第11話:ダンジョンVS風呂屋
その後、冒険に必要なものを買ったり、依頼をこなしたりして過ごすこと1週間。僕は追放されることなく、イチガレスの街を出発してしまった。
イガチレスの街でも順調に追放への歩みを進めたと思ったんだが、あと一歩のところで追放には至らなかった。イチガレスの街でのハイライトは、ヒスイに買い出しの同行を断られたことだ。……僕が受けたダメージも大きかったけど。
次の街の近くにはダンジョンがあるらしい。
この世界にも、やはりというかダンジョンが存在していた。魔物がどこからともなく湧いてくるし、ボス部屋や宝箱、罠もある、ザ・ダンジョンって感じのやつだ。仕組みがどうなっているのかは、まだ解明されていないらしい。
ダンジョンの探索には危険が伴うため、探索にはBランク以下の冒険者は4人以上のパーティでないと入れないという決まりがある。このルールの存在が、セーラたちが僕を追放しない理由に繋がっているのかもしれない。
セーラは普通の街でもすぐに迷子になるくせに、ダンジョンが大好きだ。
今回もイガチレスの近くの街にダンジョンがあると聞きつけたのもセーラ。本当はもう少しイガチレスに滞在する予定だったのを、切り上げることを決定したのもセーラだ。
ちなみに、『青嵐』のリーダーは一応コガネだ。だが、完全に形式上だけのリーダーなので、セーラの意見は大体通る。というよりも、コガネは自分が良いお風呂屋のうわさを聞いたときに、その街に向かえるように普段から僕たち(主にセーラ)の我が儘を聞いている節がある。
「今回のダンジョンは割と大きいらしいのよ。楽しみね!」
ダンジョンに向かえるとあって、セーラはウキウキだ。それは良いのだが、ダンジョンの探索には気を遣う。大きいとなればなおさらだ。
「探索が大変そうだなぁ」
「なによ、入る前から弱気になって。足引っ張んないでよね」
思わず弱音が漏れる僕に、セーラが即座に嚙みつくがその勢いはいつもより弱い。よほどダンジョンが楽しみなようだ。
「よく言うぜ、サネがいないとすぐ敵だらけのところに突っ込むくせに」
「だよね。セーラのあれはもはや才能だよ。方向音痴とかのレベルを超えてるって」
コガネとヒスイの指摘は正しい。僕はスキル【索敵】を使って敵の少ない方に行こうとするが、セーラが「あっちの方が面白そう!」という方向は大抵すごい数の敵が潜んでいる。
まぁセーラならそっちに突っ込んでも敵を倒せるのかもしれないけど。道案内をしているひ弱で貧弱で雑魚な僕は、いつもひやひやさせられている。
僕の目標は追放されて『ざまぁ展開』をすることだが、囮としてダンジョンに置き去りにされる追放だけは辞めていただきたい。
僕もダンジョンは嫌いじゃないし、スキル【殲滅】を起動すればたぶん生き残れるとは思うけど。あんな暗くて敵が多いところに置き去りにされるだけで、心が折れる自信がある。
ダンジョン内にいる間はセーラの機嫌が良くて助かった。ダンジョンを出た後に、「サネヤがいるとせっかくのダンジョンが台無しよ」みたいな感じで追放をお願いします。
そんな情けないことを考えながら、僕はセーラたちと次の街へと向かうのだった。………………出来ればこんな道中でもなくて、宿屋の酒場とかで追放して欲しいなぁ。
※※※※※
イガチレスを出発してから1週間。僕たちは、次の街に到着した。
「思ったより遠かったな」
コガネの言うとおりだ。セーラは「すぐ近くにあるのよ、すぐ近く! 今すぐ行くわよ!」と言っていたのに。1週間もかかるなら、もう少しちゃんと準備したかった。
少しだけ恨みを込めた目を向けるが、当のセーラは目をキラキラさせて街を見ていた。もう完全に気持ちがダンジョンに移っている。
「…………はぁ」
「なにため息ついてるのよ、サネヤ。早く行くわよ!」
少しは反省して欲しいなぁ。
その後、機嫌の良さがマックスになっているセーラを落ち着かせながら、門でのチェックを通過。無事に街に入ることが出来た。
街の名前は、フリセノア。
近くにダンジョンがあるだけあって、かなり栄えている。今までもダンジョンがある街は大きかったが、その中でも上位に入る大きさだ。当然、イガチレスよりも大きい。
セーラの行きたがる街はダンジョンがある街なので比較的栄えている街が多い。それに対して、コガネの行きたがるのは風流なお風呂屋がある街なので、どこか寂れた町というよりも村みたいなところが多い。
だが、僕たちも普段から行きたい街を目指してブラブラする余裕がある生活をしているわけではない。基本的には、割のいい依頼を消化し終わったら、近くの街に移動する。
だから、セーラたちは街に着いたら『近くの街に何があるのか』についてかなり念入りな情報収集をしている。『青嵐』のモットーは「楽しく冒険」なので、なるべく行きたい街にいけるように努力できるところで努力するのだ。
モットーも緩いし、掟やルールも楽しく過ごすための物だけ。さらに4人中3人が幼馴染ということも相まって『青嵐』はかなりの仲良しパーティだ。………………これもしかして追放してもらえないのでは?
まぁ、僕だけは幼馴染じゃないから可能性は無限大のはず。それに、僕の目の前では、現在進行形でセーラとコガネが大喧嘩の真っ最中。ギスギスしている部分だってあるのだ。
「1日よ! これでも最大限譲歩してるわ!」
「いーや、この規模の街だ。5日は必要だ!」
「はぁ? 5日も待てるわけないじゃない。ダンジョンはすぐそこにあるのよ⁉」
「ダンジョンは逃げねぇだろうが! ダンジョンから帰ってきた後の風呂の方が大事に決まってんだろ!」
街に着くなり、セーラとコガネは言い争っていた。
議題は『いつダンジョンに行くか』だ。喧嘩の理由こそかなり緩いが、わりとヒートマップしている。
これは、ダンジョンのある街に着いたときの恒例行事だ。
片や、一刻も早くダンジョンに行きたいセーラ。
片や、帰ってきた後に最高のお風呂屋に行きたいコガネ。
どっちの肩を持っても面倒くさいことになることは分かっているので、僕とヒスイは介入することなく静観している。というか、2人を無視してどこの宿屋に泊まるかを考えていた。これも恒例行事。
「こっちの大通りに面してる宿がいいんじゃない? お洒落で良さげだよ」
「いやでも、値段的にはやっぱり冒険者ギルド直営のところが良いんだよね」
セーラたちと違って、僕たちは終始穏やかだった。そして、僕とヒスイが話し合いで良い感じの妥協案に落ち着いたころ、セーラとコガネの方も決着した……じゃんけんで。
厳正なるじゃんけんの結果、僕たちは3日後にダンジョンに挑むことになった。じゃんけんで「あいこ」になったかららしい。
ダンジョンがある街は比較的栄えていることが多いのでお風呂屋は多い。コガネが好きな風流なお風呂屋は少ないけど、コガネはお風呂屋だったらわりとなんでも好きなので選別には時間がかかる。
明日からコガネはお風呂の選別にかかりきりになるだろう。ダンジョンに探索に行くための準備は、僕が頑張ろう。こういった誰にでもできる簡単な雑用は、役立たずの僕の仕事なのだ。
あと、ダンジョンがすぐ近くにあるのにおあずけを食らったセーラの機嫌をとるのも、いつの間にか僕の仕事になっている。………………がんばろう。




