『碧の章』第33話:これからの目標
「ちょっと待ってください。なんで、どうしてリオが行かないといけないんですか?」
静まり返っていた部屋で、クーネアの声が響く。
いかにも納得のいかない風であった。
ロガンと関係がありそうなのはわかった、《神無》という少女に目を付けれられているだろうことも良い。
しかし、最強と信じて疑わなかったグウェイを持ってしても手に余る存在を相手に、なぜ。
そんな憤りが、クーネアの声を荒げさせた。
《神無》の使う、空を覆うような刃から庇われたこともあって、クーネアは利緒に降りかかる理不尽に反感を覚えていた。
アルドの回答はなく、また部屋の中に静けさが戻る。とても気まずい雰囲気であった。
「ところで、それって誰が行くんです?」
空気を変えるように、ブレガが発言する。
まさか、カンナリオだけではないですよね、とアルドを見ながら問う。
「今のところ、カンナリオだけだ」
アルド、グウェイはマギニアの盾として、外に出ることはできない。
そして使える駒は、今の所ない。
クーネアは、この回答にまた身を乗り出そうとしたが、ブレガの返答ぼほうが早かった。
「……今の所、ってことは人員を募る想定はあると考えて良いでしょうか」
ブレガの質問に、クーネアがハッとした。リオのことに熱くなっていて、視野が狭くなっていたことにようやっと気がついた。
クーネアがブレガの方を見て、ブレガの方もクーネアの視線に気づいたようで、苦笑しながら頬を掻いた。
「今のカンナリオでは、荒野に近づくだけで危険である。よって、1ヶ月の訓練を行う。その間に同行者を集める予定だ」
利緒当人は現状改善を半ば諦めているが、相変わらず、人の意見を聞くことなく予定が決まることに苦笑する。
スケジュールは好きにしていいけど、クーネアが爆発する前にその説明をして欲しかったな、と利緒は思った。
「募集は3週後まで。それまでに要項に達していれば、君たちが参加できる可能性も、ある」
アルドの言葉に、クーネア、ブレガは顔を見合わせる。
要求は高い、短い期間で成長できるかはわからない。しかし、可能性は0ではない。
「ところで、私も参加できますか?」
アリアがピョコと手を上げた。
アリアの参加宣言は、皆にとって想定外のことであった。
利緒に何かしら思うところがあることは知っていたが、そこまで入れ込んでいたとは。長年アリアを見てきたグウェイにとっては、特に感慨深い。
「別に構わないが、アリアが参加するのであれば新しい寮監への引き継ぎはしっかりと行え」
アルドの言葉に、アリアはスカートの端を掴みお辞儀で答える。
持ち上がった顔は、いつもよりほんの少し明るい。
クーネアは、アリアの表情をみて浮かんだ、よく分からないモヤモヤとした感情に首をかしげた。
◇
「アルドさん、《偉大なる三頭》ってなんですか?」
一通りの騒動が終わった後、リオのがした質問に、アルドの目がいつもより少しだけ開いた。
「その名をどこで?」
「魔法とか異能とかがわかる、というのは知ってるでしょう? 今度は人の名前と二つ名的なものが見るようになったんです」
なにがきっかけか分からないが、今も注意して辺りを見渡せばそれぞれの名前が見える。
「二つ名ですか?」
カナカの疑問に、利緒は1人1人の二つ名を答えていく。
《賢鬼》、《撃鉄》、《魔導武装》、《壊滅の大魔道》、《金毛》、《銀毛》
「リオ君、私の二つ名はないんですか?」
最後まで名前の呼ばれなかったネメルが聞く。
「《堕ちたる夢魔》」利緒は見えてしまった、これを口にして良いものか本気で悩んだ。
「あの、本当に言ってもいいですか?」
利緒は、これからどう接していけばいいか良いかすら悩ましい。
この態度に何か察したようだ。後でしっかり話しましょうと言って、ネメルはそこで話を打ち切った。
他の面々も、一部、言いたいことがあるようだったが、空気を読んで口を噤んでいた。
「君は、本当にロガンについて知っていることはないのだね?」
利緒はうなづく。
アルドは利緒の能力に何か思うところがあるようだったが、利緒が嘘をついていないと、それ以上質問することはなかった。
「……偉大なる三頭とは、主人殿が作った人造生物のうち、初めの3体に与えた、言うなれば称号のようなものだ」
雷鳴、アルドグラシアリアス
月食、ハイネインプシュケ
地震、ニーアムナイクロティープ
アルドによれば、彼らは強さもおおよそ同じくらいらしい。そして、これから向かう場所にニーアがいる、とアルドはいう。
ニーアに会うという目的は、人員を集めた後で、改めてするつもりだったようだ。
「正直なところ、解放された記憶について無視できるものなら無視してしまいたい」
いつも通りの表情で、洒落にならないことを言うものだと利緒は思った。
「カンナリオ」
アルドが利緒の名を呼んでから、ただ一言、頑張れと言った。
利緒は余計に不吉なものを感じて、冷や汗が止まらなかった。
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