『碧の章』第26話:やって来たブレガ
魔法の種別から、効果や狙いを予測しその範囲外に逃げる。
もしくは、30分に一度の虎の子を切って、破壊不能による根性論で押し通す。
利緒は、中々に酷い日々を送っていた。
初めは噂の少年に一目見たいと多くの人間が訪れた。
日が経つにつれて、利緒の異常性が知れ渡り、数多の対人魔法を実験を行うべく、申し込みが殺到した。休まる日は来ない。
給金は高い。高いが使う先がない。時間もないし、体力も無い。
魔法を避けるか、喰らうか、寝るか、食べるか。魔法を学ぶ場に相応しくなく原始的な生活だ。
借金の返済は滞りなく進んでいるが、何か大切なものを失っている気がしてならなかった。
「リオ、無理なら辞めていいんだよ?」
初めて利緒の訓練を見たクーネアはそれ以来、毎日利緒のところに来るようになった。心配そうに利緒を見るクーネアを前にして、利緒に逃げる選択肢はなかった。
男の子とは、女の子に見栄を張ってしまう生き物だった。
◇
その日の参加者は、今までとは一味違った。
【《魔導武装》ブレガ・デル・タラーラ。】
利緒の知る「ファンタズム・ゼノクロス」のカードの1人である。
場に配置した際に、特定のアイテム2枚を場に配置する踏み倒しカードだ。
2枚とは「灼熱杖・バリアルゲア」「極寒杖・ブリズレア」の2種類の杖である。
配置にコストがかかるが、装備ユニットの行動権を消費して、ダメージ+αの能力を行使することが出来る。2枚とも自身の装備になるため、2枚も持ってくるのは単体では無駄になりがちだが、手札消費はなくむしろ能力も2つが選べると思えばそれなりに優秀であった。
見た目は、金髪に青い目を持つ、彫りの深いイケメンだ。
服装自体は、学園の制服だが、ガタイが良く格好良く来こなしていた。
そしてブレガは、2本の杖を腰に差している。その2本こそ灼熱杖、極寒杖のようであった。
利緒は、錬金術的な感じに、杖を創り出したり、ポータルを開けて取り出したりするのか、などと思っていたが普通に所有者のようだ。
ちょっとした期待外れな感はあったが、《魔導武装》の2つ名を持つ男である。魔杖との親和性も高く、実力者であるようだ。
「ブレガ、何しに来たのよ。」
クーネアは棘のある声で、ブレガに問いかける。
方向性の違いにより、退園の危機に陥ったクーネアだが、その原因はブレガとの確執にあった。もとより心象はよく無いのだろう。その上で訓練場に来る=利緒が傷つく、となっては機嫌も悪くなる。
魔学の発展に犠牲は付き物という、相変わらず胡散臭いグウェイの言葉に、理解を示しても納得はしていない。利緒としては、そのおかげでクーネアに会えたこともあって、個人として、ブレガに思うところはないのだが。
「クー。君は確かに才能ないものにも魔法が使える可能性がある事を証明した。しかし、それは「イメラルディオ」の理念とはことなるものだ。我々は下を見るのではなく、より高い次元へと魔法を昇華していく義務があるんだ。」
ブレガが、開口一番クーネアの研究を否定した。
当人は至極真っ当な事を言っているつもりなのだろうが、いかんせんクーネアの事を一切考えておらず余計なお世話だった。訓練場に何をしに来たのか、と利緒は思ったが、この問答の時間分休息を得られているのならと口を挟まない。
「……あなたがそう言うから、私は1人で遺跡に行くことになった。」
「そう、だね。本当はそこまでするつもりは無かった。」
「ブレガの意見に逆らえる人が、あの研究室にどれだけいた?そんなことするつもりは無かった?貴方、自分が動いたらどうなるか、そんな予想出来ないんだ。」
クーネアらしからぬ荒い声に、ブレガが心底気に入らないのであろうことが見て取れた。哀れにもブレガ自身は、クーネアを少なからず想っているように見えるのだが、壁が厚い。
「君がその才能を無駄にしているからだ。あんな研究はやめて、俺のところに来い。」
「あんな?ブレガがなにを知っているっていうんだ!昇華?義務!?それこそ本来の目的を見失っている!」
どうもクーネアは感情的になり過ぎているようだ。
「ねぇ、クーネア。」
白熱し始めた会話を止めるべく、利緒は2人の会話に割って入った。
「……カンナリオ。」
「なに、リオ。」
2人とも睨むように利緒へと向く。ブレガは、邪魔者を見るように、クーネアはイライラを隠さぬままに。
しかし、この程度で怯む利緒ではない。
日々の精神修行に比べれば、この世に恐れるものは無い、そんな気すらしていた。
「「クー」って呼び方いいね。僕もそう呼んでいいかな。」
会話の流れに全く関係のない言葉に、クーネアは、目を見開いて、利緒を見た。
「お前はなにを言っているんだ!」
そのあまりに場違いな発言に、ブレガが怒る。ただ、利緒からしてみれば、ブレガこそなにを言っているのやら、だ。
「君は訓練をしに来たんじゃないの?だったらそうするべきだ。」
笑顔のまま、利緒はクーネアを引いて、ブレガとの間に立つ。この時、利緒は自分が凄く興奮していて、のぼせ上がっていたに違いないと、振り返って想う。
「ブレガ、君強いんだろ。どうだい、僕と戦ってみないか。」
利緒はマギニアに来て、初めて自分の意思で勝負を挑む。
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