栗の花の匂いがする頃(2)
私が拗らせていた曖昧な関係が単純なくらいほどけていく。
私が素直になれたきっかけはほんの少しのタイミングなのか、彼の気持ちなのか。
けれどすべてはあの日の幼い自分に起きた出来事から始まった。
エイタが亡くなり、それでもすべてリセットできないけれど、私なりにちゃんと向き合う事を決めた。
朝ごはんの片付けを終え、ヒナコに電話をかける。
「もしもし、ヒナコ。ちゃんと伝えたよ。」
私がそう言うと、
「なかなか長かったね。でも、良かった。これで安心して帰れるよ。」
と、笑っていた。
彼にもLINEでヒナコからすぐに連絡が来たようだった。
彼は笑っていて、幸せそうに返信をしていた。
「ヒナコ?」
と私が尋ねると、彼はスマホを私に見せてくれた。
“長期戦、お疲れ様です。必ず幸せになるように。”
「自分でも驚くくらい長かった。でも、待つのはイヤじゃなかったよ。」
と彼は穏やかに笑う。
なかなか前に進まなかった気持ちが少しだけ動く。
私が大事に思う人を大事にしたい。
彼がいる当たり前を大事にして、これからも同じ時間を過ごしていきたい。
彼は着替えを始めて、私にも準備をするように促す。
「どこかに行くの?」
私は分からず準備を始める。
「リナ、一緒に暮らそうか?」
彼は終始笑顔で話す。
私が反応しきれずにいると、
「家族になろう。」
と、造作もないように話した。
テーブルでメイクをしながら聞いた唐突な話に手を止める。
あとリップを塗るだけでほぼ仕上がっていた。
昨日素直に伝えて自分の中では精一杯だったから、スピードの早さに驚いた。
彼はそんな私のそばに寄り、当たり前のようにキスをして、
「家族になりませんか?」
と、もう一度私に尋ねた。
愛おしさ全開の笑顔に頷くしか出来なかった。
「リナ、僕は一般的な家族は知らない。父親、母親が一緒に穏やかに暮らすのも、子供が普通に親に甘えるのも知らないけど、出来るだけリナとそうなりたいと思ってるよ。」
と、私に優しく伝えた。
私は彼を抱きしめた。
幼い頃の彼を私は知らない。
私の想像も及ばないくらいツラい時期があったと思う。
ただ、彼の優しさや仕草を見ればお父さんから離れてからのお母さんやおじいさん、おばあさんの愛情の深さはわかる。
私が彼に支えられたように彼をこれから支えていきたい。
小さい頃のユウも抱きしめてあげたかった。
「ユウ、家族になろう。」
と伝えた。
手早く準備をして、2人で外に出た。
彼は今から実家に行くと言っていた。
あまりにも目まぐるしい。
けれど、愛おしい。
いつも引っ掛かっていたものが少しだけ軽くなる。




