『黄の章』第4話:なんとか片言です
「リオー!遊びに来たぞー」
茶色がかった黄色の短髪の少年、クラカットの声が外から聞こえて来た。
子供達の朝は早い。
日の出の後に起き出して、日の入りに寝る生活となっていた利緒だが、朝食の途中にはこうして声がかかる。
「はい、少し待てよいか?」
3ヶ月もやり取りをしていれば、片言ながら喋れるようになっていた。
細かい文法まではわかっていないが、単語単語での意思疎通が出来る。
食事も、慣れたものだ。
普段食べていたものよりも全体的に味が雑で薄味。
調味料は塩と使い所のわからない香草、それに醤油のようななにか。
それらを日2食用意してもらえるのは、利緒にとって非常にありがたいことだった。
幸いにも異世界の食事が合わないこともなく、利緒の生活はいたって健全であった。
「『カァド』見せてくれ!」
利緒の返事もどこ吹く風、ドタドタと屋内に入ってくる。
食事をする利緒の傍ら、家捜しを始めるクラカット。
「クラ、リオはご飯中」
ぽかり、と黒髪の少年、タカオラがクラカットの頭を叩いた。
「ってー……何すんだタカオラ。あ、おいミチサガ、クロン笑うなよ!」
「だってあんたいつも同じじゃない。成長しないんだもん」
中心で色々とバカをやるクラカット。
その暴走を止め、まとめ役をするタカオラ。
後ろから、要所要所で支えるミチサガ
時にクラカット以上に前に進んでいく紅一点、クロン。
そして、さらにその後ろについてくる女の子、ヒナギ
はじめの4人が同じくらいの年で、ヒナギはそれより少し幼い。
背伸びをしてお兄ちゃんお姉ちゃんに着いてきているようで、4人と1人といった感じだった。
「……ご馳走さま」
手を合わせて、利緒は食事を終える。
「よし、食べ終わったな、『カァド』だな!」
懲りることなく、クラカットは前のめりだ。
「僕が片しておくよ」
「私、戻す……あぁ、ありがとう」
後片付けを買って出たミチサガに、感謝して利緒は『カァド』を取り出した。
◇
一度は取り上げられたカードだったが、2ヶ月ほどのトワスミナとのやり取りを経て、利緒の元へ戻ってきた。
利緒が拙いとはいえ、言葉を話せるようになって、色々と説明をできたことも大きい。
カード1枚1枚についての説明、利緒がわかる限りのカードの情報を話し、ようやっとカードは利緒のものと認められた。
久しぶりのカードの感触にニヤニヤしているところ、子供達がやってきた事が、事の始まり。
この世界にある《盟符》という代物に似ていたことが、ことさらに子供達の興味を引いた。
「これ、じーちゃんだ!」
クラカットがカードの一枚を取り出して、利緒にいう。
それを皮切りに、他の3人も、利緒のカードに注目する。
利緒は苦笑しながら、カードを渡した。
「壊さない、よろしく」
カードそのものは紙製であり、スリーブも数ヶ月の間にだいぶくたびれていた。
カードは利緒の世界を思い出す数少ないものではあったが、彼らの協力のおかげで、この世界に馴染みつつある。
なにより、利緒と年はいくらか離れているが、彼らは友達だ。
自分の数少ない宝物とはいえ、渡すことに異論はなかった。
他の3人も気になっていたらしい。
机の上にカードを並べて、色々と話し出す。
興奮しているのか、言葉が早く利緒には聞き取れなかったが、年相応の無邪気さを見た気がして、利緒は笑いながら見ていた。
「これ、なんなの?」
「それ、カードゲーム、カード、使う、二人、遊ぶだよ」
「『カァド』?」
「強さ、書いてある。比べる、戦う」
どうしても語彙の都合で、片言な上に曖昧な表現になってしまう。
苦心して知っている単語を使う。
向こうもそれをわかっているので、色々と聞き方を変えて利緒の説明を補足していく。
「なぁなぁ、リオ、これどういう『カァド』なんだ?」
そんな中、クラカットは自身の爺さんという、カードを指して聞いた。
「どのようなもの……えー、家族、犠牲になる、代わりに……かな?」
「家族の代わりに犠牲?なんだそれ?」
【《古老》トルトリンド】
黄のユニットが破棄される場合、自身を代わりに破棄できるカード。
黄のスターターは多くが太陽毛というカテゴリで構成されているが、トルトリンドはそれ以外の名称を持つ数少ないカードだった。
「爺ちゃんな、昔すごい戦士だったらしいんだ。その時の《盟符》はないのか?」
「トワスミナ、聞かれたけど、全部、これ」
「うー……」
クラカットは、何かもやもやしたものを抱えているらしい。
「クラは、おじいちゃんが好きだから」
「そうなの。まだまだ子供よね」
タカオラ、クロンがクラカットの状態をそれとなく教える。
尊敬するお爺さんが、強くないというのが納得いかないようだ。
「クラカット。これ見る」
利緒は、黄のカードを何枚か取り出して、机の上に並べた。
そしてクラカットの持つ、トルトリンドのカードを渡すように言う。
クラカットはブスッとしながら、利緒にカードを渡して、続きを促す。
「これ。トワスミナとクロブロンド戦う、クロブロンド勝つ。でもトルトリンドいる、トワスミナ負けない」
「でも爺ちゃんいなくなっちゃうじゃんか」
「……むう」
そういうゲームと言ってしまえばそれまでだが、クラカットの目を前に利緒はそういうことができなかった。
とはいえ、解決案が浮かぶでもない。
「……おじいちゃん、トワスミナ、助かる。ダメ?」
「……ダメじゃないけどさ、爺ちゃんもっとすげぇんだぜ?」
「そうか。……クラカット、お爺ちゃん教える」
根本的な解決にはならなかったが、この言葉で、少しだけクラカットが明るくなった。
この日はクラカットお爺さん、トルトリンドの話を聞くことになった。
里の中では有名な人で、クラカットだけでなく、タカオラ達も色々なエピソードを語った。
「トルトリンド、クラカットのお爺ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃんか?すごいな」
「真祖様の次に年齢高いんだぜ」
「クラは直系ってだけで、そこまで遡ると皆親戚みたいなものだけどね」
時々難しい言葉が出てくるが、それもまた利緒にとって勉強だった。
それ以来、少しずつ『カァド』を見せるよう迫られたり、内容を語ったりしている。
利緒はいつの日か対戦できるとよいと思いながら、言葉を学ぶのであった。
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