『碧の章』第42話:いざ覇王の試練の祭壇へ
「それではお二人ともお気をつけて」
アルドから試練への同伴許可をもらった翌日の朝、竜車の前でアリアが見送りの言葉を告げる。
「アリアさん、あの、ごめんなさい」
「謝罪は昨日受けております。そもそも、こういう可能性もあるとアルド様にお願いをしていたのですから、ルナフィアさんもお気になさらず」
クーネアは自分の欲を優先したこともあって、素直にうなずけなかったが、アリアは普段と変わらない調子だ。
「それに試練へ挑戦する以上、これに失敗してしまうと後がないのですから。私のことよりも、これからのことを心配された方が良いですよ」
荷物を竜車に積み込むために、利緒は荷台に乗り込んでいて、この場にはクーネアとアリアしかいない。
アリアの指摘は最もだ。試練には移動だけで往復2日、総行程1週間が予定されている。
計画的な訓練ならいざ知らず、本気で取り組む以上終わった後には休息が必要になる。
つまりここで芽が出なければそれまで。クーネアから利緒といる権利は失われる。
場合によっては、それが一生となる可能性もあった。
「……私はこれからがありますので」
微笑みを浮かべながら言うアリアの言葉に、クーネアの胸がチクリと痛む。
アリアも、特別な意図があった訳ではなかった。ただし、無意識であることが分かるが故にクーネアにとって辛かった。
クーネアと違い、アリアの実力があれば、利緒との旅に同行するメンバーに確実に選ばれるだろう。
「クー、そろそろいい?」
荷台からヒョコと顔を出す利緒。
利緒とアリアの目があって、一層アリアの顔が緩む。
クーネアは、自分の後ろに視線が向かってから、アリアの表情が一層輝くように見えた。
「……私は、絶対に突破しますから」
クーネアは自分を振るい立てるように宣言した。
その言葉を聞いて、アリアは目を細くして笑う。
「ええ、頑張ってください」
利緒に特別な感情を持っていても、アリアは寮監である。頑張る学生を応援するのは当たり前だった。
その顔を見たクーネアは、毒気が抜けたように肩を下ろした。
「いってらっしゃい」
「「いってきます!」」
ガタガタと動き出した荷台から、2人が手を振った。
曲がり角で見えなくなるまで、アリアは手を振っていた。
「リオ、頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
利緒とクーネアは、コンと拳を付き合わせた。
◇
『王の試練』は、ミラリオの各地に建てられた祭壇で行われる。
マギニアの近くにある試練は、『覇王』と『閻王』である。
距離だけを言えば『閻王』の方が近かったが、試練の性質上時間が足りない恐れがあった。場合によっては、数ヶ月も拘束されかねない。
その点で『覇王』は都合が良かった。
求められる力は純粋な強さ。ダメならダメで直ぐに諦めがつく。
最も諦めてしまえば、そこで目的が叶わなくなってしまうため、回避しなければならない選択ではあるのだが。
他の試練が、自分を討つという厄介な物だったり、何者も恐れない勇気といった曖昧な判定基準を持つのに対して、覇王の試練は内容がはっきりしている。
全8階層の地下迷宮。次第に強くなる魔物を討伐しては、次の階層へと進んでいき王の元へ辿りつく事。
一度に降り切る必要があるが、いつでも戻る事ができて何度でも挑戦出来る。
グウェイ曰く、覇王は何者にも勝る武力故に、何であろうとも挑戦を拒まないらしい。
ただし強さこそ一定の水準であるが、魔物は日によって変わるためその対応方法は千差万別。
実際にどのような戦い方をすれば良いかは、実際に入ってみないとわからないため、事前の準備でできることも限られていた。
夜、竜車が停止して野営を行う。街道の近辺は魔物が出ず、少人数での旅を可能としていた。
クーネアに荷台を譲り、利緒は焚き火の側で、パチパチと弾ける木の音を子守唄に、逸る気持ちを抑えて眠りに着いた。
◇
翌日、目を覚ました2人は特に何事もなく『覇王の祭壇』に辿り着いた。
「お前達が挑戦者だな!」
竜車を降りたばかりの2人に爆音が降り注いだ。その声は、とても大きかった。
何事かと辺りを見渡す2人の元へ声の主人が、ドシドシと歩いてきた。
「……凄いな」
その男は長身でガタイが良く、近くまでやってきた男を利緒とクーネアは下から見上げていた。
はち切れんばかりの腕は太く、右腕には紋様が浮かび上がっている。
袖のないシャツに、短く刈り上げた髪。そこかしこに見られる傷は彼が戦士であることを物語っていた。
「俺の名はジルモーティン。ジルモーティン・レピザ・ジルモーティン。よろしくな!」
利緒よりもふた回り以上太い腕が、握手を求めて差し出される。
なんとも言えない存在感に、利緒は圧倒されていた。
「ジルモーティン……?どこかで聞いたような」
「魔法は筋肉のためにある、そう言って憚らない……変人です」
当人を前に、失礼な2人。
「変人結構!魔法とは可能性、ならば筋肉もまた可能性なのだ!」
だが、ジルモーティンという男は気にした様子を見せず、利緒達には理解できない事を言ってガハハと笑う。
【《絶対の腕》ジルモーティン】
利緒の眼に映るそれは、一体何を示すのか。
確かに腕は凄そうだ、と利緒は心の中で呟いた。
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2017/09/20 地下迷宮に登っていたので降るよう修正




