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『碧の章』第27話:男の子の喧嘩

「なぜ、俺が貴様と戦わねばならん。」


 至極真っ当なブレガの台詞に、利緒は勢いを挫かれた。一方的に挑戦を挑んだだけで利緒と戦う理由は、ブレガにはない。冷静になると、決闘紛いな言動が非常に恥ずかしい。幸いなことに、クーネアもブレガも利緒をそう行った目で見ていることはなく、心の中でほっとする。ブレガが現れて以降、訓練場のカウンターで無視を決め込んでいる先輩もそう行った余裕は無いようだ。


「……だが、そうだな。」


 ブレガが、クーネアを見て苦い表情で言葉を続ける。クーネアとブレガの間に割って入ったため、クーネアを庇うように利緒が立っている。頭に登っていた血が少し冷めたのだろうか、クーネアは利緒の背に隠れるようにして、ブレガを睨んでいた。どうやらこの反応がブレガにはよろしくなかったらしい。利緒の想定とは違っていたが、ブレガが乗って来た。


「いいだろう、力の差を教えてやる。」

「良かった。それじゃあ向こう行こうか。」


 利緒の「良かった」には、1人調子に乗って挑発した挙句、流されてしまったら立つ瀬がない、そんな気持ちも含まれていた。表情には出さないよう、笑顔を浮かべたままで、訓練場の中ほどへと歩いていく。ブレガがそれに続く。多くの魔法実験に使用される場所だけあって、その耐久は高い。連日のように大量の魔法が使用されているが、訓練場そのものへのダメージはほとんどない。


 中央に着いたところで、お互いに向かい合う。


「合図はどうしようか?」

「別に適当でいい。戦おうと思ったのは俺の八つ当たりだし、正直あのままだと止まれなくなっていたから、助かったって気持ちもあるしな。」

「なんだよ、それ。」


 ブレガは、自分の行動が如何なるものか。理解していたらしい。クーネアと離れ、2人だけの会話になって、少し冷静になったようだ。額に手を当てて、はあ、とため息をつくだけで様になっているなと、利緒は思った。


 好きな女子に辛く当たる小学生か、そこに適当な論理武装が入るあたりが学園に通う才能ある若者らしさなのか。悪い人間ではなさそうだがこの仕草を見た女性はときめきそう、それは許されざる。利緒の感情が変な方向に進み始めた。


「張り合いないなぁ。それじゃあ、なんかルール決めようよ。」

「ルール?」

「例えば、負けた方は勝った方の言うことなんでも聞くとかさ。」


 グダグダになってしまった空気を変えようと、それっぽいことを提案する利緒。


 午後2人目である、魔力値4に加え、外付魔力(ロガンの心臓)3もあり、普段のバイトの経験もあって、学生相手には同等以上に戦えるだろう予想があった。身体強化、破壊不能で突っ込み速攻を狙うも、中技でいくも、牽制混ぜつつ一撃狙うも色々出来そうだった。


「そうだな、それじゃあ、俺からは……あれだ。」

「あれ?」

「クー、……クーネアとの仲を、だな。取り持ってほしい、というか……。あ、それと、こんな願いしたこと、絶対に言うなよ!」


 利緒は、ブレガという人間に対する印象がだいぶ変わっていた。クーネアを追い詰めて退園させようという酷いやつかと思っていたが、クーネアに対する対応こそ難があるものの、全体的に好青年な雰囲気がある。その上その仲を取り持つよう願うなんて、青春か?


(くっそ、巫山戯んなよ。)


 笑顔のまま、心の中で血を吐く。イケメンは構わないが、その感情がクーネアに向いていることが、利緒には、なんとなく気に入らない。


「クーは渡さん。」

「別に、貴様のものではないだろうが!」


 始まりとは全く違う方向で、熱が上がっていく。なし崩し的にクーネアを賭けた男の戦いとなっていた。


「クー! 僕たちがこれから距離を取る。2人が止まったあたりで合図を出してくれ。」


 決闘の合図は、クーネアに御願いをした。クーネアは状況を把握できていないようだったが、お互いに背を向けて、1歩、2歩と離れていくのを見て、やって欲しい事を理解したようだ。10歩歩いたところで、立ち止まる。2人が止まったことを確認して、クーネアが手を上に上げた。


 1秒、2秒と静かな時間が流れ、クーネアが式を起動する。魔力が形となって、宙へと放たれて轟音をあげる。


 2人は振り向いて、初めの魔法を起動した。

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