閑話:【殲滅】トレーニング
後日談ではあるけど、閑話でもあるので、閑話です。
ドンドンドンッと、激しいノックとともにセーラは現れた。
これでも、前よりはお淑やかになった方だ。他のお客さんへの配慮が見られる。
扉を開けると、「おはよう」と言う間もなく、セーラが言い放った。
「サネヤ、スキル【殲滅】の訓練するわよ!」
「えっ、嫌だ」
セーラの言葉の意味を理解するよりも早く、反射的に否定の言葉が口をついた。
「何でよ⁉」
セーラは断られるとは思ってなかったのか、すごく驚いた顔。
断るに決まってるよ。てか、なんで急にそんなこと言いだしたのか逆に聞きたい。
「そりゃ、危ないからだよ。僕、制御できないし」
「だからって、訓練しないと使えないままじゃない」
それは、そうだけど。
もうスキル【殲滅】使う必要なくない?
スキル【殲滅】が使えなくたって、セーラ達が僕を追放しないことは分かった。だからと言って、手を抜くわけじゃない。僕は、戦闘以外の場面でサポートすると決めたのだ。
だから、もう僕がスキル【殲滅】を使う必要なんてない。あんな危険なポンコツスキル、絶対使いたくないし、使わない!
そんな固い決意を込めて、セーラの目を見る。僕の想いよ、届け。
だが、セーラから返ってきたのは、ジトーっとした目。
「…………あんた、こないだと同じような状況になったら、スキル【殲滅】使うでしょ?」
「………………そ、そんなことないよ?」
全力で目を逸らした。想いがバレたらまずいからだ。
「あたしの目を見て、答えなさい。同じ状況でも、使わない?」
「つ、使わない………………ために善処する方向で、検討しよう……とは思ってるよ」
「それ、検討した結果、使うわよね?」
僕の想いが正確に見抜かれている。目を見ただけで気持ちが伝わるなんて、真の仲間に近づいている証拠かな? だが、今の状況では素直に喜べな変化だ。
セーラがジトーっとした目をやめてくれないので、僕は渋々認める。
「………………まぁ、使う可能性がないとは言いきれないけど」
「なら、やっぱり訓練しなきゃダメじゃない。あたしは、絶対いやよ。あんたを殺すのも、あんたに殺されるのも」
それもそうなのだ。そうなんだけど。
「起動したら何も出来ないんだよ? そのくせ、馬鹿みたいに強いし。やっぱり危ないよ。訓練するなら、今まで通り僕一人でやるよ」
「うだうだ言ってないで、一緒に行くわよ。スキル【殲滅】なんて大したことないのよ。あたしが分からせてあげる!」
そう言い切るセーラはいつも通り自信満々で、僕は頷くしかなかった。
………………まぁ、セーラが『訓練する』って言った時点で、訓練をすることはほぼ確定していたのだ。一応、抵抗したけど、どうせこうなることは分かっていた。
「ほら、じゃあ、そこの一向に起きる気配のないバカを起こして、降りてきて。あたしは、向こうの部屋のバカを叩き起こしてくるわ」
ヒスイとコガネを叩き起こしてまで、訓練しなくてもいいと思うなぁ。明日以降でいいんじゃない?
あと、本当に危なくないことが確認できるまでスキルを起動しないからね?
※※※※※
スキル【殲滅】なんて、わりと大したことない。
そんなセーラの言葉を実践するべく、僕たちは適当な広場に来ていた。街からはかなり離れているし、周囲に人気はない。
そんな広場で、僕は全力で拘束されていた。
足元から首の下まで完全に動かせない。唯一動かせるのは顔だけだ。といっても首もほとんど回せないので、辺りを見渡すことも出来ない。
「よっし、これなら大丈夫だろ」
後ろで、コガネがなんか言ってるけど、姿は見えない。
僕は、セーラの魔法によって完全に動きを封じられていた。
「どう? 動けないでしょ?」
そう言うセーラは拘束された僕をみて満足気だった。
「うん。全然、動けないよ」
スキル【殲滅】の訓練のために、セーラが考えた作戦は至ってシンプル。
完全に拘束された状態の僕が、スキル【殲滅】を起動。
事前に全力で魔力を込めた拘束なので、いくらスキル【殲滅】とはいえ、すぐには破壊できない。てか、そもそも体に力が入らない気がする。
そして、拘束が解けるまでの時間に、僕が全力でスキル【殲滅】に抗う。ここで、僕が制御できるようになるのが目標だ。
拘束が解けそうになったら、コガネかセーラの手でスキルを強制的に解除する。
つまり、『最初から動けないようにしとけば、スキル【殲滅】怖くない作戦』だ。
「どう? 完璧な作戦でしょ?」
「うん、これならセーラ達は安全…………だと思う」
たしかに、これなら安全にスキル【殲滅】の訓練をすることが出来る。僕が一人でやっていた時と違って、無駄にミンチの山を築くこともない。
スキル【殲滅】を一回起動するたびに、僕の精神がガリゴリに削られていたことを考えると、すごく良い作戦だと思う。
良い作戦だと思うんだけど、コガネが持っていた木の棍棒が気になるところだ。もしかしなくても、僕殴られるんじゃないの?
「ちなみに、どうやってスキル【殲滅】を解除するつもり?」
「強い衝撃を与えたら、スキルは解けるはずなのよ。ほら、この間だって――」
言いかけたセーラが一瞬で真っ赤になって、言葉に詰まる。
うん、そうだね。そこには触れない方が良い。たぶん、僕も赤くなっている。
だが、この場にはそんなときでも果敢に踏み込んでいくヒスイがいるのだ。
「私は、毎回セーラがキスすればいいと思うんだけど?」
「うるっさいわね! 衝撃を与えなきゃならないんだから、毎回同じじゃダメでしょ!」
「飽きちゃうようなキスしか出来ないの? セーラはキスの練習した方がいいんじゃない?」
「そっーーんんっ。とにかく! 始めるわよ」
勢いで否定しようとしたセーラが思い止まる。英断だと思う。今のヒスイには何を言ってもからかわれるに決まってる。
「あっ! じゃあ、私が代わりにキスしよっか?」
「ぜ、絶対ダメよ! ダメに決まってるでしょ!」
その後、ニヤニヤして楽しそうなヒスイを、セーラがどうにかして黙らせる。その間、僕はお口にチャック。下手に口を出すと、何を言われるか分かったもんじゃないからね。
ちなみに、コガネは「じゃあ、俺がしようか?」みたいな感じで出てこようとしたので、視線だけで「やめといた方がいい」と伝える。今のセーラにその悪ふざけは危険だ。
さておき。
結局、僕が殴られるという事実は消えないみたいだ。ちょっと嫌だな。
「大丈夫だよ、サネくん。しっかり治してあげるから!」
そんな不安が顔に出てたのか、ヒスイが笑顔で言ってくれた。
そういうことじゃない気もするけど。
仕方ない。覚悟を決めよう。
僕は、フリセノアのダンジョン以来、久しぶりにスキル【殲滅】を起動する。
「――スキル【殲滅】、起動」
スキルが起動した途端、体が縛られている感覚になる。……はずなのだが、初めから拘束されてるのであまり変わらない。
ただ、視界は靄がかかったようになり、強制的に魔力探知が行われた。反応は3つ。もちろんセーラ達だ。
即座に殲滅しようと体がーー動かない。
「ほら、サネヤ。頑張って! スキルを制御するのよ!」
セーラの声がぼんやりと響く。
「がっ……ぐっ」
そうだ、スキル【殲滅】に抗え。セーラ達の役に立つために使えなきゃ意味がないんだ。
だが、僕が必死に願ったところで、スキル【殲滅】は止まらない。
バキっと音を立てて、拘束にヒビが入った。
「コガネ!」
すかさずセーラの鋭い声が響き、
「悪い、サネ!」
後頭部に衝撃が走るのを認識したところで、僕の意識は途絶えた。
※※※※※
目を開けると、ヒスイが目の前にいた。すごく心配そうな顔、というよりは怖がってる顔。そして、へっぴり腰だ。
「……目、覚めた? スキル【殲滅】は起動してないよね? 大丈夫だよね?」
体を縛る感覚は消えている。まぁ、また拘束されてるから動かないけど。
「……うん、大丈夫。解けてるよ」
やっぱり、スキル【殲滅】は強い衝撃で解くことが出来るみたいだ。
「ねっ! あたしの言った通りだったでしよ? スキル【殲滅】なんて大したことないのよ!」
たしかに、その通りだ。スキル【殲滅】を起動したのに、何も殲滅することなくスキルは終了した。快挙だと言える。
「…………でも、全く制御できなかった」
「当たり前でしょ。これからよ、これから! 何回もやっていけばいいの!」
「そうだよ。私だって何回だって治癒してあげるし」
「俺も何回でも気絶させてやるよ。それに、いずれは真っ向から押さえつけるぐらいに、俺が強くなってやる」
口々に言ってくれる3人は、やはり僕には勿体ないくらいの仲間だ。
みんなの力になるためにも、スキル【殲滅】を制御できるようにならないと。
「ありがとう。がんばるよ」
……ただ、先は長そうだなぁ。




