第14話:-反転-
――スキル【殲滅】、起動。
スキル【殲滅】は、いわゆるチートスキルだ。今のところ、僕はこのスキルを使って負けたことがない。
この半年の間、何度となく僕はスキル【殲滅】を起動してきた。スキル【殲滅】を起動しているだけで、僕は強力な魔物をいとも簡単にミンチにすることが出来るのだ。
何の努力も、修行もすることなく。あらゆる敵を圧倒できる。まさにチートだ。
だが、そんなチートスキルにも欠点が2つある。
一つ目、自動的に行動するため、僕の意思が介在する余地がないこと。
スキル【殲滅】を起動してしまうと、僕は何も出来なくなる。イメージはマリオネット、操り人形だ。
視界には靄がかかったようになり、音も少し遠くから聞こえる。五感が鈍くなり、体の自由は全くきかない。起動したら最後、僕は他人のゲームプレイを見せられているかのような感覚で、敵をミンチに変えていくことになる。
だから、敵が怖くても、逃げたくても、攻撃をやめたくなっても、僕は敵を殲滅し続ける。
今だって、そうだ。
竜と相対するだけで、僕は声も出なかった。
だというのに、スキル【殲滅】を発動した途端、僕はすごい勢いで竜の懐に飛び込んでいった。自殺行為そのものなのに、僕はまだ死んでいない。意味が分からない超人的な動きで、竜の攻撃を避け、捌き、あまつさえこちらの攻撃を叩き込んでいる。
大迫力の映画を特等席で観覧している気分だ。ジャンルは怪獣とスプラッタをミックスしたよく分からないものだが。
二つ目の欠点は、範囲内にいる魔力反応は一切の例外なく殲滅すること。
言ってしまえば、スキル【殲滅】は範囲攻撃なのだ。
範囲攻撃と言っても一度に全範囲に強力な衝撃波を放ったりはしない。だが、起動時に範囲内にいた魔力反応は残さずミンチに変えてしまう。
僕は体を自由に動かせないので、敵を選別することは出来ない。たまたま範囲内にいた無害で可愛らしい魔物の子供だって、何の躊躇いもなくミンチに変えてしまうのだ。
スキル【殲滅】の範囲がどこまでかはよく分からない。使うたびに拡大しているような気もする。だから、起動するときには常に細心の注意が必要だった。
今回のスキル起動時、範囲内に認識した魔力反応は、4つ。この4つの魔力反応が消え去るまで、スキル【殲滅】は発動し続ける。
強大な1つの魔力反応はもちろん竜のものだ。そして、竜の魔力反応は僕の手によって現在進行形でゴリゴリ削られている。そして、先ほどから動きがない3つの魔力反応の正体は………………。
※※※※※
魔物の最強格である竜を相手に、スキル【殲滅】は大健闘していた。なんなら圧倒していると言ってもいいかもしれない。僕だって傷を負っているが、明らかに竜の方が重傷だ。
セーラたちは手を出してくる様子はない。魔力反応は壁際から動いていない。下手に共闘しようとすると、スキル【殲滅】の対象になる可能性があるので、じっとしてくれていて助かる。
何度か試しているうちに分かったが、スキル【殲滅】は強大な魔力反応から倒しに行く傾向がある。だから、今回も竜を最初に殲滅しにいくと信じた。賭けだったが、どうにかなった。
後は、僕が竜を倒すだけだ。僕は超人的な動きをしているが、肉体の強度はそこまで上がっていない。だから、竜さえ倒せばセーラたちなら僕をどうにか出来るはずだ。理想は竜と僕が相討ちになることだが、たぶん無理だ。
そして、ついに終わりがやってきた。
起動してから何分が経ったんだろう。数分にも数時間にも感じた。
僕の目の前には、体の半分以上が引き千切られてなお動いている竜がいた。だが、もう満身創痍。もはや竜に勝ち目はない。
最後に、僕の攻撃が竜の頭を貫いた。そして、竜の魔力反応が消滅する。
スキル【殲滅】………………強すぎでは?
竜を相手にここまで優位に戦いを進められるとは。まさに、チートスキルだ――重大な欠陥さえなければ。
スキル【殲滅】は終わらない。まだ範囲内に魔力反応は3つ残っているからだ。
守りたい仲間まで殲滅対象にいれてしまうスキルは、ただのポンコツだ。
僕の視界に、セーラたちが写る。
そして、そちらの方へ一歩一歩進んでいく。竜をミンチにした僕の体もわりと限界のようで、その歩みは遅い。だが、スキルに体を支配されているため止まることはない。
足を無理やり止めようとしても、止まらない。
体中が糸で縛られ無理やり歩かされているような感覚。
セーラたちは、驚愕の表情で僕を見て固まっていた。そりゃそうだ。無能で足手まといで役立たずの荷物持ちが竜を倒したのだから。僕だって、正直引いている。スキル【殲滅】は強すぎ、そして容赦がなさすぎた。
だが、セーラたちは突っ立ている場合じゃないのだ。敵を迎え撃ってもらわねば。もう満身創痍で、かなり弱くなっているとはいえ、竜を倒すような動きをするんだ。全力で戦ってもらわないと、セーラたちが危ない。
「××××!」
セーラが何かを叫んだ直後、3人が臨戦態勢に入る。良かった。どうやら事情を察したようだ。さすがセーラ。
そして、コガネの姿が視界から搔き消えた――ように動いた。普段の僕なら見逃していただろう。だが、今の僕はスキル【殲滅】に支配されている。
コガネはが後ろから僕に飛び掛かってくるのが、分かってしまう。僕は完璧なタイミングでコガネを迎撃しようと――
「!」
――したとき、体がガクンと固定された。土が下半身に纏わりついている。セーラの魔法だ。スキル【殲滅】さん、魔法に対する適応力が弱いな。こんな搦め手を使ってくる魔物なんていないから仕方ないのかな。
そして、後ろからコガネに羽交い絞めにされた。足元はセーラの土魔法で固定されている。だが、スキル【殲滅】の発動はまだ終わっていない。
「サネ! 正気に戻れ!」
コガネの声が頭に響く。僕だって、今すぐに攻撃を止めたい。でも、ダメなんだ。殲滅するまで終わらないんだ。
僕を殺すしかない。じゃないと、セーラたちを殺してしまう。
真正面にいるセーラと目が合った。
頼む。僕を殺してくれ。もうそれしかないんだ。
「………あ、が、がぁっ」
必死に止めようとするが、言葉にならない。
その間にも、セーラは近づいてくる。危ないから近づかずに、魔法を放つんだ。
「何よ、その顔。……殺して欲しいの?」
そうだ。その通りだ。この半年、僕はセーラたちを仲間だと思わないようにしてた。信じようとしなかった。ずっとセーラたちを裏切っていたようなものだ。躊躇わずに殺してくれていい。
「そうね。あんたを殺すのが手っ取り早いかもね」
そうだ。さすがセーラ。よく分かっている。今もセーラをコガネを殺そうと藻掻いている僕に、生きている資格なんてない。
「――でもね」
セーラは、もう目の前まで来ていた。手を伸ばせば触れそうな距離。
「もう遅いのよ」
そう言って、セーラは僕の顔を引き寄せ――口を塞がれた。
「!」
あまりの衝撃に体が固まる。
そして、体中を縛っていた糸がプツンと切れたような感覚とともに、靄が晴れて視界がクリアになった。
これは、まさか……スキル【殲滅】が………………解けた?
お読みいただきありがとうございます。
「もう遅い」と言うのも、キスで目を覚まさせるのもセーラ。
そういう意味での-反転-。




