番外編:チョロいなりにもきっかけはある②
ヒスイに言わせたら、あたしは最初からサネヤにメロメロだったらしい。そんなことはないと思うんだけど。というか、今だって別にメロメロじゃないし。
あたしがサネヤのことを好きだということは………………まぁ、間違っていないけど。別にメロメロじゃない。なぜか、ヒスイにはあたしの気持ちがバレていたけど。
でも、あたしは簡単にサネヤのことを好きになったわけじゃない。あたしは、そんなにチョロくないのだ。
だから、理由は色々あって。
一々思い返したらキリがない。
色んな事が積み重なって、あたしはサネヤのことを好きになったのだから。
でも、最初のきっかけだけは覚えている。
あの日のことは、たぶん忘れない。
※※※※※
「まったく。どこに行ったのよ、サネヤ」
あたしはサネヤとはぐれていた。
一緒に買い物をしていたはずなのに、気付いたらサネヤがどこかに行ってしまっていたのだ。
確かに出会ったときからフラフラしていたけど、勝手にどこかに行くなんて。ほんのちょっと目を離したくらいでどこかに行くなんて。子供じゃないんだから。
たしかに、あたしも買い物に夢中になってたけど。そういえば、いつからサネヤがいなかったのか分からないけど。………………これ、もしかして、あたしが悪い?
いや、そんなことはない。きっと、そんなことはない気がする。そこはかとなくそんな気がするから、たぶんあたしは悪くない……と思う。
だけど。
「仕方ないわね」
あたしは買い物を切り上げて、サネヤを探すことにした。
ただ、サネヤがどっちに行ったのかは全く分からない。
というか、あれ? ここどこ?
見覚えがある店がないのは、なぜだろう。さっきまで、あたしがいた店があそこ。……どっちから来たっけ? あっちかな?
「………………」
………………まぁ、どっちから探しても一緒か。ウロウロしてれば、きっと見つかるわね。
最近、仲間になったサネヤはすごく頼りない。
すぐ凹むし、暗いし、何考えてるのかよく分からない。
よく考えてたら、会った時から下向いてたし、世間知らずだし、お金持ってなかったし。ダメなところだらけだ。たぶん、あたしが仲間に引き入れなかったら、すぐに野垂死んでたいた気がする。
てか、よく生き抜いてこれたものだ。どうもあたし達に会うまでのことは、あんまり話したくないらしい。聞いてみたけど、はぐらかされた。
とにかく、サネヤは色々と残念なところが多い。
だからといって、サネヤを仲間にしたことを後悔しているわけではない。
サネヤがいなければ、あたし達だって冒険者は続けられなかっただろう。スキル【収納】のおかげで、様々な出費を抑えることが出来た。サネヤは頼りないし暗いけど、スキル【収納】にはすごく助けられている。
それに、サネヤは雑用を進んで引き受けてくれるのだ。最初の頃は、空回りすることも多かったが、最近は無駄に上手くこなしている。
心配なのは体力の無さ。でもそれも改善しつつある。最初のころは、お休みのたびにぐったりしてて心配だったけど、最近は調子が良さそうだった。今日は、あたしの買い物に付き合うくらい元気だったみたいだし。
だから、見直してきてたっていうのに。
「もう、どこ行ったのよ!」
全っ然、見つからないじゃない! もしかして、あたしから逃げてる? だとしたら……とっちめてやらねば。
あまりにも見つからないから、集合場所に行こうかと思ったけど………………やめることにした。決して、はぐれたときの集合場所である冒険者ギルドの場所が分からないわけではない。
その後も、あたしはサネヤを探して歩き回った。大通りの店を順に見ていく予定だったんだけど。………………気づいたら、なぜか人通りの少ないところに来ていた。
さっきから、ガラの悪そうな奴らからの嫌な感じの視線を感じる。少しだけ……不安だ。こんなときにこそサネヤがいてくれたらいいのに。
……まぁ、サネヤがいても役には立たないんだろうけど。でも、いたほうがマシな気がする。一人でこんなところにいるのは……ほんのちょっとだけ怖い。
だってのに、サネヤは一向に見つからなかった。もう暗くなりかけている。
「ほんとに、どこ行ったのよ……」
口から漏れた声は、自分でも思った以上に震えていた。
もう認めるしかない。あたしは……かなり不安だし、怖い。そして、迷っている。
とりあえず、人通りの多そうな方向に進んだつもりだったのだが、どんどん人気がなくて薄暗い通りに来てしまっている。明らかに、視線の嫌な感じが増していく。
そんな通りをさっきからずっと一人で歩いている。怖い。正直、足は震えてる気がするし、気を抜くと座り込んでしまいそうだ。
不安で折れそうになる心をあたしは無理やり奮い立たせていた……サネヤへの怒りで。
あたしがこんな怖い思いをしているのはサネヤのせいだ!
そもそもサネヤが目を離したすきにどっかに行ってしまったのが悪い。
迷子になったサネヤを探したせいで、あたしまで迷った上に、こんなに怖い思いまでしているのだ。
最初は、どうにか気を強く保つためにサネヤが悪いと思い込むようにしていたのだが。だんだん、本当にサネヤが悪い気がしてきた。もう全部サネヤのせいだ!
合流したら、文句の一つでも行ってやらねば気が済まない。サネヤへの怒りがつのっていくにつれて、恐怖も薄れてきた気がする。
さっきから、周りにいる連中も怪しい動きをしているように見えるけど、あたしの覚悟も決まった。
いいわ、何かしてきたら、とりあえず、魔法ぶっ放してやる。
そう思い、さっきから体に魔力を巡らせて歩いている。
もういつでもかかってこい! なんて思っていたら。
本当に、その時がやってきた。
「××!」
後ろから近づいてきた奴が何かを喚きながら、いきなりあたしの腕を掴んだ。
ビクッとなって、悲鳴をあげそうになったのを必死に堪える。
ここで、弱気になったらだめだ。せめて、攻撃は先に当てる。
あたしは、ふざけた野郎の手を思いっ切り振り払い――
「いい度胸ね! あたしに何の用――って、サネヤ?」
――視線と声だけで殺す気で、啖呵を切ろうとしたんだけど。
目の前にいたのは、あたしに手を振り払われてあっさり尻餅をついたサネヤだった。
※※※※※
スキル【索敵】は、魔力反応を感知するスキルだ。僕はスキル【殲滅】のおかげで感覚が分かっていたので、わりとあっさりと取得することが出来た。
このスキルを使えば、周囲の魔力反応を探すことが出来る。僕は、索敵の範囲を最大限にして、セーラの魔力反応を探していた。
当然、他の人の魔力反応にも反応するので、その中からセーラの魔力反応を探すのは大変なんだけど………………普通に探すよりは可能性が断然高い気がする。
その後、スキル【索敵】を駆使しながら、セーラを探して歩き回る。
僕がセーラの魔力反応を見つけることが出来たのは、日が落ちる直前だった。だが、見つけられただけ運が良かったというべきだろう。
というか、急に魔力反応が大きくなったからセーラに気付くことが出来たんだけど、もしかして僕がスキル【索敵】で探してることに気付いたの? そんなわけないか。
とにかく、セーラがいる方に向かうと、どんどん人気がない路地裏のような場所にたどり着いた。何でこんな危なそうなとこにいるの?
角を曲がったところで、ようやくセーラの姿を見つける。あの綺麗な藍色の髪は間違いなくセーラだ。
「やっと、見つけた。おーい、セーラ」
あんまり大きな声を出すと変な注目を浴びそうで怖いので、小声で声をかけた。だが、振り向いてくれない。
めげずに、もう一度小声で呼びかけてみた。
「セーラ?」
完全に無視だ。
怒ってる? もしかして、僕が置いて行ったと思われているんだろうか。そう思って見ると、なんだか歩き方も怒りを堪えているかのようにぎこちない気がする。
どう謝るべきかじっくり悩みたいところだけど、僕はこんな怖いところに長時間いるような度胸はない。無視されないように、腕を掴んで僕の存在をアピールする。
「ちょっと、待ってよ。セーラ!」
ようやく止まってくれたと思った瞬間――僕は思いっ切り腕を振り払われて、あっけなく尻餅をついた。
………………そ、そんなに怒ってたの? ごめんなさい。
※※※※※
謝るとか、助け起こすとか、色々やることはあったはずなのに。想定と違い過ぎて、混乱したあたしは思わず尋ねてしまった。
「あんた、何やってんの?」
「……いや、何って、セーラを探してたんだけど」
あたしを探してた?
………………つまり、あたしは探しに来てくれたサネヤの手を思いっ切り振り払ったうえに、罵声を浴びせかけたってこと?
いやいや、でも。サネヤも悪い。
「いきなり腕を掴まれたら、びっくりするに決まってるじゃない!」
そう。いきなりそんなことされたら、振り払ってしまうのも仕方ない。
「……えっと。一応、何回か声かけたんだけど。その……気付かなかったから。でも、ごめんね」
サネヤが、すごく申し訳なさそうに謝ってくる。だが、待って欲しい。今のを聞く限り、悪いの完全にあたしじゃない?
とりあえず、あたしのせいで尻餅をついたサネヤを助け起こす。
「あ、あたしも、その、悪かったわよ」
「いいよ。それより、セーラが見つかってよかった」
そう言って、にへらと笑うサネヤを見た瞬間、なんだか不安とか怒りとか安堵とか恐怖とか、今まで抑え込んでいた感情が一気にやってきた。思わず、座り込みそうになる。
ていうか、あたしが振り払ったせいでこけたのに嫌な顔一つせずに、こっちの心配をするなんて。
「セーラが無事で安心したよ」
そう言って笑うサネヤは汗だくだった。あたしを探して街中を駆け回ったのだろうか。短い付き合いだけど……容易に想像が出来てしまう。サネヤは、そういうことが出来るタイプだ。
いつもなら休みの日はぐったりしていて、今日もそこまで元気ってわけでもなさそうだったのに。あたしのために。
そのことを意識した途端、かぁっと自分の顔が赤くなるのを感じる。
「~~っ!」
いやいや、サネヤにときめくなんて。これは、あれだ、色んな感情がないまぜになって混乱しているだけだ。
だって、サネヤは頼りないし、ビビりだし、ときめく要素なんて全くない。
今だって、治安の悪さにビビってきょどきょどと周りを見回しているし。
そのおかげで、赤くなった顔を見られないで済んだけど。
というか、こんなに怖がってるのに、あたしを探しに来てくれたんだ……。そのことに気付いてしまったせいで、自分の胸が高鳴るのを感じる。
………………だめだ、今のあたしは何かおかしい、変だ。考えるのをやめよう。
「と、とりあえず、帰るわよ!」
あたしは、平静を装ってサネヤに声をかける。
急に声をかけたことでサネヤはビクーッとなっている。やっぱり、こんな頼りないサネヤのことなんて……。
「そうだね、こんな所からは早く出た方が良いと思う。というか、怖い」
情けないことを言うサネヤと一緒に歩く帰り道、さっきまで怖かったのが嘘のようだった。
頼りなくて情けないサネヤにときめいてなんかないし、別にどうとも思ってない。
だけど、今日のことは…………ずっと忘れないような気がした。
※※※※※
帰ってきたら、なんかセーラの様子が変だった。
「サネくんとなんかあったの?」
そう聞くと、セーラの顔が一瞬で赤くなる。
「べ、別に何もないッ!」
ほーん。絶対、なにかあったな。サネくんに聞いたら、何か分かるかな?
その時は、そんな感じで軽く考えていたんだけど。この日以降、セーラはどんどん面白くなった。セーラをからかうことが私の趣味と日課になるまでに時間はかからなかったのも当然と言える。なぜなら、セーラがチョロかったからだ。
あと、この日以降、セーラの買い物に付き合うのはサネくんということが暗黙の了解になったけど、まぁそれも当然のことだ。サネくん、がんば☆
サネヤはこの日の経験から【索敵】かくれんぼを考えたりしている。
というわけで、色々なことのきっかけとなった一日の話。本編じゃないし、後日談でもないから番外編ということにしてみました。蛇足ではあるけど。
お読みいただきありがとうございました。
ブックマーク、いいね、評価等していただけるとうれしいなぁと思います。
既にしてくれている人は本当にありがとうございます。
本編完結の後に、後日談・番外編とだらだら書きましたが、一応これで本当に完結のつもりです。




