後日談:真の仲間への軌跡~ヒスイのデート大作戦~①
ヒスイ視点の【後日談】
最近、セーラがうっとおしい。
理由は言うまでもない。サネくんとキスしたからだ。
実害はない。セーラが恋に現を抜かして弱くなったり、パーティの関係がギクシャクしたわけでもない。というか、セーラはだいぶ前からサネくんにゾッコンなので、通常運転だとすら言える。
ただ、サネくんがいないところでの恋する乙女モードがうっとおしさを増したのだ。最近は、その傾向がより顕著になっている。そして、その被害は宿屋で2人きりになる私に降りかかってくる。
サネくんとキスして以来、無意識に自分の唇を触ってニマニマしたり、ベッドのうえで足をバタバタさせてみたり。セーラは、一人で甘々な空気を醸し出している。
そのくせ、セーラ本人にその自覚はない。サネくんのことなんて好きじゃないというスタンスを貫いている。なぜ誤魔化せると思っているのかが疑問でならない。
幼馴染として、親友として、長い付き合いだからこそ思ってしまう。やっぱセーラってバカなんじゃないかな?
そんなことを思いながら、幸せオーラを振り撒いているセーラをジトーっと見ていると。
「なによ?」
やはり、自分はいつも通りにしてますけど? みたいな顔でこっちを向く。
「……べっつにー」
「そう。あ、そう言えば! 今日、サネヤがね――」
そこから始まったのは、いつものサネくんに対する愚痴まじりの惚気。最近、輪をかけて惚気要素が強くなったけど。本人が気付いてる様子はない。
「――だってのに、サネヤったら!」
終わりの見えないセーラの話に、てけとーに相槌を打ちながら私は決めた。
よっし、明日あたり、サネくんとデートに行こっと!
※※※※※
ツーイス。
それが、今、私たちが滞在している街の名前だ。
フリセノアでサネくんが竜を倒したおかげで、私たちは小金持ちになっていた。なので、私たちはパーッと遊ぶために大都市を目指して冒険していた。
その道中で寄ったのが、ここ、ツーイスの街というわけだ。ツーイスは、有名なお菓子店やケーキ屋が立ち並ぶ、甘いものの聖地とでもいうべき街だ。
私、ヒスイは、甘いものが大好きだ。だけど、パーティで甘いものを食べに行くことはない。なぜなら、セーラとコガネが行きたがらないから。
セーラは、甘いものが嫌いだ。自分が甘々な空気を出し続けているので、甘いものを体が受け付けないのだろう。
コガネは、甘いものが嫌いってわけじゃない。ただ、お風呂バカなので、甘いものを食べに行く時間があれば、お風呂屋探しに行ってしまう。
サネくんも、甘いものが好きな素振りは見せていなかった。というよりも、以前のサネくんは自分が楽しむことを避けていたように思える。すぐに、雑用とか荷物持ちとかをやりたがっていた。
そんな3人を置いて1人で行ってもそんなに楽しくないし、あんまり食べ過ぎると太るので、最近は自重していた。だが、せっかくツーイスに居るのだから、甘いものを食べに行かないという選択肢はない。
それに、私は気づいている。サネくんは、隠れ甘党だと。
セーラが「甘いものは嫌い!」と言うので、サネくんは気を遣って(というよりも、気が引けて)主張していなかっただけで、私の見立てではサネくんはかなりの甘党だ。たぶん、素直じゃないセーラが辛口すぎるので、甘いもので中和する必要があるのだ。
ツーイスの街にいる。サネくんは隠れ甘党。セーラをおちょくりたい。
この3つの事実が揃ったので、私は決意したのだ。
サネくんと、甘いものを食べに行こうと。
そして、夕飯の後、私はセーラの目を盗んでサネくんに話しかけた。
「サネくん、明日は暇? 暇だよね?」
「そうだね。特にやることはないよ」
「よかった。じゃあ、明日は私に付き合ってね。あ、セーラには内緒ね」
「? 分かった」
セーラに内緒にすることを少し疑問に思ったようだけど、快諾してもらえた。
まぁ、サネくんと出かける約束をするのは簡単なのだ。というか、サネくんは優しいので「荷物持って欲しいなぁ」って言ったら、二つ返事で着いてきてくれる。セーラは、サネくんのこうゆう優しさにメロメロなのだ。チョロい。
その後、サネくんと出発時間をささっと決めた。もちろん、セーラにバレないように。
冒険に必要なものを買いに行くとかなら、セーラもやいやい言わないだろうけど。ただ、一緒に甘いものを食べに行くだけなら、全力で止めにくるに決まってる。というか、最近は買い物ですら着いてきそうな勢いなのだ。
セーラをおちょくることが目的だけど、出発する前から止められたら面白くないので、慎重に行動しなければ。
かといって、完全犯罪を成し遂げても意味はない。しかるべきタイミングで、セーラにバレてこそ意味がある。その時のセーラの反応を楽しむのだ。
部屋に戻り、私はセーラをおちょくるための小道具を準備した。セーラは単純なので、これくらいの仕掛けに簡単に引っかかってくれるはずだ。
普通に甘いものを食べるのも楽しみだし、明日が待ちきれない。
「…………ふふっ」
「なにニヤニヤしてんの?」
思わず漏れた笑いに、セーラが目ざとく反応してくる。
「いや、別になんでもないよ。今日も楽しかったなぁって」
「? よく分かんないけど、早く寝なさいよ。そうじゃなくても、あんた朝は起きないんだから」
「はーい!」
そうだね、明日はサネくんとデートだから早く寝ないとね!
「おっやすみぃ!」
「? なんで、そんなテンション高いのよ?」
「だから、何でもないってば。そんな細かいこと気にしてたら、サネくんに嫌われちゃうよ?」
「べ、別にサネヤは関係ないでしょっ。おやすみ!」
そう言って、セーラは布団にくるまった。
セーラを黙らせるには、サネくんを引き合いに出すのが一番だ。チョロい。
ちょっと不審がられたけど、まだ何もバレていないので問題ない。
明日が楽しみだなぁ!
※※※※※
「あれ? ヒスイ?」
朝起きると、横のベッドでヒスイが寝ていなかった。最近は、休みが続いていたので、あたしが起こさない限りヒスイは絶対に布団から出てこなかったのに。
というか、休みじゃなくてもヒスイが自発的に起きることはほとんどない。そのヒスイが、あたしよりも早く起きるなんて。
「……珍しいわね」
その時は、こんな風に軽く考えていた。だが、あたしは自分の考えが甘かったことを、すぐに思い知ることになる。
食堂に降りても、ヒスイは居なかった。もうどこかに出かけたのだろうか。
普段ならこの時間にいるはずのサネヤもいない。ただ、今日のヒスイとは対照的に、最近のサネヤは朝寝坊することがある。今日が、たまたまその日だったのだろう。
以前より、リラックスした証拠だと思うので嬉しいのだが、一緒にご飯を食べれないのは少し寂しい。まぁ、あくまで、一人で食べるのが寂しいという意味でしかないけど。
サネヤを起こしに行こうかと思ったけど、ゆっくり休んで欲しかったので我慢する。だが、ご飯を食べ終わった後、しばらく待ってもサネヤは降りてこなかった。
遅いわね。まだ寝てるの?
今日、あたしは出かけようと思っていたのに。
最近になって、ようやく認めざるを得なくなったが、あたしは少し、ほんの少しだけ方向音痴らしい。
だから最近は誰かと一緒に出掛けるようにしていた。というか、みんなは以前からあたしと一緒に出掛けるようにしていた気がする。誠に遺憾ながら、正しい判断だったのかもしれない。
もういい時間なので、いい加減に起こしに行くことした。
あたしはお淑やかなので控えめに扉をノックする。しかし、扉を開けたのは寝ぐせで髪がボサボサのコガネだった。
「サネヤは? いないの?」
「……んあ? サネヤ?」
「出かけようと思ったら、サネヤがいないのよ」
「……俺が知る訳ねぇだろ。今、起きた、ってか起こされたんだよ。どっか出かけたんじゃねぇの?」
コガネの返答を聞きながら、あたしはぼんやりと思った。そういえば、ヒスイもいなかったな。2人で買い出しにでも行ったのかな?
その時、あたしはサネヤのベッドの上にメモ用紙が置いてあるのに気付いた。何気なく見てみると、そこにはヒスイの字でお店の名前が沢山書いてあった。
「!」
そういえば、昨日の夜、ヒスイの様子がおかしかった。そして、珍しく朝早くからヒスイがいない。
これって………………もしかして!
「コガネ、早く着替えて! すぐに、出発するわよ!」
「なんで? 俺、まだ飯食ってねぇんだけど」
たしかに机の上には、サネヤが用意したであろう朝ご飯が置いてある。さすがサネヤだ。優しいし、気が利いている。
だけど、今はそんな場合じゃない。一刻も早く出発しなければ!
ひっそりと投稿再開。いきなり長くなり過ぎたので①です。
やっとPCとWi-Fi環境を取り戻した。




