第12話:飛んで火にいる役立たず
フリセノアの街に到着して4日。
ついに、ダンジョンに挑む日がやってきた。
テンションが高いセーラにせかされて、朝早くから宿屋を出発する。ヒスイとの話し合いの結果、僕たちは冒険者ギルド直営の宿屋の中で少しランクの高い部屋に泊まっていた。
「さぁ、出発よ!」
朝からセーラは絶好調だ。最高に機嫌がいい。ダンジョンに挑むのは久しぶりなので、楽しみで仕方ないのだろう。
「しっかり稼いで、風呂屋に行く回数を増やそうぜ!」
コガネもこの3日で満足のいくお風呂屋を見つけられたようで、機嫌がいい。でも、そんな簡単に風呂屋に行く回数は増やせないよ。……パーティが貧乏になったら僕が追放されるかな?
「あんまりはしゃぎすぎないでよ」
いつもより少しだけ良い部屋に泊まったからかヒスイも心なしか元気そうだ。
つまり、パーティ『青嵐』のメンバーのコンディションはすこぶる良いといえる。……心身ともに万全でも弱すぎる僕を除いて。これなら、足手まといが混じっていてもダンジョンの攻略に支障はないだろう。
※※※※※
フリセノアのダンジョンは、本当に街の近くにあった。
見た目はただの洞窟だが、ダンジョン特有のオーラを放っている。くそ雑魚な僕にでもこれだけ分かるという事は、ダンジョンの規模としてはかなり大きいという事だ。セーラが大興奮しているだけのことはある。
入り口付近には冒険者ギルドの出張窓口があり、ダンジョンに入る冒険者のチェックをしていた。規模の大きいダンジョンなだけあって、並んでいる冒険者の数も多い。
そわそわしているセーラを落ち着かせながら、列を待つこと数分。僕たちの番がやってきた。ここに来る前に、冒険者ギルドで事前に申請していたので、チェックはすぐに終わった。
「Cランクパーティ『青嵐』ですね。では、お気をつけて」
Cランクパーティがダンジョンに入るのに最低限必要な人数は4人。僕がいくら虫けらで弱くても人数にはカウントされるので、ちゃんと揃っている。
ダンジョンに入ると、いきなり道が4つに分かれていた。マッピングが大変そうだ。一応、地図も売っているのだが、かなり高額なうえにそこまで信用できないので自分でマッピングした方が安心なのだ。
ただ、入り口からこんなに道が分かれていると先が思いやられる。
「やっとね! 早く行くわよ。まずはこっちがいい!」
だがセーラはそんなこと気にならないらしく、すぐさま突撃しようとする。マッピングとか以前に、そもそもダンジョンに緊張している僕とは大違いだ。
「…………少なくとも、そっちだけはやめといたほうが良いね」
うん、セーラが指差した方向だけ明らかに魔力反応が多い。さすがセーラ。ダメな方向への嗅覚は抜群だ。
………………先が思いやられるなぁ。
※※※※※
入り口で心が折れかけたが、その後の探索は順調に進んでいた。
ダンジョン内、というか冒険しているときの僕の役割は、基本的に荷物持ちだ。セーラとコガネたちが全力で戦えるように、ほとんどの荷物を僕が持っている。スキル【収納】が大活躍だ。
そんな荷物持ちの僕だが、もう一つだけ役割がある。それは道案内だ。スキル【索敵】をフル活用して、敵の多い方向を見分けるのだ。まぁ、セーラが行きたいと思う方向の反対を進んでいけば、だいたい安全に行けてしまうのだが。
スキル【魔力感知】とスキル【索敵】を組み合わせることで、魔力の動きからほんの少しだけだが敵の動きも分かる。これを活用すれば…………戦闘中、僕が逃げる回るのに役立つ。たまーに「右側の敵から魔法攻撃がくるよ」的なアドバイスをすることはあるけど。
非戦闘員の僕はあまり出しゃばらないに限る。
ちなみに、ヒスイも非戦闘員なので大きな括りとしては僕と同じだ。
だから戦闘時、ヒスイも基本的には何もしていない………………わけではない。一発でも攻撃が当たれば死にかねない僕に防御結界を張ったり、戦闘に参加してないくせに流れ弾を食らった僕に治癒魔法をかけたりと仕事はたくさんある。……僕が一番迷惑をかけているのはヒスイかもしれない。
もちろんコガネとヒスイにも防御結界や治癒魔法は使っている。けど、僕に使っている回数が一番多い気がする。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
つまり、総合すると僕は相も変わらず無能だという事だ。
だが、まだ追放されてない以上、自分の役割はきっちり果たさなければならない。理想の『ざまぁ展開』を実現するためにも、僕なりに精いっぱいパーティに貢献しなければ。
僕がそんな情けないことを考えている間に、コガネとセーラが辺りの敵を倒しきった。相変わらず惚れ惚れするような手際だ。
「こっちが面白そう! サネヤ、どう?」
戦闘が終わったばかりだというのに、セーラはまだまだ元気いっぱいだ。「疲れただろうし、そろそろ休憩しない?」と提案しようとしていたのに。………そうだね、疲れているのは僕だね。
「ちょっと待って」
スキル【索敵】は基本的に発動しっぱなしだけど、一方向に集中すれば精度が上がる。
「…………うん、大丈夫そうだね」
珍しいことに、セーラが指差した方向には、敵の魔力反応がない。
「じゃあ、行くわよ。きっとこっちには何かあるわ!」
自分が行きたい方向に行けて、セーラはご満悦。まぁ、セーラの行きたい方向に行くのは本当に珍しいからね。
一応、警戒しながら進んでいくが、やはり魔物は出てこない。そのまま、進んでいくと大きめの広場のようなところに着いた。どうやら行き止まりのようだ。
こうゆうところは、敵が多くいたりするものだが【索敵】に反応はない。宝箱などがおかれている様子もない。他のパーティが探索したあと、あまり時間が経っていなかったのかな?
「なーんもねぇじゃねぇか。やっぱセーラの勘はダメだな」
「まぁ、敵がいないだけ普段よりはマシなんじゃない?」
「2人とも、あたしを何だと思ってるのよ。でも、本当に外れっぽいわね」
見た感じは何もない。ちょうどいいから、ここで休憩するのも良いかもしれない。
だが、念のため、スキル【索敵】とスキル【魔力感知】に全力で集中する。宝箱などが隠されている場合、これで見つかることもあるのだ。
「!」
すると、足下にかすかだが魔力反応があった。範囲は床全体だ。なんだこれ?
「警戒して、地面に何かあるかも」
「この部屋に隠れるところなんて――って、えっ? なに?」
突然、セーラの足元に魔法陣が浮かび上がった。
「気をつけろ、トラップだ!」
コガネがすぐさま警告してくれたが、逃げる間はなかった。
魔法陣はすごい勢いで床全体に拡大し、僕らの視界は真っ白に染まった。
※※※※※
一瞬の浮遊感のあと、体が地面に投げ出された。この感覚は一度だけ経験したことがあるので分かる。どうやら、あの魔法陣は転移系のトラップだったようだ。
さっきまでいた広場は明るかったのに、今は周囲は真っ暗闇。
「みんな大丈夫か?」
「もちろん」
「私も」
「僕も、なんとか」
コガネの呼びかけに、全員返事をする。良かった、別々の場所に飛ばされたわけではなさそうだ。
「どこに飛ばされたのよ。宝部屋とかだと良いんだけど」
転移の衝撃で集中が乱れたせいで途絶えたスキル【索敵】と【魔力感知】を改めて発動する。……セーラの希望的な観測が当たってるといいなぁ。
「………………なっ!」
あまりの衝撃に声が漏れた。
「どうしたの?」
セーラの質問に答える前に、部屋が一気に明るくなる。
どうやら壁際にあった松明が一斉に灯ったらしい。この演出を、僕は知っている気がする。僕の想像通りなら最悪のパターンだ。
この魔力反応。この演出。これは――
「「「!!!」」」
それを目にした3人が驚愕の表情で固まる。だが、僕だけは妙に冷静だった。異世界転生して半年も過ごしておいてなんだが、現実感がなさ過ぎたのかもしれない。
松明で照らされた広場の中央に威風堂々と存在していたのは、1匹の巨大な竜だった。
これは――まさに、ボス戦の演出そのものだ。




