後日談:真の仲間への軌跡~ヒスイのデート大作戦~②
私は、セーラの監視網を逃れてサネくんを連れ出すことに成功した。
私にしては、頑張って早起きした。まぁ、セーラの目を逃れるという目的だけじゃなくて、人気のお店の行列に早くから並ぶためにも早起きは必須だ。
サネくんは、朝早い時間だというのに、何の文句も言わずに来てくれた。というよりも、実は、私はサネくんに起こしてもらっていたりする。昨日、念のため鍵を渡していたのが功を奏した。
セーラにバレないように、私を起こすのにサネくんは相当神経を使ったようだけど。ごめん、サネくん。
さておき。
どうにか朝早く出発することが出来たので、私たちは甘いもの巡りに出発した。そして、ツーイスの街で一番の人気の店に来ている。首尾よく、行列のかなり前の方に並ぶことが出来た。
「………………ふふっ」
まだ、セーラはメモの存在には気付いていないだろう。なんなら起きてもいないかもしれない。
「ヒスイ、楽しそうだね」
「そりゃあね!」
甘いものも楽しみだし、セーラの反応も楽しみでならない。
「ここに来たかったから、セーラに秘密だったんだね」
「そうそう。セーラ、甘いもの嫌いなくせに仲間外れは嫌がるから」
「来たら来たで、すぐに『帰る!』って言いそうだしね」
「そうなんだよねぇ。セーラって基本的に行動がお子様だから、困っちゃうよ」
まぁ、セーラが一緒に来たがるのはサネくんのことが好きだからってのが大きいと思うけど。そのことにサネくんが気付いているのかは分からない。
そして、セーラに秘密にしたってのも語弊がある。ちゃんとバレるように仕向けてあるのだ。
その後、サネくんとのんびり話しているうちに、私たちの番になった。
「そうだ、サネくん。スキル【索敵】とか、諸々解除してよ」
「えっ、なんで? このお店ってスキルの使用禁止なの?」
やっぱり発動してたんだ。サネくんは、基本的にずっとスキル【索敵】を発動している。根がビビりなのだ。街中で襲われることなんて、今まで一度もなかったのに。
まぁ用心は大事だし、普段なら別に言わないけど。今日はだめだ。
「いや、そうじゃないけど。せっかく甘いもの食べに来たんだから、完全にリラックスして楽しもうよ」
「……わ、分かった」
すごく不安そうな顔でサネくんが頷く。全然、リラックスしてない。何も襲ってこないって。
そんな気を張ってたら、純粋に甘いもの楽しめないじゃん。だが、サネくんの顔からは不安の色が消えない。
「…………心配なら、私が結界張っといてあげるから。ね?」
「……ごめん。ありがと」
サネくんの肩からやっと力が抜ける。ちゃんとスキルは解除してくれたようだ。
ただ、謝るのは私のほうだ。
サネくんにリラックスして欲しいのは本当だが、真の目的は別にある。今日はセーラをおちょくるだけでなく、サネくんへのサプライズも兼ねているのだ。
サネくんに、セーラが接近してくるのを気付かれたくない。だって、いきなりセーラが現れた方が絶対面白いもん。
だから、サネくんにはスキル【索敵】とかは解除してもらう必要があったのだ。
ごめん☆
ちゃんと結界は張ってあげるから許してね?
※※※※※
「待てって、セーラ。少なくとも、そっちじゃねぇよ!」
何の躊躇いもなく間違った方向へ突撃しようとするセーラを引き留める。
まだ昼も来てないのに叩き起こされた俺は、なぜかセーラのお守りをしていた。
「じゃあ、どっちよ!」
セーラはどう考えても、裏通りの方に行こうとしていた。ちゃんと見てないけど、メモにあった店の名前はお菓子屋とかだった。さすがに裏通りにあるってことはないだろう。
「調べるから、ちょっと落ち着け。てか、道分かんねぇのに出発すんなよ」
「なら、早く調べて」
「分かってるよ」
なんで、俺がこんなことしてるんだよ。セーラのお守りはサネの仕事なのに。まぁ、そのサネがいねぇから、セーラは突撃しているんだろうけど。
「そのメモ、見せてくれ」
ムスッとしているセーラからメモを受け取る。なんでこんなに怒ってんの?
その理由はすぐに分かった。
メモには、ヒスイの字でお菓子屋やケーキ屋の名前がいくつも書いてあった。
………………そういうことか。
これ、甘いもの嫌いなセーラを置いて、ヒスイと出かけただけじゃねぇか。
で、セーラはサネとヒスイが2人きりで甘いものを食べるのを阻止したいのか。いいじゃねぇか2人で甘いもの食べるくらい、なんて言ったらめんどくせぇことになるのは分かっているので、お口にチャックだ。
「………………はぁ」
俺は、セーラに聞こえないようにため息をついた。
サネのやつ、なんでこんなメモ残していくんだよ。詰めが甘いぞ。そのせいで、俺が道案内する羽目になってるってのに。
「まだ? もう分かったでしょ?」
「ああ。たぶん、大丈夫だ」
てか、ご丁寧に地図まで書いてあるじゃねぇか。これなら一人で行ける………………わけねぇか。セーラだもんな。迷子になると分かってるやつを放置するのも忍びない。
「とりあえず、一番上に書いてある店から行くか」
………………はぁ。俺の休日が。
※※※※※
私たちは、手当たり次第に欲しいものを頼み、甘いものを欲望の赴くままにむさぼっていた。
「ふーっ、美味しかった!」
「えっ、ヒスイ、食べるの早っ」
「別に、いいよ。ゆっくり食べて」
「分かった。ちょっと待ってね」
と言ったわりに、サネくんの食べるペースが上がった。ゆっくりでいいって言ってるのに。サネくんのこうゆうところは、変わっていない。
フリセノアでの一件は、私にとっても衝撃だった。
目の前で、急いでケーキを食べているサネくんが、竜を倒したなんて。実際に、この目で見たのに信じられないという気持ちが未だにある。
そして、サネくんがあんなに悩んでいたということも。私は気付いてあげられなかった。
いつも暗いなぁ、とは思ってたけど。サネくん、会ったときから暗かったし。あそこまで色々抱えていたとは。のほほんと、セーラとの関係を面白がっていた自分が情けない。
サネくんは、あの一件があった後「僕、これからは変わるよ!」と言っていた。
でも。
「…………全然、変わってないよねぇ」
「?」
思わず漏れた声に、サネくんが首をかしげる。手振りで「なんでもないよー」と伝えると、サネくんはケーキとの格闘を再開した。
まぁ、全然は言い過ぎかもしれないけど。サネくんは、あまり変わっていない。基本的に根暗のままだ。
いまだに、セーラに何か言われたら、ちゃんと凹んでいるし、素直に言う事を聞いている。まぁ、それがサネくんのいい所でもあるんだけど。もう少し我が儘になっていいと思う。
ただ、根本の部分はそう簡単に変わらないのだろう。それでも、以前より表情が柔らかくなったし、自然に笑っていることが増えた気がする。いい傾向だ。
というか、変わるべきはセーラの方だと思うんだよね。サネくんのこと大好きなくせに、ヘタレで照れ屋だから、何も出来ずにいるし。
もうキスしたんだから、ガンガン攻めればいいのに。キスの件は自分から有耶無耶にしちゃうし、なにやってんだか。
私から、サネくんにセーラの気持ちを伝えるのは流石になしだ。セーラの今後のためにも良くない。
私にできることは、セーラに自分の気持ちと向き合わせること。だから、今日のようにセーラをからかい続ける。そう、これはセーラのためであって、決して私がセーラをおちょくって遊びたいわけではないのだ!
………………まぁ、その結果、セーラがどんな顔をするのかは楽しみで仕方ないけど。あくまで、セーラのため☆
※※※※※
私とサネくんは、いくつものお菓子屋をめぐっていた。私が思っていたよりサネくんは甘党だったようだ。ガンガンついてきている。
だが、食べ過ぎたので、今いるお店では2人とも1品ずつしか頼んでいない。朝ご飯も、昼ご飯も甘いものしか食べていないので、流石に限界が近い。
そろそろ、セーラが追い付いてきてもおかしくない頃なんだけどなぁ。
そう思っていたら、店の外に藍色の髪の毛がたなびくのが見えた。ようやくセーラのお出ましだ。来るのが遅いから、もうほとんどデートの行程を消化しちゃったじゃんか。
そんなセーラには特大のサプライズをお見舞いしてあげよう。
「サネくん、こっちのも食べたいよね? はい、あーん」
そう言って、私はスプーンをサネくんの前に差し出した。
「え、いや、良いよ」
サネくんは、シャイなので当然のように拒む。だが、私も押し通させてもらうよ。こうした方が絶対に面白くなるのだ。
「はいはい、遠慮しないの。えいっ!」
私による渾身の『あーん』が完璧に決まったタイミングで、セーラが私たちのテーブルまでやってきた。そして、目の前の光景にセーラが、一瞬ではあるけど完全に固まった。
「……ふ、2人とも、こんなとこで何やってんのよ!」
「! えっ、セーラ⁉」
すぐに我に返ったセーラが叫んで、サネくんがセーラの登場に驚く。
セーラへのおちょくりとサネくんへのサプライズ。どちらも大成功だ。
その後、わたわたしているサネくんと爆発寸前のセーラを見ながら、私は必死に笑いを堪えるのだった。
「ちょっと、ヒスイ! 何笑ってんのよ、説明しなさいよ!」
おっと、堪えれてなかったみたい。
最近、乙女オーラ全開の甘々セーラがうっとおしい。
だけど、これからも退屈はしなさそうだ。
………………ちなみに、セーラの後ろには、コガネが疲れた顔で立っていた。一応、セーラ一人でも来れるように地図も書いてたんだけどな。ごめん。コガネ。
思ったより長くなった。ヒスイ、がんばった。




