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『碧の章』第8話:一度の勇気

「リオ、ありがとう!」


 2回目の「鋼砕く狂鬼の纏」を受けたクーネアが飛び出す。

 《巨壁》と魔法が効かない、というハンデを背負ったまま。クーネアの狙いは、強化された力にものを言わせた一撃による撃破である。


 しかし《巨壁》は、動き自体は緩慢であるが、ゴーレム故に、驚異の可動域を持ち、予想だにしない一手を打つことがある。確実に入ると思った背後からの攻撃に対して腰をグルリと回し、そのまま腕で薙ぎ払いを行うカウンター。どうにか腕で防ぐことができたが、腕に残る痺れに2度目はないと悟った。

 それ以来、クーネアの攻撃は、《巨壁》の攻撃を避けた上で反撃を喰らわない、安全を考慮してのものとなる。


 クーネアが奮闘する中、利緒は攻撃に参加できないでいた。

 初めは《巨壁》を中心にクーネアの対角線を位置取ることで、相手を困惑させようとしたが「鋼砕く狂鬼の纏」を全てクーネアに渡したことで、《巨壁》に対する有効打がなく、上手く動けずにいた。

 一度のミスが人生の終わり。特に、クーネアが弾き飛ばされたのを見た後は余計に手が出せず、引いてしまっていた。


 前に立つことができればと思うのだが、本能的な恐怖を消すことができない。覚悟を決めても、いざ相手の間合いに入るとなると足がすくむ。そんな自分が情けない。

 クーネアも、「鋼砕く狂鬼の纏」以外に利緒に対して特に要求がない。それが、余計に辛かった。


(例えば、僕が正面に立って、囮になって、僕に攻撃をさせる。そんな瞬間なら、クーネアも反撃を気にしないで攻撃ができるのに。)


 そう単純に上手くいくかは分からないが、少なくとも攻め手に欠ける今よりはよっぽど良いだろう。

焦り、苛立ち、情けなさ。


 負の感情が、利緒を苦しめる。



 クーネアは、利緒が自身に下す評価とは全く逆に、利緒を大きく評価していた。


 そもそも、利緒について、遺跡の案内を行うことのできる精巧な生体遺物だと思っている。過去に似たような遺物はいくらか発見されており、学園「イメラルディオ」でも数体働いている。

 しかし、古代の魔法が使える、強力な戦闘補助魔法が使える、と魔法に特化した人型の遺物は珍しい。最初石室から助け出した時には思いもしなかったほど、想像以上の有用さだと感心すらしていた。


 クーネアの専門は魔法使いであるが、利緒の「影貫く蛇の弓弩」が通らなかった以上、出来ることは少ない。利緒の状態について、解析が通らないためはっきりとは分からないが、発動される魔法は学園でもトップクラスと見えた。


 そもそも「鋼砕く狂鬼の纏」だけで、近接戦に向いていないクーネアが立ち回れているのは奇跡だった。

魔法の威力を増やすには指数関数的に魔力消費が増えると言われている。回数に難があるようであるが、威力優先の魔陣設計がされているに違いないと、クーネアは睨んでいる。


 手が限られている以上、慎重に立ち回る。《巨壁》の攻撃を避けながら、クーネアは隙を伺う。



 クーネアが何度目かの《巨壁》の振り回しを避ける。反撃するか距離を取るかの選択肢を選ぶ一瞬に、《巨壁》の背後から岩が投げられた。岩自体は、鎧に弾かれてダメージにはなっていないようだったが、《巨壁》の注意がそちらに向いた。

 ガガガ、と音を立てながら振り回しの勢いのまま《巨壁》は上半身を回す。《巨壁》の前に利緒が飛び出していた。


 もしも、この時クーネアと利緒の目が合わなければ、クーネアは体制を立て直すために一度下がっていた。恐怖からか、利緒の顔は青く、今にも倒れそうだった。


(この隙にやれ!)


 しかし、その目はしっかりとクーネアを見ていた。利緒の覚悟の声が、クーネアには、聞こえた。


 利緒がそのまま《巨壁》の前から逃げなかったことで、《巨壁》は利緒へと攻撃対象を定めた。ガガン、と回る体を停止させた音が鳴る。

 回転を停止させたたことで、その反動がそのまま両腕を振り下ろす力となる。


 この瞬間に、右腕を腰に宛て、拳に力を込めてクーネアは《巨壁》の背中へと飛びかかった。


「たああああああ!」


 《巨壁》の腕が地面を砕くとほぼ同時に、クーネアの一撃が《巨壁》を背後から揺らす。背面からの強打に《巨壁》は大きく体勢を崩し、地面に倒れた。


(起き上がる前に倒す!)


 殴り倒した、その勢いのまま、クーネアの乱打が《巨壁》へと降り注いだ。

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2017/09/04 レイアウトの調整

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