『碧の章』第50話:最後の試練
利緒達が覇王の元にたどり着いたのは、クーネアが消えてから半日ほど経ってのことだった。
初め、ジルモーティンの予想した6層を数度往復した。
しかし、そこには敵が沸くばかりで見つけることが出来なかった。
「路示す雷の指針」を使用したが、妖精も頭をひねるばかり。
己の力の及ばない現実に利緒は焦る。
再度の踏破を提案し、今にも飛び出そうとしていた。
「まあ、落ち着けカンナリオ」
ジルモーティンが逸る利緒を止める。
埒が明かないとみて、更に階層を進めることを提案する。
「でも、6層にいるんじゃ!?」
「すまん、どうやら間違っていたみたいだ」
「……っ!じゃあ何処にいるんだよ……」
元々ただの予想、その上で謝られてしまっては利緒も感情をぶつけるわけにはいかなかった。
今にも飛び出しそうな気持ちを飲み込んで、呟いた。
「こうなりゃあれだ。連れ去った本人に直接聞くしかないな」
覇王と直接対峙するのは危険だと、クーネアを見つけ次第退却する想定でいたが、今更そうも言っていられない。
「万が一があれば、俺も本気を出してやるよ」
そんな必要はないと思うけど、ジルモーティンはそう言って7層への階段を降りていった。
そして、最短を突っ切った2人は7層を3時間ほどで切り抜けて、覇王の間へと進んだのだった。
「ようこそ、覇王の間へ」
覇王の第一声は、利緒達への歓迎の言葉だった。
王の玉座、そこに座っていたのは全身鎧。兜の意匠は道中で拾ったコインのままだった。
声は異質、高いようで低いようなくぐもった声。
覇王に対する苛立ちもあって、利緒の耳には挑発しているようにしか聞こえなかった。
「クーはどこにいる」
利緒は全ての問答を押し遣るつもりで、本題を切り出す。
それだけ分かればいい、それ以外に答えはいらない、そんな覚悟の目をしていた。
覇王は肘をついて、頬に手を添えている。
しばらく無言が続いたが、そのうちに覇王が横へと指を向けた。
「あの扉、その先に彼女はいる」
その言葉を聞くや、利緒は即座に動き出す。勢いよく扉を開けて、中へと飛び込んでいった。
その場に残される覇王とジルモーティン。
「オージッカヌラ、俺が言うのもあれだが良かったのか?」
「彼女の選定はほぼ終わったからね。アレには最後の試練となってもらうよ」
覇王は兜でその表情を伺うことは出来ないが、楽しそうに笑っている。
「覇王の試練は『自分を超えんとする意思を持つ人』のための試練なんだ。彼が何であれ、そこを譲っては『覇王』ではない」
覇王を前に、ジルモーティンは黙ってその場に立っていた。
◇
扉の先へと進んだ利緒は、途中で黒服を着た男に呼び止められた。
見ぬ顔だが、何をしているのか、という確認だった。
勢いで飛び込んで来てしまった利緒は、ここが何処か分かっていない。
そのために、話の通じそうな男へと質問を投げかける。
「クーネアを探しに来たんですが、なにか知りませんか?」
「クーネア?クーネア・ル・ルナフィアのことか?」
「知ってるんですね!お願いします、案内してください!」
幸先の良い展開に、利緒は声を荒げる。
そんな利緒に対して、黒服は冷静に対応を続ける。
「彼女は今、闘技場にいるが、なるべく直ぐが良いかな?」
「すぐにでも!」
勢いのいい回答に、何か思うところがあったのか、黒服はその場で待つように指示をして何処かへと向かう。
そわそわしながら待つこと数分で、男が帰って来た。
「少年、良かったな。丁度空いていた」
ニカッと歯を出して笑う黒服に、利緒も笑顔を返す。
(空いている?)
男の言葉になにか違和感を感じながら、利緒は男について行った。
誘導されるがままに、進んでいく。
石壁の通路を進み曲がること数度。
利緒は扉の前に立っていた。
「この先にいるぜ」
男はそう言って、利緒の背中をトンと叩いて、1段目へと押し出した。
「頑張れよ挑戦者!」
後ろかかる応援の声の意味もわからないまま、利緒は石段を登っていく。
登った先に待っている現実を欠片も予想するとことなく、利緒はクーネアとの出会いに歩みを早めた。
◇
現実はかくもままならないものである。
クーネアと対峙したところまでは良かった。しかし、自分の置かれた場所をようやっと悟る。
周囲には大量の観客がおり、どう見ても見世物だった。
正面に立つクーネアも目が座っており、正常でない。
極めつけは道化の存在だ。
利緒は歩を進めるたびに何かしらしゃべっている。
初めはどこで知ったのか、マギニアで話題の生体遺物としての紹介から。
どこで曲がって伝わったのか、学園生であるとも言われる。
そこまでなら良かったのだが。
「学園からの新たな刺客、クーネア嬢と是非に戦いたいといウ!新たな選手でス!」
「は?」
「見た目は貧弱だけド、見た目で強さは分からなイ!そんな怖さが魔導士にはあル!」
「おいちょっと待て」
道化の台詞に突っ込みを入れるが、聞き入れられることはなかった。
その他、クーネアに手を振ったり声を掛けたりしたものの、クーネアも全く反応がない。
その後も適当に煽るようなことを喋り続ける道化という現状も含めて、利緒は頭を抱える。
「それじゃア、そろそろ初めて良いかナ?」
「ちぃ、ちょっと待って。どうして僕とクーネアだよ!?」
利緒は道化に意見するが、最早止まらない。
「エ?いちいちうるさいヨ!いいから始めったら始メ!決闘開始ィ!!」
この言葉と同時に、クーネアから異様な魔力の圧を感じた。
知覚できた数十の矢に、冷や汗が流れる。
「覚悟がないなら、戦場に立つな!」
半日ぶりのクーネアの声に感動する暇もなく、利緒は防御を余儀なくされた。
【影貫く蛇の弓弩】
自分に届く数多の矢の進行を防ぐように、瞬時に生み出された巨大な矢。
数多くの矢を巻き込んで、どこに届くことなく崩れて消えた。
「最近の学園生って強いみたいだネ?最初の一撃は引き分けダ!」
己の魔法が防がれたのを見て、クーネアは笑う。
その顔を、利緒はとても冷たく感じた。
こうして、利緒とクーネアの戦い、最後の覇王の試練が始まった。
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