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『碧の章』第29話:他色の闖入者

 黒い霧が訓練場に広がって、監視員の先輩が意識を失い崩れ落ちた。


【蒼の仙術「弱者の試練:衰弱」】


 ファンタズム・ゼノクロスに存在する蒼のスキルカード。

 一定以下の攻撃力、生命力を持つユニットの能力を奪う効果があった。

 蒼には試練と名のついたスキルはいくつかあるが、いずれも特定の条件に該当するユニットを動けなくさせる効果を持っている。


 現実とどこまで相違があるかわからないが、この時点で命までは取られないと利緒は考えた。

 カードと異なり、実際に倒れてしまった人間に対して、長引けばどうなるかわからないし、早めに対処した方が良いに決まってはいるが。


 ブレガは杖を構え、利緒は手を仮面の人物へと向けている。


「古い友、っていったよね。それって誰?」

「……ロガン」


 利緒は、クーネアがこちらに向かっているのを見て、時間稼ぎのつもりで質問した。

 返答はすんなりと返って来た。

 その名前は、古代遺跡を統治していたという人物の名前だった。


 利緒は無意識に、同じ名を持つ首飾りへと手を伸ばし、ぎゅっと握りしめる。


「ロガンと古き友って、どういうことかな」

「それだけ昔から生きてるってことか?」

「多分だけど、一族代々受け継がれている、とかじゃないかな。」


 言葉の意味を考える2人の元に、たどり着いたクーネアが会話に参加する。

 その推論に、利緒とブレガはなるほどとうなづく。


 当人曰く、古い約束らしいが、一体何を約束したというのか。


「おい、貴様。約束と言ったが何を果たしに来た!?」


 ブレガが叫ぶが、今度は答えが返ってこない。

 訓練場を覆う霧は、未だ薄れることなく漂っている。


 仮面を被った怪人は、それ以上の動きを見せないまま、膠着は続く。



「仮面のお人、あいや、待たれー!」


 4人が対峙していた所に高い声が響き渡る。新たな参入者が現れた。

 入口に、巫女装束を思わせるような、白衣に緋袴を身に纏った2人の女の子が立っていた。

 その髪は長く、金色と銀色。頭のてっぺんには、狐を思わせる耳が付いていた。


「貴様ら、どこからやって来た!」

「まぁまぁ、お兄さん。そう言うのはあいつをどうにかしてからですぜ。」


 ブレガの怒鳴り声を流すように、金色の娘が仮面を指差す。

 グゥ、と唸り仮面の方へと向き直すブレガを見て、2人の女の子もこちらへとやって来た。


 仮面の怪人は、その様子を見ても特に動くそぶりを見せていない。


「実はですねー、正直どうかなーって思うんですがー」

「が?」

「蒼い仮面がやってくるからどうにかしろ、って古ーい言い伝えがあるのですよ」


 銀色の娘は少しおっとりとした性格のようだ。この緊迫した空気の中でも、ゆっくりと喋っている。

 対照的に、ブレガがかなりイライラしていた。


「その言い伝えって、ロガンって人だったりしないよね?」

「ロガン?えー、と。いえ、違いますよ?」


 実際に聞き覚えのなかった名前なのだろう、クーネアの問いに首を傾げながら、銀髪の娘が答えてくれた。

 どうやら、こちらはこちらで別口の昔話らしい。


 金と銀の2色が並んで仮面の方へ向いている。その光景を見て、利緒はまた1つ思い出す(・・・・)


【黄のユニット「《金毛銀毛》カナカとギンコ」】


 集団の力を重視する黄らしさを表す2人で1枚のユニットカードである。


「そうだ、「宝煌く百代の宮」って使えます?」


 何かを思い出したように、カナカが質問をした。


「え?ああ、僕が使える。」

「あー……どこまでも言い伝えのままなんですねー。」

「じゃあ、私たちが「祀舞」を行うので、その間に使ってください」


 利緒が答えると、カナカとギンコは、お互いに手を広げて、両手を掴む。

 目を瞑り、祝詞を唱え始めた。


【黄の祀舞「王に捧げる貢物」】


 スキルの起動が見えた。


「え、ちょっと、僕の魔力足りないんだけど」

「どれくらいだ?」

「今2で4だから……500以上必要」

「それならこれを使え」


 ブレガから、瓶を渡された。


「4等級だ。500なら問題ない。」


 後で、きちんと請求するからな、とブレガが言う。

 そんな2人のやり取りを、クーネアはなんとも言えない顔をして見ていた。



 カナカとギンコの祀舞は続いている。


 「王に捧げる貢物」は黄の使う、全体を指定した除去スキルだ。

 そして「宝煌く百代の宮」は、自分のユニットが指定されなくなるスキルである。


 「全体を指定する」「自陣は指定されない」と組み合わせることで、相手だけを一方的に除去できるようになるという、カードゲームであるファンタズム・ゼノクロスにも存在するコンボ。


 手を繋いで祝詞を唱えていた2人がすっと離れた。

 向かい合うように立ってから、舞いを始める。


 その姿は幻想的であった。

 鏡写しのように踊る金色と銀色。2人が跳び、回り、振る度に、大きな力が集まっていく。


 シャンシャンと鳴る鈴の音が、段々と速くなっていく。

 シャンシャンシャンシャンと鳴る音は早く速く疾く……。


 ダン、と地面を踏みしめて、鈴は最後にシャンと大きな音を立てて、舞は完成した。


【碧の魔法「宝煌く百代の宮」】


 利緒が魔法を起動すると同時に、カナとギンコの間に橙色の光が現れる。


【黄の祀舞「王に捧げる貢物」】


 その光は、そのまま仮面へ向かって飛んでいき、そのまま怪人を飲み込んだ。


「「貴方が良き贄でありますように」」


 カナカとギンコは、目を瞑ったまま、祈りの言葉を口にした。

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