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『碧の章』第28話:決闘の結末

 その戦いは、炎の爆発から始まった。

 ブレガが振り返りと同時に、灼熱杖(バリアルゲア)による炎を、利緒へと放つ。


「……この程度ならっ」

「避けるならっ!」


 利緒は、身体強化を使い横へと走り出す。

 ブレガはその進行方向を確認して、極寒杖(ブリズレア)を進行方向の先に向けた。

 利緒はそれを目視して、さらに方向を変更する。

 ブレガに向かって走ろうとするが、そこには既に灼熱杖(バリアルゲア)が向けられている。

 利緒は舌打ちして、さらに方向を転換し、走り続ける。


 2つの杖を交互に使い、利緒の動きをコントロールする。杖の力を起動するのにブレガ自身の魔力を使っているが、カードゲームと異なり、ターン制限はない。魔力自体もかなり余裕があるようで、次々と魔法が放たれる。


 右手の灼熱杖(バリアルゲア)が炎、左手の極寒杖(ブリズレア)が冷気。

 利緒はギリギリを回避しようとしたところ、冷気により地面に固定されかけた。強く踏みつけて氷を砕き何を逃れたが、回避のマージンをかなり多くの取る必要があるようだ。

 ある程度距離をとって回避しているため、余裕が段々と奪われていく。


 杖が向いている方向に攻撃が飛ぶため、回避できているが、魔法の起動が確認出来ないことも利緒の不利の1つだ。

 常に目視で杖の状態を確認し、現象の発生と同時に軌道上から逃げる。この連続が精神的によろしくない。


「カンナリオ。偉そうにしていた割に、逃げるばかりじゃないか。」


 両方の杖を地面に立てて、ブレガが攻撃を止めた。

 魔力の温存か、クールタイムが必要なのか、少しの時間ができたことに利緒も足を止めて向き合う。


「威力の制御が出来ないからね。終わる前にブレガにも見せ場を上げないと。」

「ハッ、随分と余裕だな。」


 ブレガの表情には余裕があり、利緒も余裕の表情を浮かべている。

 利緒はこの瞬間を使って、心の中で次以降の展開を考える。


(……ブレガはあれだけ連続で魔法を使っている。それなり以上に実力があると見ていい。なら、大技も選択肢に入れて良いな。)


 ふふふ、と笑い合う男たち。


「じゃあ、こっちも本気出すよ。」


 利緒は、そう宣言をして後ろへと大きく飛んだ。

 距離を取らなければ、その魔法の範囲に入ってしまうから。


【碧の魔法「降注ぐ殲の咆哮」】


「……っ! ディスティマンの弟子ぃ! 威力至上主義にも程があるだろうがっ!」


 利緒が発現した魔力に、ブレガは冷や汗を流す。

 使った魔力はロガンの心臓分を含めて5、一般的な魔法使い1人分の魔力量である。しかも利緒のそれは、一般的な魔法とは比較にならないほど、消費魔力に対して強化されている。

 魔力は1しか残らないが、連続で魔法を振らせることが出来る。


「くそっ、幾ら何でもふざけすぎだろう、それはっ!」


 あまりに非常識な魔法に、ブレガは思わず叫ぶ。ブレガが杖を地面に刺して、手を空に浮かんだ陣へと向けた。


 「降注ぐ殲の咆哮」は広範囲殲滅魔法の1つ。

 利緒が悪戯に使えば、多くの被害を出すことが出来てしまう。


「でも、君なら耐えられるだろう?」


 ブレガなら耐えられる、利緒にはそういう予感があった。


 利緒は知らないことだが、そもそも訓練場の中で発動する魔法は、致死性がかなり抑えられている。

 そうでなければ、異能を使ったとはいえ、利緒が生き延びられなかっただろう。


 空から破壊の雨が、ブレガに容赦なく降り注いだ。

 見学していた、クーネアと監督者の先輩は、黙ってその光景を見ていた。

 クーネアは、嫌な奴が死にかねない程の魔法を受けていることに、複雑な気持ちでいた。

 先輩は、ただただ唖然としていた。


 しばらくして、利緒の魔法陣が消える。

 魔法の光が止まれば、砂埃をあげることのない訓練場であり、ブレガの姿が見える。指輪に刻まれた魔法式だろうか、ブレガの頭上には魔法陣の盾が展開されている。


「……指輪が3つ、いや4つか。おい、カンナリオ! お前、頭がおかしいんじゃないか!?」


 姿勢を崩して、指輪が3つ粉々に砕けた。そして、1つが、2つに割れて落ちていった。


「僕の本気ってやつ、わかったかな。」

「ああ、こっちは本気以上で挑まないといけないようだよ!」


 利緒の魔法は、ブレガの闘争心に大きな火をつけてしまったようだ。

 残る魔力の少ない利緒は、心の中で汗を流しながら、強化魔法の重ねがけでどこまで出来るかを算段する。


 始まりは、利緒の優勢。ただしリソースの消費具合から今後の進展は不利か。

 お互いに構えて、次の行動の機会を伺う。



 2人の決闘の最中、別の思惑も動いていた。

 領壁の監視に、何かが引っかかった。その反応は一瞬のことで、その連絡が監視員に伝わった頃には、すでにそれは目的の場所へとたどり着いていた。


 利緒たちのいる訓練場で、それは急に起こった。

 利緒は、視界の端にスキルの起動式をみた。

 そして我が目を疑った。


蒼の仙術(・・・・)暗き今日の訪れ(・・・・・・・)」】


 空が影に覆われ、黒い雲が渦を巻いた。

 訓練所にいた4人は、慌てて空を見る。


(……ファンタズム・ゼノクロスなら、そう、あり得ることだ。でもさ、どうして……。)


 今、この瞬間まで仙術(・・)の存在を思い出せなかった(・・・・・・・・)のか。

 利緒は、あまりの異常事態に空の色が変わったこと以上に驚いてた。


 いつのまにか、見上げた先に、宙に浮かぶ人型の何かがいる。

 青い長髪が、風になびいて大きく広がっていた。ボロボロのマントのようなものを身に纏い、顔は、蒼い炎のような文様が描かれた仮面で隠されている。


 そんなユニットは、利緒の記憶にない。


「貴様、何者だ!」


 ブレガの声が響く。その両手は、仮面の人物へと向けられていた。利緒も慌てて、思考を仮面へと向ける。


「……古き友との約束を果たしにきた。」


 仮面から聞こえた声は小さかったが、はっきりと聞こえた。


【蒼の仙術「弱者の試練・衰弱」】


 訓練場を、仙術による強大な力が覆った。

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