『碧の章』第34話:カナカとギンコのお別れ
「ありがとうございました」
「ありがとうございましたー」
カナカとギンコは、言い伝えについて報告するために、マギニアを出て故郷へと戻る。
学園での生活も充実そていたようでクラス丸ごとが、見送りに来ていた。
泣きながら、さよなら、またね、と抱きつく女の子。
頬を薄紅に染めて視線を逸らしながら、またなと言う男の子。
「で、見どころありそうなやついるか?」
グウェイさえいなければ文句なしに感動の一場面だろう、と利緒は思った。
「……エドウィンがポルデスってなってるってくらいですかね」
「ポルデス?あーエドウィンは確か内弟子の内定決まってる奴だ。」
利緒の新しい能力が知られるや否や、グウェイの指示で二つ名観察をさせられていた。
実際にその人物を見ないと使えない能力のため、特訓優先で今までは実行する機会がなかったのだが、利緒がカナカとギンコ、2人のお別れに参加させてくれと相談したところ、送別に訪れるであろう人物一覧の資料を渡された。
そして今回は、残念ながら望んだ結果は出なかったようだ。
「そろそろ、僕もいっていいですか?」
「そうだな、もうめぼしい奴もいないし、いってこい。俺もよろしくいってたと伝えといてくれ。」
「グウェイさんは挨拶しないんですか?」
「俺がいっても空気が悪くなるだけだからな」
「確かに」
自分のことをよくわかっているじゃないかと、頷く利緒をグウェイは軽く叩く。
その後、利緒の髪をグジャグジャとかき回してグウェイは去っていった。
「なんて言うか、素直じゃない人だなぁ」
去り際にさりげなく手渡されていた、包装された箱が2つ。
あまり大きくなく、荷物として邪魔にならないようにという配慮が見える。
「僕も挨拶してこよう」
利緒は自分の分と合わせて、4つに増えたプレゼントを持って、屋根の上から飛び降りた。
◇
「間に合ったみたいだね」
「リオさん!」
実際はずっと観察していたのだが、そうと悟らせまいと、少し演技がかった台詞と共にやって来た利緒。
突然の見知らぬ人物の登場に、2人のクラスメイトたちが騒めく。
「これ、グウェイ爺さんから」
「わぁ! ありがとうございます!」
プレゼントを渡されて、嬉しそうにはしゃぐカナカを見て、一層喧騒は強くなる。
利緒という男の登場に女子は色めき立ち、男子は怨念めいた視線を向ける。
「リオさーん」
カナカがプレゼントを受け取った後、ギンコが利緒に抱きつき、周囲からきゃーという悲鳴があがる。
何事かと利緒は硬直し、すぐに振りほどこうとする。しかし、聞かれたくない話ですので、と言われれば首に手をまわされたまま、その言葉に耳を傾けるしかなかった。
怪しまれないようにリオさんも、と囁かれれば、言われるがままギンコを抱きしめた。
・1ヶ月後の遠征に参加するかはわからないが、必要と判断されれば誰かが派遣されてくるかもしれないこと
・必要な能力は、生存能力。カナカもギンコも、奥の手は持っているが継戦能力はない。街で防衛するならまだしも、旅についていけるほどではないこと。
・里には凄い人がいるから、もしその人が来ることがあれば宜しくお願いしたいこと。
一通りの報告とお願いをして、ギンコが離れた。
いつの間にか静かになっていて、ギンコの台詞に混じる息づかいも、クリアに聞こえていた。
我に返って、辺りを見回すと、皆の困惑した視線が集まっていた。
中でも一番戸惑っていたのがカナカだった。
おっとりしている娘だったが、意外と積極的だったのか?
普段と変わらずにニコニコ笑っているギンコに、利緒は苦笑する。
「そうだ、グウェイ爺さんからこれも預かってた。」
少しいたずらとばかりに、先ほどのグウェイを思い出しながら、利緒は髪をグシャグシャにするようにギンコの頭を撫でる。
利緒には邪な気持ちがあったが、これは残念ながら効果はなかったようだ。
ギンコが戸惑ったのも一瞬で、えへへと笑う余裕がある。
ちっとも笑っていない目で。
「えへへ」
「ふふふ」
側から見るとどういう2人に見えるんだろうか?
少なくとも利緒の笑い声は引きつっていた。
「そ、それじゃあ、私たちそろそろ行きます!」
空気に耐えられなかったのか、カナカは大きな声を出してギンコを引き寄せた。
その声にクラスメイトたちも我に返り、当初の目的を思い出す。
「またね!」
「手紙だすから!」
「気をつけろよ!」
皆の声を背に、カナカとギンコは去っていく。時折背後に振り返りながら時間をかけて門を出ていった。
「ところで、さっきの人誰?」
残された少年少女たちが周囲を見渡すが、そこにはもう利緒の姿はなかった。
カナカとギンコの2人が歩いていくのとほぼ同時に、この後の展開を予想して利緒は逃げ出していた。
◇
「ギンコがあんなことするなんて驚いた」
「カナカちゃんは、なにも感じなかった?」
「なにを?」
ガタガタと音を立てながら道を進む竜車の上。
2人の少女は故郷へと向かう。
「んー、わかんないならいいの」
「なにそれ、気になるんだけど」
晴れ渡る青空の下、少女達の声は風に流されて消えていった。
ブクマ評価感想指摘等々頂けると励みになります、宜しくお願いします。
また、誤字脱字などありましたら教えてください。




