第13話:-起動-
竜。
それは、男の子の憧れにして、強さとカッコよさの象徴。
竜は、この世界でも最強格の魔物として知られていた。竜そのものでなくとも竜種の魔物というだけで、依頼の難易度と報酬が跳ね上がることが多い。
例によって、数は多くないので出会うことは稀。そして、倒し者は≪竜殺し≫として崇められる。この世界における竜の扱いは、僕の想像通りだった。
この世界にも竜がいると初めて知ったときは、僕もテンションがあがった。死ぬまでに一度くらいは見てみたいと思ったものだ。断じて、倒したいとも戦ってみたいとも思っていない。遠目からチラッと、なんなら映像越しに見るので十分だった。
だって、怖いもの。僕は臆病でチキンで腰抜けなのだ。
対して、コガネの最終目標は≪竜殺し》だ。あと、セーラも。竜の話で盛り上がっているとき、口には出していなかったけどセーラの目はキラッキラしていた。竜は魔法耐性が高いらしいのでセーラには無理なのでは? と思ったけど、もちろんお口にチャックだ。
ちなみに、ヒスイは僕と一緒で「見たい気持ちはあるけど、出会いたくはない」派に属している。あの時ほどヒスイと分かり合えたことはないかもしれない。…………セーラにはすごい目で睨まれたけど。きっと竜にビビる僕に苛立ったのだろう。
そんな存在が。今。
僕たちの目の前に存在していた。
※※※※※
「…………冗談だろ」
「ほ、本物……なの…………よね?」
「…………私たち夢でも見てるの?」
3人とも、今まで聞いたことがないくらい声がかすれていた。まぁ僕は、声すら出せずに固まっているんだけど。これ、冷静なんじゃなくて、頭回ってないだけでは?
目の前にいる竜は、ものすごく竜だった。
語彙力がなくなるくらいに竜だった。竜としか言いようがない。
僕たちに気付いていないのか、気付いたうえで相手をするまでもないと思っているのかは分からない。ともかく、襲い掛かってくる様子はない。
出来れば、このままさよならしたい。今すぐ宿屋に帰って「今日はすごいもん見たね!」などと盛り上がりたい。
だが、ここは未だにダンジョンの中だ。それもトラップによって飛ばされた空間。ここから出るためには十中八九、あの竜をどうにかしないといけないだろう。
ダンジョンに挑む前に可能な限り情報を集めたけど、フリセノアのダンジョンに転移系のトラップがあるという話は聞かなかった。つまり、この竜に遭遇するのは僕たちが初めてだという事になる。………………目撃者が全滅してるってパターンもあるけど。
「俺たちで倒せる…………わけない、よな」
竜は、本当なら大規模なクラン総出で迎え撃つような魔物だ。それも事前に万全の準備をしたうえで挑むもの。高ランクの冒険者の中には、一人で倒すような化物もいるようだけど。
僕たち『青嵐』はCランクパーティだ。それも4人しかいないうえに、ちゃんとした戦闘員は2人だけ。コガネの言う通り倒せるわけがない。
「……でも、戦わなきゃどうにもならないわよ」
口では勇ましいことを言っているが、セーラは震えている。竜と魔法使いの相性は最悪なので仕方ないだろう。
そのとき、セーラが振り返って僕を見た。視線が交錯する。一瞬だけ見えたセーラの目は、なにか覚悟が決まったような、そんな目だった。
その目を見て、僕はピンときた。
今日、今まさにこの瞬間が、運命の日なのでは?
倒せそうもない敵。パーティにいる役立たず。
この2つの事実を勘案して導き出される答えは、僕の追放だ。
追放した足手まといを囮にして、セーラたちは逃げるのだ。逃げる場所があるのかは知らないけど、少なくとも時間は稼げる。僕が殺される様子を見れば、攻略の糸口を掴めるかもしれない。
たとえ僕が死んだところで、セーラたちに損害はない。素晴らしく合理的な解決策だ。僕が危惧していた『ダンジョン内追放』になることが問題だが、まぁ背に腹は代えられない。
最善ではないにしろ僕が望んだことだ。甘んじて受け入れよう。そう思って、僕も覚悟を決めた。
だが――
「下がってろ、サネ。あれはやべぇ」
「気張りなさいよ。あんたの【索敵】が頼りなんだから」
「サネくん、こっちに寄って。強度重視の結界張るから、かなり狭くなるよ」
セーラだけでなく、コガネもヒスイも僕を見捨てる気は全くなかった。
それどころか、足手まといで役立たずの僕を守る気で、さらに僕なんかを頼ってくれてもいた。
「………………そっか」
そう……だよね。この3人なら。
本当は分かっていたはずだ。半年も一緒に過ごしたのだから。
セーラが。
コガネが。
ヒスイが。
どんな人間なのかを。
僕を追放するような人間なのかどうかを。
…………分かっていながら、僕は。ずっと――
決意する。
「ヒスイ、みんなに防御結界張って。僕はいらないから」
「え?」
「あと、なるべく魔力を絞って見つからないようにして」
「おい、そんなんであの竜を誤魔化せるのか?」
無理だ。だけど。
「今だけは、僕を信じて欲しい」
3人とも戸惑いながらも従ってくれる。やはり僕にはもったいないぐらいの最高の仲間だ。
…………これでいい。これが一番生き残る可能性が高いはずだ。
竜は最強格の魔物だ。今の僕たちじゃ、パーティ全員で戦っても倒せない。
竜相手では、ヒスイの防御結界では守り切れない。
竜相手では、コガネが使っている剣では切り裂けない。
竜相手では、セーラの強力な魔法でも決定だとはなりえない。
なら、相手が竜じゃなければ?
例えば、雑魚でひ弱で軟弱な人間だったら?
人間相手なら。
セーラの魔法も、コガネの剣も、ヒスイの結界も、存分にその威力を発揮できるはず。
覚悟は決めた。僕のスキルは、この時のためにあったんだ。追放されるためなんかじゃない。
何かを感じ取ったのか、さっきまで微動だにしなかった竜が動き出す。ちゃんと説明したかったけど、そんな時間はないようだ。震えそうになる足を押さえつけながら僕は、竜に向かって踏み出した。
「竜は、僕がどうにかするから。みんなは、僕をどうにかしてね」
「ちょっと、サネくん!」
「サネ、何するつもりだ⁉」
「サネヤ。あんた、まさか……」
セーラたちなら、きっと分かってくれるはずだ。
僕は、大切な仲間を信じよう。
「…………スキル【殲滅】、起動」
※※※※※
スキル【殲滅】
一定範囲の魔力反応を追尾し自動的に攻撃し、殲滅する。
範囲内の魔力反応が消滅するまで、スキルは発動し続ける。




