第16話:セーラの気まぐれ人助け
【第03話】~【第05話】の反転、というかセーラ視点。
「…………冒険者ギルドって、どこよ?」
あたし、セーラはバノイアデの街に一人佇んでいた。
別に迷子になったわけではない。迷子になったのではなく、自分がどこにいるのかちょっと分からなくなっただけだ。だから、迷子じゃない。
一緒にいたはずのヒスイとコガネはいつの間にかどこかに行っていた。大通りに思った以上に人がいてはぐれたのだ。
あたしたちは通信魔石なんて高価なものは持っていない。こんな大きな街で2人を見つけるのは至難の業だろう。だが、心配はいらない。はぐれたときの集合場所が事前に決めてあるからだ。
「どうせセーラは迷子になるから、集合場所決めとこうよ」
などと大変不名誉なことを宣ったのはヒスイだ。腹立たしいことにコガネも大賛成しやがった。
だけど、今回ばかりは2人の提案が功を奏した。まぁ、あたしは迷子になったんじゃなくて、2人とはぐれただけだけど。
その集合場所が冒険者ギルドなのだ。つまり、冒険者ギルドに行けば2人と問題なく合流できる。
…………問題は、あたしには冒険者ギルドがどこにあるのか分からないことだ。
「ほんとに、どこにあるのよ……」
…………あたしは断じて迷子なんかじゃない……はずだ。
※※※※※
カナイド。
それが、あたしたち3人の生まれ育った町の名前だ。
辺境にあるにしては、割と大きな町だ……と思っていた。だが、バノイアデに来て分かった。あたしたちの村は、田舎のさびれた町でしかなかったのだ。
そんな町で生まれ育ったあたしたちは、家が近かったので小さい頃から仲が良かった。
3人とも兄姉がいたので家業を継げる可能性は低い。それならと、あたしたちは冒険者になることを決めた。あたしは魔法使い、ヒスイは回復術師、コガネは剣士。それぞれの適正を見つけ訓練を続けた。
そして、3人とも成人として認められる15歳になったタイミングで村を出た。カナイドに居たころは、あたしたちなら冒険者として成功できると確信していた。
だが、現実は厳しいものだった。
あたしたちは、近くにある一番大きな街という理由でバノイアデから冒険を始めることにした。そして、バノイアデに至るまでの道中で思い知った。
あたしたちは、誰も抜きんでた才能がなかったということを。半端な新人が3人集まっても残念ことになりかねない。
正直、このまま3人で冒険者を続けることを諦めて、3人がそれぞれ別々のパーティになることを検討している最中だった。
バノイアデに到着してからも、あたしの頭は今後をどうするかでいっぱいだった。
そのことを真剣に考えていたからこそ、2人とはぐれてしまったのだ。決して、あたしが方向音痴だからとかではない。
「どこにもないじゃない」
あたしは未だに冒険者ギルドにたどり着いていなかった。
とりあえず、人が多そうだから右に行くことにしよう。あれ、こっちってさっき来た道だっけ? ……まぁ、いっか。行ってみれば分かるわ。
そんな風に歩いていこうとしたとき、一人の少年とすれ違った。
その少年は、とても珍しい服を着ていた。一瞬見えただけなのに、縫製の仕方がすごくきれいで、布も柔らかそうな見たことのない素材を使っていることが分かった。
あたしは、その服をよく見たかったので、その少年に付いていくことにした。あたしが行こうと思っていた方向とは真逆だけど、まぁ良い。冒険者ギルドには、最終的にたどり着けばいいのだ。
あたしを含めて、何人もチラチラとその少年を見ているが、気付いている様子はない。というか、ずっと下を見て歩いている。
そんな風に歩いていたらぶつかるんじゃないかと、心配していたら案の定ぶつかった。まぁ、今のはわざとぶつかられたようにも見えたけど。ちゃんと前を見ていたら避けれただろうに。自業自得だ。
『おい、あんちゃん。どこに目ぇつけてんだ。あ゛あん⁉』
少年は、分かりやすく因縁をつけられながら路地裏に引きずりこまれた。哀れ過ぎて見ていられない。
「あーあ。あれじゃ、追い剝ぎされるわね」
あんなハゲゴリラに、あの珍しい服はもったいない。それに、あたしの良心的にも助けたいとは思う。だけど、あたしに助けられるだろうか?
どこにいるのかは知らないけど、衛兵を探してきた方が良いかな……。
ただ、引きずりこまれるときに一瞬見えた顔はとても情けなかった。あれじゃ、衛兵が来る前に締め上げられるに決まっている。
「…………はぁ」
仕方ない。助けよう。
あたしなら、どうに出来るはずだ。
最悪、あのハゲに魔法をぶち込んでやる。
あたしは路地に突撃し、なるべく威勢よく聞こえるように宣言した。
「ちょっと、あたしの連れに何の用よ!」
お礼に服を見せてもらおうかなぁ、なんて打算はあったけど。助けに入ったのは、基本的にただの気まぐれだった。
※※※※※
ハゲゴリラは簡単に撃退することが出来た。自分でもびっくりだ。
助けた少年は、ぼそぼそとお礼を言ってきた。ただし、下を向いたまま。お礼を言う時ぐらい、こっちを見なさいよ。
「別に良いわよ。情けなさすぎて見てられなかっただけだし」
思わず強い言い方になってしまったが、本音なので仕方がない。
そのまま服を見せてもらって帰ろうと思っていたのだが。お礼を言ったきり黙って、こちらに視線すら寄越さずうじうじしている少年を見ていると、放っておいちゃダメな気がした。
「……はぁっ」
仕方がない。一度助けてしまった以上、最後まで面倒を見よう。あたしは、捨て犬を見ると助けてしまう性なのだ。
「あたしはセーラよ。あんたは?」
あたしが名乗ったことが以外だったのか、少年が驚いたような顔する。あたしだって、ここまでするつもりはなかったんだけど。
「えっと、石……じゃなくて、サネヤです」
名前を名乗る段階になって、ようやく目が合った。きれいで吸い込まれそうな黒い瞳だ。不本意なことに、あたしは一瞬だけ目を奪われた。
※※※※※
あたしは、サネヤを服屋までしっかりと案内し、服を変えさせた。
これで、サネヤが変な輩に絡まれることはないはずだ。猫背と下を向いて歩く癖もやめた方が良いと思うけど。
あたしも、サネヤの服をよく見ることが出来て満足。ここで、本当に別れるつもりだったのだが。
「あんた、今、何したの?」
あたしは、サネヤがスキル【収納】を使えるという衝撃の事実を知ることになった。サネヤは、今のあたし達に一番必要な存在だったのだ。
これは、きっと運命だ。あたしたは、今日サネヤを見つけるために2人とはぐれたのだ。やはり迷子になったんじゃない。運命に引き寄せられたのだ。
少し勢いに任せて強引に行動しすぎかもしれないが、大丈夫だろう。サネヤは見るからに暗いし、仲間なんていないだろう。サネヤを逃がす手はない。
一応、道中で最低限の確認はしたが、やはり問題はなかった。
その後、何の問題もなく冒険者ギルドにたどり着いたあたしは、2人にサネヤを紹介した。
「サネヤ、あたしたちの仲間になりたいんだって!」
ちょっと勢い余って変な言い方になってしまった。サネヤも驚いているが問題ない。過程はどうあれサネヤが仲間になるという結論は変わらないのだから。
こうして、あたしはサネヤを仲間に引きずり込――勧誘したのだった。




