいし、甘やかしたい人。」
彼はそう言った。
始めはそういうものとは思うけれど、そもそも長く曖昧だった関係から言葉にして線が引かれた。
私はすぐには慣れない。
それでもその違和感もくすぐったいくらいで、むしろ心地良い。
私は“ふーん。”と言って、ボールに卵を割りいれる。
フライパンにバターを入れると香りが広がる。
彼はグリーンリーフとプチトマトを洗って水を切る。
そしてグリーンリーフを手でちぎり、お皿にのせる。
私は出来上がったオムレツをそのお皿に加えた。
トースターに食パンをセットし、コーヒーを入れる。
「運びますね。」
楽しそうに私に伝えると、テーブルに向かう。
彼は変わらず手を合わせて、“頂きます。”と小さく呟く。
私はそれを見て幸せだと思った。
やはり、私も距離感がおかしくなっている。
「ユウ、好きだよ。」
素直に伝えれている。
「知ってる。昨日、たくさん聞いた。」
彼は満足そうに私に笑いかける。
本当に自分にもそんな一面があることに、びっくりする。
それでも、それは嫌じゃない。
少しずつの変化がどうなるかはわからない。
それでも今はそれを素直に嬉しいと思う。




