明鏡止水(7)
ユウはかなり素直な私の言葉に少しだけ驚いていた。
少しの間が耐えられず、
「なかなか言えなくてごめん。」
私は気恥ずかしくて、その場から立ち上がった。
戸惑っていると、その様子を優しく彼が見守っている。
「…リナ、かわいい。」
彼からあまり聞かない甘い声に、
「先に寝るね。」
と、短くうつ向いて言った。
彼の視線がくすぐったくて、リビングから出て急いでベッドに入る。
あんなに言葉が漏れてしまうとは思わなかった。
頭で考える事をあきらめたように、滑り落ちた言葉の対応を思いつかなかった。
布団にもぐり、目を閉じた。
彼の声を思い出し、気持ちがたまらなく跳ねた。
そんな自分の気持ちに追い付けなくて、焦った。
少しだけ時間をあけて、私の隣に彼は身体を沈ませる。
彼は私の腰に腕を回し、身体を寄せた。
背中に安心する体温。
私の肩に頭の重みが心地よくかかる。
私の首筋に彼の唇が微かに触れる。
耳元で私の名前を呼んで、私の身体を抱える。
私は身体を反転させて彼の顔を確認した。
おでこを合わせると鼻先がくすぐったいくらい当たった。
口にしてしまえば難しいことではなくて、何度も繰り返し伝える。
「ユウ、好きだよ。」
何度目かの告白に唇が重なる。
息継ぎのために何度か離れ、お互いの舌先が触れるだけで苦しくなって、また息継ぎをする。
そのうち離れられなくなる。
視界が彼だけになり、何も考えれなくなった。
彼が望むように身体を預けていく。
彼は器用にパジャマのボタンを外し、私の胸元に微かに残る傷痕にキスをする。
「リナ、大丈夫?」
私の顔を上目遣いで彼が確認する。
優しい声と指先。
指先が私の腰に滑っていく。
少しだけ身体が強張る。
忘れたわけじゃない。
怖くないわけでもない。
それでも彼に触れて欲しかった。
“大丈夫。”と余裕なく答える。
「リナ、好きだよ。」
2人のこぼれる声が静かな部屋に溶けていく。
彼の触れるところがすべて熱く、名前を呼ぶ。
その度に彼は私にキスをする。
彼の切ない声が耳に届く。
愛おしくてたまらなかった。
何度も何度も身体が強張るけれど、それよりももっと近くに、もっと近くにと気持ちが動いた。
隙間をなくすように彼と身体を合わせ、強く背中にしがみつく。
彼の身体を抱き止めて、胸にかかる彼の髪の感覚が、ただ、鮮明に感じた。
お互いの乱れた呼吸ですら、切なくて幸福だった。
完全に忘れることは出来ない。
エイタがいなくなっても、それは変わらない。
ちゃんと怖いし、不安になる。
それでも、彼を好きで大事に思うことに澱みがなかった。




