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『碧の章』第34話:カナカとギンコのお別れ

「ありがとうございました」

「ありがとうございましたー」


 カナカとギンコは、言い伝えについて報告するために、マギニアを出て故郷へと戻る。

 学園での生活も充実そていたようでクラス丸ごとが、見送りに来ていた。


 泣きながら、さよなら、またね、と抱きつく女の子。

 頬を薄紅に染めて視線を逸らしながら、またなと言う男の子。


「で、見どころありそうなやついるか?」


 グウェイ(クソジジイ)さえいなければ文句なしに感動の一場面だろう、と利緒は思った。


「……エドウィンがポルデスってなってるってくらいですかね」

「ポルデス?あーエドウィンは確か内弟子の内定決まってる奴だ。」


 利緒の新しい能力が知られるや否や、グウェイの指示で二つ名観察をさせられていた。

 実際にその人物を見ないと使えない能力のため、特訓優先で今までは実行する機会がなかったのだが、利緒がカナカとギンコ、2人のお別れに参加させてくれと相談したところ、送別に訪れるであろう人物一覧の資料を渡された。


 そして今回は、残念ながら望んだ結果は出なかったようだ。


「そろそろ、僕もいっていいですか?」

「そうだな、もうめぼしい奴もいないし、いってこい。俺もよろしくいってたと伝えといてくれ。」

「グウェイさんは挨拶しないんですか?」

「俺がいっても空気が悪くなるだけだからな」

「確かに」


 自分のことをよくわかっているじゃないかと、頷く利緒をグウェイは軽く叩く。

 その後、利緒の髪をグジャグジャとかき回してグウェイは去っていった。


「なんて言うか、素直じゃない人だなぁ」


 去り際にさりげなく手渡されていた、包装された箱が2つ。

 あまり大きくなく、荷物として邪魔にならないようにという配慮が見える。


「僕も挨拶してこよう」


 利緒は自分の分と合わせて、4つに増えたプレゼントを持って、屋根の上から飛び降りた。



「間に合ったみたいだね」

「リオさん!」


 実際はずっと観察していたのだが、そうと悟らせまいと、少し演技がかった台詞と共にやって来た利緒。

 突然の見知らぬ人物の登場に、2人のクラスメイトたちが騒めく。


「これ、グウェイ爺さんから」

「わぁ! ありがとうございます!」


 プレゼントを渡されて、嬉しそうにはしゃぐカナカを見て、一層喧騒は強くなる。

 利緒という男の登場に女子は色めき立ち、男子は怨念めいた視線を向ける。


「リオさーん」


 カナカがプレゼントを受け取った後、ギンコが利緒に抱きつき、周囲からきゃーという悲鳴があがる。


 何事かと利緒は硬直し、すぐに振りほどこうとする。しかし、聞かれたくない話ですので、と言われれば首に手をまわされたまま、その言葉に耳を傾けるしかなかった。

 怪しまれないようにリオさんも、と囁かれれば、言われるがままギンコを抱きしめた。


・1ヶ月後の遠征に参加するかはわからないが、必要と判断されれば誰かが派遣されてくるかもしれないこと

・必要な能力は、生存能力。カナカもギンコも、奥の手は持っているが継戦能力はない。街で防衛するならまだしも、旅についていけるほどではないこと。

・里には凄い人がいるから、もしその人が来ることがあれば宜しくお願いしたいこと。


 一通りの報告とお願いをして、ギンコが離れた。

 いつの間にか静かになっていて、ギンコの台詞に混じる息づかいも、クリアに聞こえていた。


 我に返って、辺りを見回すと、皆の困惑した視線が集まっていた。

 中でも一番戸惑っていたのがカナカだった。


 おっとりしている娘だったが、意外と積極的だったのか?

 普段と変わらずにニコニコ笑っているギンコに、利緒は苦笑する。


「そうだ、グウェイ爺さんからこれも預かってた。」


 少しいたずらとばかりに、先ほどのグウェイを思い出しながら、利緒は髪をグシャグシャにするようにギンコの頭を撫でる。

 利緒には邪な気持ちがあったが、これは残念ながら効果はなかったようだ。


 ギンコが戸惑ったのも一瞬で、えへへと笑う余裕がある。

 ちっとも笑っていない目で。


「えへへ」

「ふふふ」


 側から見るとどういう2人に見えるんだろうか?

 少なくとも利緒の笑い声は引きつっていた。


「そ、それじゃあ、私たちそろそろ行きます!」


 空気に耐えられなかったのか、カナカは大きな声を出してギンコを引き寄せた。

 その声にクラスメイトたちも我に返り、当初の目的を思い出す。


「またね!」

「手紙だすから!」

「気をつけろよ!」


 皆の声を背に、カナカとギンコは去っていく。時折背後に振り返りながら時間をかけて門を出ていった。


「ところで、さっきの人誰?」


 残された少年少女たちが周囲を見渡すが、そこにはもう利緒の姿はなかった。

 カナカとギンコの2人が歩いていくのとほぼ同時に、この後の展開を予想して利緒は逃げ出していた。



「ギンコがあんなことするなんて驚いた」

「カナカちゃんは、なにも感じなかった?」

「なにを?」


 ガタガタと音を立てながら道を進む竜車の上。

 2人の少女は故郷へと向かう。


「んー、わかんないならいいの」

「なにそれ、気になるんだけど」


 晴れ渡る青空の下、少女達の声は風に流されて消えていった。

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