後日談:真の仲間への軌跡~セーラへの贈り物~②
トスラ。
それが、僕たちが滞在している街の名前だ。
トスラは、街と言うよりも都市、それも大都市だ。田舎出身のセーラたちでも知っているような大都市らしい。フリセノアで小金持ちになってから、僕たちはずっとトスラを目指して冒険していた。
本当はトスラでパーッとお金を使うつもりだったんだけど、道中でわりと散財してしまった。それでも、まだしばらくは余裕のある生活が出来そうなので、トスラには長く滞在する予定にしている。まぁ、宿屋はいつも通りギルド直営の安めのところだけど。
つまり、何が言いたいかと言うと、みんなにプレゼントを買うならこの街だという事だ。というか、この街で買わなかったら、お金の余裕が消える可能性が高い。
セーラへのプレゼントはヒスイの協力により決めることが出来た。まだ商品を受け取ってないので、セーラに渡せてないけど。
とりあえず、セーラのプレゼントが用意出来るまでの間に、コガネとヒスイへのプレゼントを探すことにした。といっても、探すものは決まっているので、情報収集を頑張るだけだ。
結果、コガネには良いお風呂屋を。ヒスイには有名なお菓子店を、ちゃんと紹介することが出来た。
そして、一昨日は、コガネと一緒にお風呂屋に行った。セーラとヒスイには内緒で。
昨日は、ヒスイと一緒に有名なお菓子屋に行った。セーラとコガネには内緒で。
2人とも「俺(私)へのプレゼントなんだから、セーラ達には内緒で2人で行くぞ(行こう)」と言ったのだ。
昨日、一昨日と連続でセーラに内緒で行動したので、僕は疲れたよ。その分、2人とも喜んでくれたから良いけど。
そして、遂に今日、セーラへのプレゼントが用意出来るのだ。
「………………喜んでくれるかな」
最悪、喜ばなくても、機嫌が悪くならなければいいんだけど。
セーラの優しさは、トスラに来てから元に戻りつつある。機嫌が悪いわけではないんだけど、妙に優しいということも少なくなった。
どちらかと言えば、優しくない状態に近づきつつあるセーラへのプレゼント。
「………………不安だなぁ」
途中までは、セーラのことを考えていた。だけど、このプレゼントを思いついた瞬間、セーラが喜ぶかどうかより、セーラにあげたい! って気持ちになってしまったのだ。
いや、絶対似合うとは思うんだけど。やっぱり、ダンジョンの情報の方が良かったかな。
まぁ、今更考えても遅い。僕は、プレゼントを受け取りに行った後、セーラを呼び出した。
やってきたセーラは、なぜかジトーっとした目で僕を見ている。なんか、最近、この目で見られることが多い気がするな。
「あんた、最近、なんかこそこそしてない?」
……バレかけてるじゃん。
「き、気のせい…………ってわけでもないんだけど。ちょっと色々準備してたんだよ」
「? なんの準備なの? 言ってくれれば手伝ったのに」
言えないよ。プレゼントのことをセーラに言ったら意味ないからね。
…………もちろん、こっそり出掛けたことも言えないけど。
「これの準備だよ。はい。日頃のお礼とお詫びを兼ねて、僕からのプレゼント」
そう言って、僕は綺麗に包装された箱をセーラに差し出した。
「……プレゼント? あ、あたしに?」
サプライズは成功のようだ。セーラは驚いて目を丸くしている。
「そうだよ、セーラへのプレゼント。…………喜んでもらえると良いんだけど」
自分で言いながら自信がなくなって、照れくさくなって。声が小さくなり、セーラから目を逸らして下を向いてしまう。本当に、喜んでもらえると良いんだけど。
「………………」
しばらく、待ってもセーラは何も言わない。
えっ、無反応⁉ なんか渡し方とかダメだった⁉
恐る恐る顔を上げて、セーラの方を見ると。
セーラは――
※※※※※
「………………うわぁ」
思わず声が漏れた。
部屋に戻ると、これでもかってくらい表情の緩んだセーラがいたからだ。なんかこう、人様にはお見せ出来ないくらい蕩けた顔をしている。
その顔を見た瞬間に分かった。ああ、サネくんからプレゼントもらったな。
分かりやすいにも程がある。ていうか、私が部屋に入って来たんだから、ちょっとは表情を取り繕いなよ。
「ただいまー」
「おかえり!」
もう声からして、幸せで嬉しくてたまらないって感じだ。まぁ、何もしなくてもサネくんにメロメロなチョロいセーラが、プレゼントをもらったらこうなる気がしたけど。
「どうしたの? なんか嬉しそうだね?」
別に聞かなくても分かる。けど、私から聞かなくてもどうせ教えられるのだから、早いとこ聞いた方が良い。私はめんどくさいことは、先に片付けるタイプなのだ。
「サネヤからプレゼントをもらったの! っていうのもね――」
そこから始まったのはいつもの、いや、いつもより数段気合の入った惚気話。前までは、一応愚痴の形を装っていたけど、今は完全に惚気でしかない。サネくんのこと好きだってこと、私に隠す気ある?
サネくんに、今のセーラの顔を見せてあげたい。やっぱりセーラになら何あげても喜ぶんだよ。
分かり切っていたことだけど、セーラはサネくんからプレゼントを貰えたのが嬉しくて仕方がないみたいだ。
昨日、私もプレゼントとして、サネくんに甘いものを奢ってもらっている。だけど、それは今言わなくても良いだろう。しばらくは、幸せ気分に浸らせてあげよう。私、やさしい。
「それでね、サネヤがね――」「この間もね――」「私がそう言ったら、サネヤは――」
………………セーラの話は終わりが見えなかった。
やっぱり、サネくんとデートしたこと言ってもいいかな?
てか、まだ貰ったプレゼント見せてもらってないんだけど。
サネくんはセーラのプレゼントのためにお店でオーダーメイドしていた。説明は聞いたけど、どんなものなのか、実物をまだ見ていないのだ。
そして、セーラの惚気話は要領を得ない。まぁ、要約すると内容は「サネくん大好き!」でしかないのだけど。あっちにいったり、こっちにいったりするせいで、未だに何を貰ったのかまで、話が到達していない。
「ねぇ、先にサネくんからのプレゼント見せてよ」
「! それもそうね、見せてあげるわ!」
そう言って、セーラがすごく丁寧に包装が剝がされた箱から、ものすごく丁寧に取り出したのは――
※※※※※
――魔女の帽子。
あのとんがりに何の意味があるのか。
何故、魔法使いはこぞってあの帽子を被っているのか。
それは全く分からないけど、僕はあの帽子が大好きだった。なんかこう、魔女! って感じがするからだ。だけど、残念なことにこの世界には魔女の帽子は普及していなかった。似たような帽子は合ったんだけど、魔女感が足りていない。
そこで、僕はオーダーメイドした特注品の『魔女の帽子』をセーラにプレゼントすることにした。服屋でヘンテコな形の帽子を見ていたときに、魔女の帽子のことを思い付いたのだ。
そして、思い付いた瞬間から、他の物をプレゼントする選択肢は消え去った。
セーラは魔法使いなので、絶対に似合うはず。
なにより、僕が魔女の帽子を被ったセーラを見たい。
そういう想いを込めて、セーラに魔女の帽子をプレゼントした。完全にセーラのことじゃなくて、自分の気持ちが先行してしまった。
セーラに「こんなのいらない」とか言われないか不安だったけど、受け取ったときの様子を見る限り気に入ってくれたようだ。
というか、贔屓目なしに言えば、すごく喜んでくれていたと思う。
やはりセーラも魔法使いなので『魔女の帽子』には惹かれるところがあったのだろう。
「…………セーラ、まだかなぁ」
僕は、食堂でセーラが来るのを待っていた。
まだ、魔女の帽子を被ったセーラの姿を見せてもらっていないのだ。
昨日、渡したときに見せてもらいたかったんだけど「ちょっと準備したいから、明日ね!」と言われてしまった。何の準備をするんだろうか。変なものを被る心の準備とか?
などと思っているうちにセーラがやって来た。
「お、おはよう、サネヤ。……これ、変じゃないわよね?」
そう言うセーラは丈の長い綺麗なローブを着て、僕がプレゼントした魔女の帽子を被っている。
まさしく、僕が思い描く理想の魔女! って感じの格好だ。
「……黙ってないで、何か言いなさいよ」
理想の姿に思わず黙り込んでしまった僕に、セーラが恥ずかしそうに言う。初めて被るものなので、似合うかどうか不安なのだろう。
だが、安心して欲しい。今のセーラはどこに出しても恥ずかしくないくらい完璧な魔女だ。
「ごめん、思わず見惚れちゃったよ。もちろん、ばっちり似合ってる! プレゼントした僕が言うのもなんだけど、完璧!」
僕はセーラに、心からの賛辞を贈るのだった。
その後、コガネとヒスイも、魔女の帽子を被ったセーラのことを「似合ってる」と褒めてくれた。この世界でも、やはり魔法使いと魔女の帽子の相性は抜群のようだ。
セーラも喜んでくれているし、プレゼントして本当に良かった。




