幸福の分岐(4)
それから時々、
「…好きですよ。」
と、ユウくんは言葉にすることが増えた。
私は変わらずはっきりはしていない。
愛情なのか、依存なのか…わからない。
先に進めない。
何かをきっかけにあの記憶を強く思い出し、ツラくひどい感情に支配される。
その度にまわりを巻き込んで、大事な人を傷つける。
いつものように私の不安定な気持ちを彼は優しく抱えるように眠る。
「リナ、近々ご飯食べに行こ。」
ヒナコが連絡してくれた。
そろそろ夏が終わる頃で、朝から蝉の鳴き声が耳に残っていた。
ヒナコは忙しい合間を縫って、地元に帰って結婚準備をしていた。
「ヒナコの都合に合わせるよ。いつが良い?」
そう答えると、“金曜日、夜”とヒナコは楽しそうに伝えて電話が切れた。
昼ごはんを急いで食べて、また仕事に戻る。
最近は少しだけユウくんと距離をおいている。
気持ちが少し落ち着いてきたのもある。
時間がある限りうちに来てくれていたが、日に日に彼が疲れているように思えた。
仕事やお母さんの見舞い、たまに入る出張などに加え、私を支えるために明るく振る舞っているのを見ているのがツラくなった。
もちろん、あれからもユウくんのお母さんの見舞いに一緒に行った。
その時、彼女の痩せていく姿を目の当たりにする度に、私に時間を割くことが良いものとはとても思えなかった。
「あまり無理しないで…。私の方は大丈夫だから。」
と、私から彼に伝えた。
少し悲しい顔をして“わかった。“と、彼はうつ向いた。
「…大丈夫じゃない時には必ず、僕を頼って下さい。」
と彼が言い、その後はいつものように過ごした。
彼はベッドに入り、私を優しく抱きしめて眠る。
私の頭に顔を埋める。
何か言いたそうではあったけど、
「…好きです。」
と一言口癖のように呟いて、少しだけ彼は私を強く抱きしめた。
「久しぶり。会いたかった!」
久しぶりに会うヒナコは変わらず私にハグをして、変わらない笑顔だった。
2人で予約した店に入り、仕切りのある半個室に通される。
辛いものが食べたいと韓国料理屋にヒナコが決めた。
「忙しい?大丈夫?」
私が尋ねると、
「まぁ、そこそこバタバタかな?リナは元気?」
と、変わらず私の心配をしている。
私は“落ち着いてるし、元気だよ”と、笑った。
「なんか結婚の準備って、楽しい前にスケジュールが流れていくかのように目まぐるしいって感じで、お互いの両親に挨拶して、予定合わせて両家の顔合わせして、その時にどの辺に住むか、結婚式はいつ頃するのか聞かれて、何も決まってなかったから少し焦った。」
一気に喋り、ヒナコは運ばれてきたビールを豪快に飲み干した。
「時々、仕事も楽しいし、やりがいもあって、何してるんだろう…結婚してる場合かどうか悩む時もあるんだけど、リョウの声を聞いたり、顔を見るとやっぱり一緒にこれからもいたいと思うんだよね。頼りないけど…。」
ヒナコは幸せな顔をしていた。
ふにゃふにゃ好きだと言っていた頃より強く覚悟のある笑顔がキレイだと思った。
「総じて、幸せだと思う。」
時折、可愛らしく笑うヒナコを私は嬉しく思う。
「マッコリ、頼んじゃおう!」
反面、変わらないヒナコを少しだけ羨ましいと思った。




