第21話:-直面-
【第11話】~【第14話】の反転、というていでセーラ視点。
イチガレスの街で見たサネヤの様子が頭から離れない。けど、どうしていいかも分からなかった。
ヒスイに色々聞かれたが、まだ何も話せていない。サネヤは、きっと知られたくないと思っているだろうし。あたしも、どう説明すれば良いのか分からない。
サネヤは明らかに凹んでいた。なのに、それを無理やり取り繕っている。あたしは、こうゆう時にどうやって励ませば良いのか全然分からない。
あたしには分からないことだらけだ。
悩み過ぎてあたしまで暗くなっても良いことはない。だから、とりあえず普段通りに振る舞うことにした。一緒に楽しく過ごせば、サネヤの悩みも吹き飛ばせると信じて。
そんな風にあたしなり色々考えて、あたしはフリセノアのダンジョンに行くことにした。というか、普通に噂を聞いて行きたくなったのだ。ダンジョンは楽しいし、やることがいっぱいある
ダンジョンを探索すればサネヤの気も紛れるだろう。なにより、ダンジョンに行きたがるのは普段のあたしらしい。
イガチレスの街から離れたくて、ちょっと強引に出発した。実際に、ダンジョンに来るとあたしのテンションも否応なくあがる。完璧な作戦だった。
なのに、あたしは油断してトラップに引っかかった。
そして、竜に遭遇してしまった。
「……でも、戦わなきゃどうにもならないわよ」
あたしの責任だ。あたしがどうにかしなければ。
振り返ってサネヤを見ると、いつもの顔だった。自分が悪いとでも思っていそうな暗い顔。一瞬だけ視線が交錯する。
その顔を見て、その目をみて、あたしは覚悟を決めた。
戦おう。あたしがサネヤを守るのだ。絶対に。
「下がってろ、サネ。あれはやべぇ」
「気張りなさいよ。あんたの【索敵】が頼りなんだから」
「サネくん、こっちに寄って。強度重視の結界張るから、かなり狭くなるよ」
コガネもヒスイも諦めていない。あたしも、精一杯強がった。でも、みんなで力を合わせれば。きっと、どうにか出来る…………はず。
ここはダンジョンだ。逃げ場なんてないかもしれない。それでも。なんとかサネヤとヒスイだけでも逃がさないと。
コガネには悪いが、あたしと一緒に殿を務めてもらうしかない。そう思っていたのに、最初に動いたのはサネヤだった。
「ヒスイ、みんなに防御結界張って。僕はいらないから」
「あと、なるべく魔力を絞って見つからないようにして」
「今だけは、僕を信じて欲しい」
サネヤには何か考えがあるはずだ。今までだって、サネヤの指示で助かった場面は多くある。何か分からないけど、あたしたちは従うに決まっている。
だけど――
「竜は、僕がどうにかするから。みんなは、僕をどうにかしてね」
その台詞を聞いたとき、あたしはどうしようもない不安に駆られた。すごく、すっごく嫌な予感がする。
「サネヤ。あんた、まさか……」
その予感は、引き留める間もなく的中した。
「…………スキル【殲滅】、起動」
※※※※※
本当は竜を見た瞬間に、あたしはサネヤのスキル【殲滅】を思い出していた。
あのスキルなら勝てるんじゃないか、と。でも、スキル【殲滅】は使って欲しくなかった。サネヤがあんなに苦しそうな顔をしなければ使えないスキルなんて。
あたしの責任で竜と戦わなければならなくなったのに、サネヤに辛い思いをさせてはならない。そう思っていたのに。
『竜は、僕がどうにかするから。みんなは、僕をどうにかしてね』
あの台詞。イガチレスで見た光景。スキル発動直前のサネヤの目。
根拠はない。だけど、あたしは『自分の予想』が正しいことを確信した。
サネヤは、竜を圧倒している。壁際にいるあたし達に、竜が攻撃を加える隙さえ与えていない。スキル【殲滅】の力は絶大だった。
「な、なんだあれ。すげぇ。サネ、あんな力隠してたのか! おい、早く加勢しよう。これなら勝てるぞ!」
コガネの言う通り、竜に勝てそうな勢いだ。人間業とは、ましてサネヤがやっているなんて信じられない。
でも、サネヤも傷を負っていないわけではない。本当なら、加勢した方が良いに決まっている。
けど。
「ダメ! 今、サネヤに近付くのは危険すぎる」
「えっ、どういうこと? サネくん怪我してるし、早く治療しないと」
「治療もダメ。たぶんサネヤは、あのスキルを制御出来てない」
あたしの予想通りなら、あのスキルの対象は無差別だ。だから、あたし達に出来ることは――
「とりあえず、魔力を限界まで絞って、サネヤの標的にならないようにして。もし、死にそうだったら治療しなきゃだけど、その分、後が辛くなる」
「後ってなんだよ?」
「たぶんサネヤは、あたしたちにも攻撃してくる」
あたしは見たのだ。魔石を割って慟哭しているサネヤを。あれは、あたしたちの未来だ。下手に動けば、あたしたちもサネヤのスキルに粉々にされる。
「…………冗談だろ? だって、そんな」
「今まで使ってなかったのは、あたし達を巻き込むのを恐れてたからだと思う。一回だけあのスキルを使ってるところを見たけど、制御出来てるとは思えない」
だから、あんなに辛そうだったのだ。悲しそうだったのだ。
「じゃあ、どうするんだよ。…………待てよ。………………『僕をどうにか』ってあれ」
「まさか、サネくん………………」
「そういう意味だと思う」
サネヤの考えそうなことだ。自分のことは勘定に入れてない。
竜を殺した後、あたし達に自分を殺させるつもりなのだろう。あわよくば竜と相討ちになるつもりだったのかもしれないけど。
たとえ相討ちにならなくても、サネヤか竜がボロボロになることは確定。どう転んでも竜の脅威が格段に減るのだ。
たしかに、竜ではなくサネヤになら。あたし達の攻撃も通るだろう。ただ、サネヤは分かっていない。サネヤを攻撃するという事が、何を意味しているのかを。
「…………でも、覚悟を決めないと。サネヤの覚悟が無駄になる」
「殺す……なんて言わねぇよな?」
「言うわけないでしょっ! あれがスキルに操られてるなら、強い衝撃とか与えて正気に戻せば解除できる…………はず」
使用者を操る洗脳系のスキルなら、ある程度の衝撃で解除は可能だ。サネヤのスキル【殲滅】が、同じ類のものかは分からない。
ただ、どうにか取り押さえることが出来れば、スキルを解除するチャンスが生まれる。出来なければ、そのときは………………。
※※※※※
「………………ほ、ほんとに勝っちまいやがった」
「………………サネくん、強っ」
頭を貫かれた竜が崩れ落ちる。ただ、勝ったはずのサネヤもボロボロだ。
「おいおいおい、サネもボロボロじゃねぇか。あんなの下手したらすぐに死んじまうぞ」
「かといって、治療して元気になったサネくんには勝てる気がしないよね」
これが、サネヤの作戦通りという事だろう。
あとは、あたし達がボロボロのサネヤを殺せば、万事解決ってわけね。
………………ふざけやがって。
サネヤは、ボロボロの体でふらふらと近づいてくる。動いているのが不思議なくらいの大怪我なのに止まる気配はない。
近づいてくるサネヤの顔は酷いものだった。たった今『竜殺し』になった英雄がする顔じゃない。
このまま黙ってサネヤの好きなようにやらせるわけにはいかない。
「コガネ、後ろに回り込んで。あたしが魔法で動きを止める。ヒスイは防御結界を頼むわ」
「分かった」
「任せて」
サネヤを何としてでも正気に戻す。そんで、自分勝手なあのバカを――
「ぶん殴ってやる!」
と、かなり気合を入れたけど、存外簡単に取り押さえることが出来た。サネヤの体はボロボロで動きが鈍いのもあるが、魔法への対処がお粗末すぎる。
「サネ! 正気に戻れ!」
コガネの声に顔歪めたけど、まだ攻撃しようと藻搔いている。やっぱりスキルに支配されているみたいだ。
ぶん殴って正気に戻してやろうと思っていたけど、そんなことしたらサネヤが死にかねない。それくらいボロボロだった。
サネヤと目が合う。その顔は悲痛に歪み、その目はあたしに懇願してるようだった。
「何よ、その顔。……殺して欲しいの?」
サネヤの顔が、その通りだと伝えているのが分かった。言葉なんかなくても伝わってきた。
「そうね。あんたを殺すのが手っ取り早いかもね」
そういうと、サネヤの顔が安心したように緩む。
「――でもね」
サネヤは分かってない。何にも分かってない。あたし達がサネヤのことをどう思っているのかも。あたしがサネヤのことをどう思っているのかも。
一人で考えて、自分の都合の良いように行動しやがって。サネヤが、そうするなら。
あたしも好きなようにしてやる。
そう思ったとき、あたしは自分が何をすれば良いのか分かった気がした。
スキルを解除するには何かしら衝撃を与える必要がある。完璧な方法。
なにより、辛そうなサネヤの顔見て、あたしがそうしたいと思ったのだ。
「もう遅いのよ」
あたしは、サネヤの顔を引き寄せてキスをした。
あたし達は、もうとっくの昔に仲間になっているのだ。
そして、もうずっとずっと前から、あたしはサネヤが大好きなのだ。
お願いされたって、殺してなんかやるもんか。
やっとフリセノアまで戻ってきた。
街の名前は、もちろんてけとーです。




