『碧の章』第43話:変人狂人ジルモーティン
「さて、お前がカンナリオとしてそちらの女子は何者か。アリアはどうした?」
ジルモーティンは、クーネアを指差して疑問を投げかけた。
なぜ利緒のことを知っていたか。それはジルモーティン曰くグウェイから連絡があったからだという。
利緒とアリアの2人が向かうと連絡があり、男は利緒と看過したが、その隣にアリアはおらず見知らぬ女が1人。
ジルモーティンは腕を組み、右手を顎につけて頭を捻る。
「私はクーネア・ル・ルナフィアです。試練への挑戦権をアリアさんから譲っていただきました」
「ふむ、クーネアだな。改めてよろしく」
クーネアの自己紹介に、ジルモーティンはニヤリと笑ってその腕を差し出した。
クーネアはそっと腕を取り、握手する。
その手の大きさの差に、見ている利緒は驚くばかり。実はつい直前の利緒とジルモーティンのやり取りを見て、クーネアも同じことを思っていた。
一通り挨拶が済んだ所で、ジルモーティンから覇王の試練についての説明が始まった。
「ここは腕っ節を鍛えるにはいい場所だ。無限に敵が湧く。それに契約しなければ何度でも挑戦出来るんだ」
ジルモーティンは嬉々として語る。
おおよそは事前に聞いた通りであったが、利緒はジルモーティンの語り口がどうにも気になった。
「何度でもって、失敗してもいいってことですよね?」
「失敗?挑戦出来るのは契約しないかぎりだぞ。俺は何度も最下層まで行ってるが契約はしてないから、何度でも挑戦出来るんだ!」
利緒、クーネアの感覚では契約が最終目標だと思っていた。
しかし、変人は契約がゴールという点は一致しているようだが、最終目標は別のところにあるようだった。
「意外とこの覇王の試練って楽なのかな」
「リオ、この人がおかしいだけで試練は年に数名しか合格者出ないよ」
「全く嘆かわしいことだ。ここ最近で6組ほどやって来たが、どいつもこいつも1週間程度で諦めて帰ってしまうのだ」
利緒とクーネアの小声での会話に自然と入り込んだジルモーティンは理解できない、といった風に首を振る。
小声でも的確に拾う聴力に、もはや驚きはない。
「俺はさらなる可能性を求め、今は右腕だけで挑戦している」
右腕を突き出して笑うジルモーティン。この言葉を聞いて、利緒とクーネアは気がついた。
目の前にいる男は、何かが狂っている。
ならば、6組ほどの先人たちの方が参考になるだろうと気を引き締めた。
「さて、話はそろそろいいだろう」
親交は深まったと、ジルモーティンは話を切り出す。
「グウェイからカンナリオの相手をしてやるように言われている」
なんでも、試練の迷宮は耐久度が高く、相応の実力者が暴れても問題ないらしい。
マギニアの訓練場はその仕組みを模倣した造りで、本家本元の迷宮はその耐久性が圧倒的に高い。
『至王』の力よって箍が外れた後、環境の問題もあって利緒は十分にその力を発揮できていなかった。
その試運転を行おうという話だ。
ジルモーティンは、俺に敵わんようでは見込みなしと、本人にその気はないのだろうが、挑発する。
「そうですね。ジルモーティンさん、よろしくお願いします」
これは良いチャンスと、利緒は戦いを承諾した。
協議の結果、クーネアは横で見ていることになった。
利緒が危なそうだったら横槍有りだ、というジルモーティン。余裕に裏打ちされた自信と迸る覇気にクーネアは押され気味だった。
ジルモーティン本人は、いたって真面目である。
だからこそ戦えることに喜び、相手が強くなるのであれば、方法を問わない。
「よし、それじゃあ行くとしよう!」
一転して、祭壇へ向かうジルモーティン。
利緒とクーネアの2人は後に続く。
◇
数多の岩を積み上げた巨大な闘技場、それが覇王の祭壇である。
迷宮の入り口は、闘技場の中央にあった。四角く空いた穴から、巨大な階段が地下へと続いている。
「ここを降りていく。滑ると危ないからな、足元に気をつけろ」
ジルモーティンが右指を鳴らすと、周囲に光球が浮かぶ。
【碧の魔法「天照す高原の燈」】
利緒は眼に映るその名前に、便利ではあるけれど、名前負けしていると思った。
しばらく降りると、一層へと辿り着く。一層は道幅が広く文字通り一直線。
左右には巨大な柱が立ち並び、それぞれに豪華な装飾が施されていた。
利緒とクーネアは周囲を見渡しながら歩いている。
「柱一本一本別々な彫刻がしてある」
「ねぇ上見て。天井見えない」
「うわ、あれ岩削って作った花束だ」
「その横、水差しから流れる水だよ。すごいね」
2人は感動のままに言葉を口にする。
迷宮の一層。ここは試練の場であり、異界であった。
ここでは地上の常識は通用しない。
しばらく歩いて、ジルモーティンが止まる。
気がつけば、周囲を照らしていた光球は消えていた。
「ここなら、いいだろう」
喧嘩するには丁度いいと、ジルモーティンは拳を打ち鳴らして、リオに向かって構えた。
「じゃあクーは見ていてくれ」
「危なかったら助けるからね」
「ああ、よろしく」
柱の方へ歩いて行ったクーネアを見送って、利緒もジルモーティンに向かう。
「よろしくお願いします」
礼をして、利緒はジルモーティンを見る。すでにジルモーティンは飛び出していた。
【「鋼砕く狂鬼の纏」】
アリア、グウェイから教わった通り、利緒は強化魔法を唱えた。
すでに至近距離。正拳突きを打ち込まんと構えられた右腕を前に、利緒は腕を組み衝撃に備える。
ガンと、世界が揺さぶられる衝撃で、利緒は浮かび上がった。
防御に体制は崩さず、衝撃が胴体まで響かないよう腕に止める。
幸いその衝撃は、後方へ吹き飛ばされるエネルギーに化け、見た目以上にダメージはない。
「カンナリオ、本気出せよォ!!」
ジルモーティンの怒号。獰猛な笑みが本気の戦いを望んでいた。
「挨拶くらいしましょうよ!」
利緒は防御の構えを解いて、意識を集中する。
【「降注ぐ殲の咆哮」】
放たれた魔法に、クーネアが息を飲む。
それは以前の利緒では容易に使えなかった殲滅魔法。
ジルモーティンは一層笑みを深くして、魔法に飲み込まれた。
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