『碧の章』第58話:暗闇の日、碧の終わり。
もしこの結末を知っていたら、利緒達の選択は変わったのだろうか。
あるいは、知っていたとしても結果は変わらなかったのかもしれないけれど。
1つ、事実として言えることは、ニーアムナイクロティープの元へ向かった7人は、彼女と会った後に消息をたったと言うこと。
もっといえば、ニーア自身も行方不明者の1人だった。
この日、世界を暗闇が覆った。
それは蒼の荒野から、マギニア、果ては黄葉の里を超えて、文字通り世界である。
異様な光景に何事かと騒ぐもの。
世界の終わりだと嘆くもの。
魔法による一過的なものだと気にも留めないもの。
それぞれ、一定数いたが、本当の脅威を感じ取ったものは少ない。
「……アルドグラシアリアス、久しぶりだね」
「……ああ、生きていらしたのですか」
アルドは、己の執務室に訪れた男を見て、感嘆する。
白髪と右目を抉る深い傷の男。遠く昔の記憶と寸分変わらない姿。
左右には、青い髪の仮面の少女と、黒い肌に覆われた長身の男がいた。
「ハイネインプシュケも元気そうで何より。ニーアムナイクロティープはご一緒ではないので?」
「ニーアには役目がある。兄上殿の用事だ」
「なるほど。それで私は、何をすればよろしいか、我が主人ロガン」
「ひとまず、扉の向こうの彼女を呼ぼう。他にこの町の偉い人を呼んで欲しいんだけど、誰かな?」
ロガンが口にするがはやいか、仮面の少女は入り口を超えて、聞き耳を立てていたネメルの首を抑える。
乱暴しないように、というロガンの言葉を受けて力こそ抜いたものの、ネメルはその圧力に身動きが取れなかった。
「……2人ほど。1人は大魔道グウェイ・キ・ディスティマン。もう1人はクルエルポーフィンが都市の管理運営をしておりますので、この場へお呼びします」
「クルエはいいや。グウェイだけ頼む」
アルドは、ロガンに一礼し、雷に魔法を起動する。
現れた精霊は、即座に光の筋となってグウェイの元へと飛ぶ。暗い空に一筋の雷光が走った。
到着を待つ間、部屋は静かになる。
元々アルドはあまり喋る質ではなかったし、仮面の少女は無言を貫いていた。
ハイネインプシュケもどうようであり、ロガンは何か思案しているようだった。
ネメルは恐怖に口がきけず、結局誰1人喋ることがない。
しばらくして、扉が勢いよく開かれた。
そこにはグウェイの姿があった。
「……ちっ、おいアルド、詳しい説明頼むわ」
目は血走っていたが、中の諸々を見て状況のまずさを理解すると、グウェイは舌打ちした。
表面だけは落ち着いて、状況確認をアルドに求める。
「主人殿、良いですか?」
「ああ、それじゃあ始めようか。ただもう少しだけ待ってくれ」
ロガンは目を瞑り、何かを感じ取るように手を伸ばす。
パチン、と指がはじけて、空を覆っていた暗闇が消え去った。
「……これは、お前がやったって言いたいのか?」
「いいや、兄上殿が頑張ってくれているんだ。さて、空も晴れたことだし話を始めよう」
果たして、世界は大きく動き始めた。
クーネアとともに、利緒の姿を消して。
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