表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/83

『碧の章』第37話:覚えのない記憶

「ネメル、気持ちは嬉しいけど《盟符》は使えなかったんだ」


 利緒はグウェイから借りた9枚の《盟符》の事を話した。


「あれは先生がおかしいから成立しているだけだからね、リオ君には無理だよ」


 一回につき5,000超という莫大な魔力を要求する魔法。それこそが、グウェイが王たちと交わした契約。

 玖王の力を得た人間は、今、グウェイ以外にいない。それがどれほどの規格外である事か。


 《盟符》自体はグウェイに貸与する意思があれば誰でも使えるが、それを起動できる人間はごく僅かしかいない。

 使えないものを渡すグウェイは底意地が悪いのか、それとも利緒に賭けてのことか。

 その真意は利緒にはわからない。


「ねえ、先生のを見たならわかると思うけど、作ったばかりの《盟符》は名前がないの」


 確かに利緒の手元にある《盟符》には、ネメルの言うように紋様がない。

 そして、感じられる力の質が圧倒的に違う。グウェイのそれは、大きな力を感じたが、ネメルのものにはそれがない。


 封じられた人物の違いかと利緒は思っていたが、そうではないというネメル。


「魂の契約。お互いの誓いが交わされて初めて《盟符》は完成するの」


 利緒の手から、《盟符》を回収して、紋様が書かれるであろう中程を指でなぞる。

 完成させるために必要なピースが欠けている。


「それに契約の内容次第で、魔力の消費を減らすこともできるんだよ」

「魔法の威力を減らすとか?」

「それもあるけど、例えばさ……」


 精気で支払うとか。


 ネメルはゆっくりと近づいて、利緒の耳元で囁いた。

 利緒は反射的にネメルの肩を掴んで押し離す。


「何言ってんだよ」

「あはは、私は夢魔だからね。そう言うのも出来るんだよ」


 唇の端をペロリと舐めて、妖艶に微笑む。ネメルは左腕を胸の下に添えて、《盟符》は右手で胸に押しつけるように……。

 思わず目を逸らす利緒の態度に、どういう想像をしたのかな、と目を細めた。


 どういう想像か。利緒は自問する。


(どういうって、そりゃあ……えっ?)


 エロいこと、などと考えようとした途端に、ずきりと頭が痛み、朧げな影が頭をよぎる。

 得体の知れない感情が頭で渦を巻いて、それまでの考えを全て吹き飛ばした。


 利緒は歯を噛み締めて、どうにか言葉を吐き出す。


「僕は、それを受け取ることはできない」


 利緒は見知らぬ誰かへの謝罪を、頭の中で独りごちる。

 訳のわからない心臓を締め付けるほどの想い。


(なんだよ、これ)


 締め付けるような痛みがあるばかりで、その疑問に答えはなかった。



「……ですって、ディスティマン先生(・・・・・・・・・)


 ネメルは振りまいていた空気を和らげて、いつもの笑顔を見せた。

 声は、リオの背後へと向けられている。

 利緒はどうにか振り返って、そこに立っていたグウェイを見た。


「流石リオ君。甘い罠には乗らなかったですよ」

「どうせなら、無茶を押し通すくらいの気概が欲しいんだがな」


 ネメルによるこの一連のやりとりは、グウェイの仕込みだった。

 利緒は、ネメルの想像する理由とは全く異なる理由で罠を回避したのだが、そのことを察する人間はいなかった。


 ひとまず、ネタばらしをしたところで、グウェイは具合が悪そうに、頭を掻いた。


「ネメル、悪かったな」

「いえ、先生には返しきれない恩がありますから」


 利緒には理解できないはず(・・)の会話。

 しかし、何故かその理由がわかった。


 2人の過去。《堕ちたる夢魔》の意味、「()」の名前がネメルに与えられた理由。

 利緒は、知らないはずの知識(・・・・・・・・・)が湧き上がり、その奔流に飲まれた。


「それでよう、カンナリオ」

「……」


 グウェイが声をかけるが、利緒は気づかない。


「おい、カンナリオ聞いてるのか!?」


 グウェイの怒鳴り声を、利緒は遠くに聞いていた。

 利緒の不審な態度に、グウェイが肩を掴む。


「カンナリオ、どうした?」


 少し心配そうに尋ねるグウェイの前で、利緒を支えていた線が切れた。

 力なく崩れ落ちる利緒をグウェイが抑え、ネメルが慌てて体を支えた。


「どうした!?」


 グウェイは利緒を揺すって声をかけるが、答えはない。


「……アニマ?」


 答えの代わりに利緒が口にした名を、グウェイとネメルは知らない。


 そんな2人の心配とは別に、利緒は今にも破裂しそうな頭痛の中で、影が形になった瞬間を見た。


 泣きそうな少女の顔、利緒の身に覚えのない記憶。

 その隣には、クーネアがいて余計に意味がわからなかった。


 その言葉を最後に、利緒は意識を失った。

ブクマ評価感想指摘等々頂けると励みになります、宜しくお願いします。 

また、誤字脱字などありましたら教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ